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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
dungeon
285/485

23

「五階は基本的に侵入者が進みにくい構造ですねー」


 ついに迷宮に侵入してきた侵入者が六階に到達する。その侵入者の動向を観察してきた結果のノエルの感想がこれだ。実際に五階は暗闇により、明るくしないと進むのが難しい前半エリア、階段を上った先にある百の部屋からなる、内容を把握しなければ地図を作れない転移扉の部屋と、専門家でなければ解除するのも難しい罠で占められた罠の直線通路で構成されており、これらは侵入者を先に進ませるのを阻むための構造である。


「実は暗闇エリアは茸が生えてるんだけど……誰も気づいてないからそれで足止めできないんだよなあ」

「茸で足止め……幻覚でも見せるんです―?」

「幾つかの群生地があるけど、希少価値の高いものや、有用性の高いもの、危険だけど中毒性のある薬物に仕えそうな性質のものとかだな」


 光りのない暗闇、少しじめっとした、ある程度茸の栽培、自然成長がしやすい要素を付け加えて茸を置いている。これらの茸は、あくまで将人の主観によって判断しているため、全部が言った通り価値のある物ではないが、それでも多くの茸が結構な価値を持っていたり、麻薬のような性質を持っているものであったりする。中には精霊水と呼ばれる、どんな病気でも治すほどの効力を持った、将人の知っているファンタジー要素ではエリクサーやエリクシルみたいな呼び名がつく薬に使われる茸も群生させていたりする。


「なんでそんなことをするんですかー? 侵入者を喜ばせてどうするんです?」


 将人のやっていることは、ある意味侵入者に対する支援に近い。これらの茸を売れば、相応の稼ぎが得られ、それは迷宮探索を進めるのに役立つものとなるだろう。侵入者にとって助けになるようなことを迷宮の主がなぜ行うのか。


「稼ぎがよくなるってのは確かに装備の充実とかを図れるからあれだけど、例えば迷宮に稼ぎに来ている探索者は、そこで稼げるってわかればそれ以上は進まなくなるだろ? 稼ぐことができなくても先に進むってことは、それは迷宮を攻略すると言う意思があるってことだ。そんな相手は金があろうがなかろうが、確実に進んでくる。要は少しでも先に進む人数を減らすことが目的だな」

「へぇー。将人さんもそんなふうに色々考えてるんですねー」

「……いや、最初から考えて迷宮を作ってただろ?」

「私は自分の趣味を前面に出してるものかと思ってましたー」

「それはお前の方じゃないか?」

「む。私の意見は普通の迷宮の内容ですよー!」


 少しづつ、会話の内容が攻撃的になり、互いに内容が過激なものとなり、ヒートアップしてくる。十分ほど、言い合いをしたが、結局罵りあいに近い形になっただけで、何の決着もつかない無意味な結果に終わった。


「はあ……まあ、いいや。迷宮に関しての互いの意見はこれで終わっておこう」

「ふう……そうですねー。人それぞれですもんねー」

「しかし……六階か。ここで止まってくれればいいんだけど」

「六階は別に難しい場所じゃないすよねー? 確か、二つのエリアで構成されてましたっけー?」


 六階はノエルの言う通り、二つのエリアで構築されている。一つは五階のような洞窟だが、暗くはなく普通の明るさだ。地底湖や小規模な川と滝が存在し、広い洞窟内には天井から地面まで伸びて繋がっている、かなり大きな柱がいくつもたっている。六階の前半は上へと昇っていく形のエリアとなっており、石柱を上るための疑似的な階段になるような柱群、壁から突きでている足場などがある。なお、このエリアを抜けるだけならば、滝の上までなだらかに続く坂道を上ればいいだけだ。ただ、このエリアは結構厄介な魔物が多く、地底湖、滝の下にある地底湖には巨大な水竜が住んでいる。最も、近づかなければいいだけなので、そこまで危険はない。ただのおまけのボスのようなものだ。

 そして、洞窟を抜けた先は、樹々と草木で構成された空間だ。降りるにも、上るにも樹々や蔦の類を使わなければ下に降りることは難しい。巨大で危険な魔物はいないが、空を飛んだり、木につかまっている虫系統の魔物が多種存在し、生息数もかなり多く倒すだけでも一苦労だ。特に厄介なのが、虫特有の毒の攻撃や、樹々の持つ花粉などに含まれる毒素だ。単純に人を死なせるような毒だけでなく、麻痺や幻覚などの多くの状態異常を引き起こし、それらの対処をしていなければ先に進むのは難しい。

 実は、それ以上に厄介な部分に戻ることが難しいということがある。降りるほうはそこまで大変ではないが、上るとなると、樹々や蔦を伝っていく場合の難易度が降りる時よりも跳ね上がる。単純に上っていく大変さもあるが、そのうえで魔物の存在もある。攻略は容易ではない。


「森の方がなー。前半が簡単に見せてるから油断してくれると嬉しいんだよな」

「先に進むと、戻るのが大変……攻略できそうにないから戻ろうとしたら先に進むよりも戻るのが難しくて戻るに戻れない、ってことですかー。実に鬼畜ですねー」

「行きはよいよいっていうやつだな。でも鬼畜っていうな。これくらいは当たり前だろ。階段前に罠を置いて即死トラップしないだけ有情だろ」


 実際のところ、将人の言うようなことは出来ない。どうも、迷宮を作成するうえで、安全に通れる道が存在しなければ駄目であるらしい。この安全な道というのはあくまで罠の有無が主題であり、モンスターの存在は別だ。五階の罠の道も、罠に引っかからずに通れる道が存在する。針の穴を通すような正確さを要求される狭く複雑な道のりだが。

 最も、そういう場所が一つでもあれば、他の道にそういう罠を仕掛けることはできるので、全くそういう罠を作れないわけではない。あくまで、絶対に危険を背負わされる道が禁じられているだけだ。


「でも、なんで即死トラップを道に仕掛けるのがだめなんだ?」

「おもしろくないからじゃないですかー? なんだかんだで、迷宮は世界に必要なシステムですけどー、神様が作るときに遊び心を持たせてるみたいですしー」

「…………………ええー」


 もちろん、あくまでノエルがそう思っているだけで本当に神様がそういう意図で作ったとは限らない。そもそも、迷宮のシステムは完全に神様の制御下ではない以上、意図的なものでない可能性もあるだろう。最もそんなことが将人にわかるわけもなく、神様も暇なんだな、と思った。


「ところでですねー」

「……なんだ?」

「あの子、どうするんですー? 隣のエリアに置いてますけどー」


 十階である、迷宮の核のある将人とノエルのいるエリア、その隣に作ったエリアに一人の侵入者がいる。彼女はこれまでの階層を攻略してここに来たわけではない。五階、罠の道にある落とし穴に引っかかった結果、十階に落とされた人間だ。一応落下の衝撃を和らげ、受け止めるものを置いて安全は確保しているが、どうやら落下中に気絶したらしく、まだ意識が回復していない。先日チームが壊滅した、治癒術を使う貴族の女性、それが今将人のいるエリアの隣のエリアにいる。


「……どうするかなー。あの罠に引っかかった人間を、村でも作ってそこに放り込んでおくっていう考えだったんだけど」


 なんだかんだで将人も人恋しい。ノエルがいるとはいえ、他に見知った人間がいないというのは意外に精神に来るものだ。そういう人間を確保するための機構を作ったのはそんな気持ちからである。侵入者がいると迷宮の構築を弄ることは出来ないため、隔離した特殊なエリアに落ちてきた人間を置くことに決めているが、実際にどうするかはまだ決めていないようだ。ノエルと将人は落ちてきた人間の処遇について話し合いを始めた。

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