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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
dungeon
280/485

18

「やっと戻ってこれた…………」

「やはり地図があいまいに過ぎるな」

「地図作成を優先するべきですかね」

「でも、そうすると戦力が足らなくなるよなあ」


 五階から四階へと戻ってきた。五階の探索は遅々として進まない。最大の原因は、地図の完成度が低いせいで、攻略具合が不明になっている点だ。それに集中できればいいのだが、そうすると戦闘に参加する人間が減る。それはそれで問題だ。しかし、そうしてでも地図を正確に作ったほうが進行が遅くとも、確実に攻略は出来るだろう。


「とりあえず、今は迷宮の外に出よう」

「久々に休みてえ。数日暗闇はきついぜ……」

「あー、お風呂入りたい―!」

「確かにさっぱりしたいですね」


 今回の探索は終わらせて、いったん外に出て休むことで満場一致している。帰ると言うことで、この熱い森の中を行くのも不満はない。既にこの森の攻略はかなり進んでおり、単純に行き来するだけであれば、道中の魔物は時々現れる程度で、殆どの魔物が通る迷宮探索者に倒されている。道から外れればその限りではないものの、道を進む限りではかなり安全だ。空を飛ぶ魔物が時々襲ってくることもあるが、それは殆ど災害、事故のようなものと思ってあきらめるしかない。

 森の中、開けた道を通り、三階、四階の入り口の崖のところまで戻ってくる。途中空を飛ぶ魔物に襲われなかったのは運がよかったのだろう。森を抜けた先、魔術師がこちらとは別の方向、森に視線を向けて立っている。


「あの魔術師は……橋を架けるときに話しかけてきた魔術師だが、何をやっているんだ」

「また前のように何かあるのかねぇ。なんかじっと立ってるみたいだが」


 見る限り、なにやらぼーっと森の方を見ている様子だ。本来であれば、話しかけるようなことをするのは考えられないが、どこか不安になるような雰囲気をしていたからか、つい声をかけてしまった。


「何をやっている?」

「……他のチームの迷宮探索者? 森を見ているだけ」

「何故そんなことを? 探索はしないのか」


 魔術師の女性は森の方を向き、何も答えない。少しの間、森を見て、そして重い口を開く。


「……少し、話してもいい。明日、外で」


 そう言って魔術師の女性は階段を上って二階へと向かっていった。


「……ありゃ何だ?」

「何かあったのかしらねー」


 かなり変な様子だ。少なくとも、普通に探索者をしている状況ではない感じなのだろう。


「……まあ、俺たちも外に出よう。何か話をしてくれるみたいなことは言っていたし」

「明日、ですか。そのあたりの話はリーダーに任せます」

「そうだな、リーダーが勝手に話しかけたんだし」

「ジェリコの言う通りだけど……リーダーが女の子と二人きりかー」


 レッツェの言葉にジェリコが驚愕の表情を浮かべ、こちらに非難の視線を向けてくる。まるでこの裏切り者めと言わんばかりに。その話はあくまでレッツェの想像に過ぎない、少し落ち着けと言いたくなる。







 外に出て、各自でやりたいことをやり、休日を満喫する。他のメンバーがのんびりと自分の生活、行動をしているのに、俺は魔術師の女性の話を聞くことになっている。これは一応俺の自業自得というか、声をかけたことがきっかけなので、ある意味仕方がないのだが。


「……それで、結局何があったんだ? あんなところで一人で森を見て。そのあとも、一人で上へと戻っていたが」

「……私たちは三人のメンバーで迷宮を探索していた。私と、もう一人が魔術師。一人が前衛、タンクの役割をしていた。でも、それが通じたのは森まで。四階……正しくは五階、あの暗闇で私たちだけではどうしようもない。他のチームと協力体制を作ろう、そう提案すると、弱腰の姿勢と言われた。自分たちで攻略する、そういう意気込みがあったせいだと思う」


 魔術師が二人いるとはいえ、三人は少なすぎる。地図の作成などはどうしていたのだろう。しかし、低人数での攻略、それが今までできたいのか、理由はわからないが、他のチームと協力関係を作っての攻略は嫌だというのも珍しいと言うか、変な話だ。


「それで、意見が分かれた結果、チームが解散した。他二人は別のチーム、橋を架ける時に話を持ち掛けてきた貴族の所に行った」

「ああ、もしかして途中で会ったあの治癒の術師のチームか? でも、前衛しかいなかったが」

「もう一人の魔術師は別の所に行ってるかもしれない。別れた後のことは詳しくは知らない」

「そうか」


 しかし、そうなるとこの女性魔術師は今は一人、ということか。少なくとも、二階を単独突破できるだけの実力はあるのだろう。一階、二体のオーガに関して不明だが、あそこは攻略された時に移動すればいい。問題となるのが三階……四階の暑い森だ。あそこは流石に魔術師一人での突破は無理だろう。


「それで、メンバーが解散したから一人で四階の崖のところで森を見ていた、ということか?」

「……そう」


 悔しそうな表情をしている。なんだかんだで彼女も迷宮探索者だ。迷宮の攻略に向かえない、というのは苦痛というか、受け入れられない、受け入れたくない状況なのだろう。俺たち迷宮探索者にとって迷宮の攻略は日々の糧を得る仕事であると同時に、人生を潤すもの、生き甲斐の一つだ。


「それで、この後はどうするつもりなんだ? 一人で崖のところまでは来れても、それより先には進めないだろう」

「……迷ってる。攻略したいけど、できない。他のチームに行くのが妥当なところ。でも、今まで攻略してきたメンバーへの未練は残ってる」


 確かにいきなり解散したとはいえ、簡単に元々攻略をしていた仲間との縁を忘れ、他のメンバーと、というのは簡単じゃない。


「そうか」

「……ただ、話を聞いてくれるだけだけど、ありがとう。大分精神的に楽になった」


 仲のいい相手、というのがそうそういるはずもない。そうであるはずのメンバーとは物別れに終わってしまった。だから、こういう話をぶちまけれる相手はいなかったか。しかし、一人か。


「なあ」

「何?」

「俺のところに来て、一緒に迷宮探索をしないか? もし、他の仲間が戻って来て、やり直したいと言うのならすぐにそっちに行ってもいい。少しの間、五階の攻略を手伝うような感じで、一緒に迷宮の攻略をしないか?」

「……………………」


 魔術師の女性は視線を動かしている。いきなりの言葉、その意図や意味、自分の中での結論など、色々と考えているのだろう。


「……もし、仲間が戻ってきたらすぐに離れる。それでもいい?」

「ああ。本当に臨時という形でもいい」


 考え込む様子を見せる。元の仲間に未練はあるが、今のままではいけないという自覚はあるはずだ。いや、本当ならば未練を断ち切ったほうがいいだろう。中途半端なものを残していてもしかたがない。ただ、それをするにはやはりまだ整理はつかないだろう。


「なら、少しだけお世話になってもいい」

「ああ、頼む」


 他のメンバーに相談せず決めてしまったが、魔術師の加入を断るようなメンバーではないだろう。ただ、ジェリコだけは俺の方を睨んできそうだ。そういう関係でもないし、本当に何でもないのだが、あいつは少しそっちのことをこじらせてきている感じだ。

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