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階段の先は、無数の部屋だった。何を言っているかわかりにくいので、順を追って説明しよう。罠と書かれた道の先は無数の罠がある道とわかったので、あの後一度外まで戻り、罠を確認するために散った漬物石の代わりとなる石を探した。その数日後、五階の後半ルートに再挑戦することになった。
罠の道は明らかに外れ、少なくとも巧妙に隠れてわからない罠を発見することも、罠を発動させて無理やり進むことも俺たちには無理だった。うわさでは、罠の道を治癒術で無理やり回復しながら進むことを決めた探索者グループがある、という話が広まっているが、実際にできるのかどうかまでは知らない。とりあえず、俺たちは階段の道の方へと進むことに決まった。
階段の道は、上っている途中でいくつかのルートに分かれていた。どれが正解かは不明なので、とりあえず最初は一番左の道を進むことを決め、地図を作りながら先に行く。階段を上った先にあったのは、扉だった。その扉を開け、中を覗くと、数体の骸骨が転がっており、さらに複数の扉が存在していた。中に入ると、骸骨が動き出しこちらを襲ってきた。それ自体は大した強さではない。武器すら持っていないスケルトンの攻撃力など、推して知るべし。簡単に対処した後、部屋にあった入ってきた扉以外の扉を確認する。中はまた同じような部屋だったが、骸骨の種類や数が変わっていたりして、違う部屋であることが分かる。
どうやら扉の先は、同じような部屋の繰り返しのようだ。とりあえず、地図上で奥の方に行くように扉を開け、辿っていると、途中で入り口の扉のところに戻ってきた。扉の確認や、通ってきた道の確認、他の扉の道の確認などを進め、判明した事実は、地図が全く役に立たなないと言うことだ。扉の先、扉が通じているのはランダム……ではないが、遠距離、特定の扉の先に通じている、ということだ。今のところ一方通行や無限ループの類はないが、それでも位置が関係なく扉が通じているのが極めて厄介と言える。
何が厄介なのか。それは、現在位置が不明になることだ。一応、どこに通じているのかの記録はしているため、戻れないということはない。最も、途中でどこにいるかわかりにくくなることはある。一応、骸骨のおかげでどの部屋にいるかはある程度わかる。ちなみに、この骸骨は倒しても部屋を移動すれば復活するようだ。中に人が残っていたりすると復活するようなことはないが。どの部屋にいるかはわかっても、どこに行けば正解なのかが不明なのだ。行く先、奥へ行くと分かっていれば、他の扉を無視して奥へ進んでいけば次の階への階段へとたどり着くわけだ。しかし、扉の通じている先が連続していない、ワープするような空間では、どこに行けばいいのか、正解がわからない。つまり、ひたすら総当たりでチェックしていくしかない。
そんなこんなでひたすら部屋のチェックと、骸骨との戦闘を繰り返す。単純作業ゆえに、そこまで疲労はしないが、精神的に疲れるので、今は骸骨を倒した部屋で休んでいる。
「……漬物、おいしいのか?」
「おいしい。食べる?」
「いや、いい……」
軽い空腹を菓子の類なりを食べて満たす。隣ではアリムラが漬物を食べているのが妙に気になる……というか、何故漬物なのだろう。
漬物石の件からもそうだが、何故かアリムラは迷宮内に漬物を持ってきている。どこに持っているかなぞだったのだが、どうやら背中に担いでいるようだ。そこまで大きなものではなく、リュックサック位のものだが、それでも結構重いだろうと思ってしまう程度には大きい。何故担いでいるのか聞いた所、漬物を背中に担ぐことで、体力をつける、力をつけるのが役割のようだ。
魔術師と言えども、迷宮の探索において体力の消費は大きく、場合によっては力も必要になる。そんな時のために、ということなのだろう。実際、アリムラは結構体力があるのがわかっている。最も、それは理由としては半分ほどで、実際に本人が漬物が好きだから、という理由もあるのだろう。趣味と実益を兼ねたものなのだろう。
「同じ部屋ばっかりで気が滅入るぜ……」
「地図が作りにくい。すっごくめんどい」
「骸骨相手は楽でいいですが。これで武器を持っていたら厄介ですけど」
「……今はどの程度、部屋を調べた?」
レッツェが床に地図を広げる。この五階の階段の先のエリアは部屋のつながりが分かれていて、ワープする移動形式だ。その都合もあり、どこがどこに通じているのかが分からず、通った道は暫定的に数字を割り振っている。後でどこがどうつながったかわかった場合、それに通じた割り振りを再度行うことになっている。これだけでも、地図を作るレッツェとしてはとても面倒でやってられないと叫びたくなるほどの大変さだ。
「暫定で二十八。多分、同じ部屋だってところが三種。一番と七番と二十一番、三番と十七番、十五番と二十番と二十五番」
「……後で、地図を作るときは繋がりが分かりやすいように頼む」
「もうやだー、やってらんなーい」
体を大の字にして背中から床に寝っ転がるレッツェ。見ているこちらも、ルートの複雑さ、面倒さ、煩雑さがわかる。
「……ここ、扉少ない」
「他の部屋よりも、一つ扉が少ないな」
「端っこじゃねーか?」
「……部屋の形はどこも一緒ですし、他と違うとすれば、端であるからか、もしくは扉が隠されている可能性もあるかもしれませんね」
「ああああああ! やってらんない! もう、何でこんなに面倒な迷宮作ったかなあ!」
アリムラの見つけた他と違う部屋の特徴、そこから推測される内容を話していると、レッツェが叫ぶ。まあ、道の途中にある部屋にさらに追加要素があるかもしれない、となると地図を作る側としては地獄なのだろう。後でさらに統合して正確な地図を作る必要があるのだから余計な要素はないほうがいい。だが、これも必要なことだ。諦めて頑張ってもらおう。
レッツェが今日はもう探索しない、これ以上ルート増やすとストする、とか言い出したので、戻ってアリムラの言った扉の少ない部屋だけをチェックして戻ることにした。
「……お、ここ怪しいな」
ジェリコが壁を探り、明らかに怪しい部分を見つける。そして、特に何かを確認するわけでもなく、その怪しい部分を押しこんだ。
「おい、罠だったらどうするんだ」
「流石にわかるぜ、罠だったら」
ごごご、と音を立てて道ができる。レッツェが口から魂を出して放心している。中を確認するが、大して広くない。それを魂の抜け出たレッツェに話すと、死にかけていたが一応戻ってくることはできた。中にあったのは宝箱だ。中身はかなり珍しい回復薬の類だ。毎回中身が一緒かは不明だが、今度からはここを通るときは調べて回収していくようにしよう。
とりあえず、その隠された部屋の宝箱を回収して、迷宮から脱出する。地図をまとめる必要があるのでレッツェがしばらく休むと言って去っていった。レイズがそれを追いかけていく。俺の方はとりあえず、迷宮の情報に関して集めることにする。残りの二人も自分のことをやるようで、その場で別れた。