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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
dungeon
279/485

17

「レッツェ! 右を照らしてくれ!」

「ああ! くそ、蝙蝠めっ!」

「く、また暗闇に逃げましたっ!」

「あー! もう、ウザったいー!」


 現在、五階を攻略中の俺たちだが、かなり混乱気味だ。これまでの空間は、入り口付近の若干暗い空間を覗くと、太陽の通らない屋内、洞窟のような空間である場所だったのに明るかった。たいていの迷宮は、そんなふうに明るい空間であるか、洞窟のような暗めな空間であるか一定の空間であるのが基本だが、この迷宮はここに来てほぼ完全な暗闇が作られてしまっていた。

 暗い場所、というのはもともと迷宮を攻略するうえで何度も経験しているが、この迷宮では殆ど暗い所はない。入り口にわざわざたいまつがつけられている部分が暗くなっている程度で、他の場所は明るい。故に、明かりそのものは持ってきてはいたが使うことがなかった。温存されており、一応常に持っていたので問題はなかった。何が問題かというと、今まで明るい空間だったのにいきなり暗くなったことで、目が慣れていないことである。また、途中までの感覚と、この暗い場所での感覚は若干違い、ここでの戦闘はこれまでの流れとは勝手が違い、大変となっている。


「レッツェ!」

「もう、誰か他の人も松明持ってよ! 私ばっかり忙しいじゃない!」

「攻撃人数減らすとジリ貧だぜ……」


 レッツェが言うように、松明を持つ人数を増やせば周りは明るくなり見える範囲が広がる。しかし、それは攻撃できる人数を減らすことにつながる。攻撃できる人数が減れば、戦闘時間が伸びて攻略が遅れる。しかし、明かりがなければ敵が逃げて結果的に戦闘回数が増えて攻略が遅れる。どちらを選択するかはそのチームの攻撃要因や、探索要因によるだろう。人数を増やせれば一番いいのだが。


「ヒカリゴケとかをまきてえな……」

「迷宮に生物を持ってきても、繁殖は難しいみたいですよ?」

「けっ、そりゃまた面倒だなあ」


 ヒカリゴケの類を迷宮内で繁殖させ、壁に貼り付けて明かりとする、という考えは不可能か。だが、例えば何かに詰めてランタンのような光源とする案はどうだろう。いや、光量が足りない。せめてある程度の光量がないと役には立たない。


「少し休もう、明かりの準備を」

「……結構襲撃がありますからね、そうしますか」

「全然進まねえな」

「仕方ないとはいえ、進行が遅れちゃうなー」


 たき火を作り、十分な明るさを確保する。この規模の明るささえ確保して移動できればいいのだが、松明ではこの明るさは無理だ。かといって、たき火を動かすのも難しい。たき火を作っている場合は、ある程度の強さ、明るさになれている魔物でなければ襲ってこないので、そこそこ安全は確保できるが、松明だけだと蝙蝠のような弱いが多くいて攻撃頻度の多い面倒な魔物がよく襲ってくる。明るさを確保しないと見えにくく、近づいても気付くのが遅れてしまう。厄介な魔物だ。明るくすると逃げるため、強い光を出すような道具があれば追い払いやすいのだが。


「地図はどうだ?」

「蟻の巣みたいにあっちこっち、暗くてわかりにくいから全然。松明持ってるとか片手になるから書きにくいのもあるかな」

「そうか……」


 レッツェが松明を持っているため、地図を書くのもままならない。それでも、簡単には書いてくれているのはありがたいが、暗いせいで周辺の様子も確認しにくいので本当に通ったところだけの簡素な地図だ。他の面子が松明を持てばいいのかもしれないが、攻撃役が今の三人から減ると大変になる。


「たき火がついたー! 松明消すよー!」

「……つけたままじゃダメなのか?」

「熱い! 持ってると疲れるし、火が近いから熱いの!」


 それもそうか、とレッツェの言い分に納得する。たき火をつけ、休むのだが、他の迷宮探索者の邪魔にならないよう、ある程度広く、通路から外れた場所でやらなければならない。


「はあ……これで蝙蝠は寄ってこねえけどなあ」

「他の魔物は寄ってくるのもいますからね。光があると言うことはそれを生み出す存在がいる、ということを向こうも理解しているようです」


 蝙蝠以外では、この五階に出る魔物は洞窟に住まう魔物や暗闇に適応した魔物、光が関係しない魔物だ。特に、ここで出る魔物で厄介なのは毒持ちの蛇系の魔物と、物理攻撃が効かない核のないタイプのスライムの魔物だ。スライムの魔物は明るさに関係なく寄ってくるが、火を近づければ逃げるので対処そのものは楽だが、物理攻撃が効ない厄介さがある。蛇はある程度暗くても余裕で追ってくるし、壁を移動してきたりして不意打ちされる危険が高い。そして、毒を持つのが厄介で、それを解消しなければ下手すれば死ぬ危険もあるくらいだ。他にも、暗闇に隠れて動く色々な魔物は厄介だ。


「リーダー、新しい人入れようよー」

「それが難しいのはわかっているだろう?」

「でもさあ……」

「確かに新人が入ってくれればありがたいけどな。でも、今更一人で探索する、っていうのはいないだろ」


 そんなことを話していると、明るいからか様子見も兼ねてか、他の探索者が通りがかる。


「あら……こんなところでご休憩かしら?」

「そんなところだ。そちらは探索中か?」

「他に何があるのかしら? 探索以外で……来る人もいるけど、最前線で探索以外のことをしている人はいないでしょう?」

「そうだな」


 女性探索者、それも貴族の類か。見た目からして、武器を持たない魔術師タイプ……いや、魔術師でも武器を持たないと言うことはないはずだ。となると、相当に珍しい聖職者タイプ、治癒の術師か。治癒術が使える人物がいれば、ある程度の無茶ができる。他のメンバーを見てみると、全員が前衛だ。下手な後衛がいるよりは、回復ありで無茶をする方が早いし楽だろう。その分、前衛は傷つきやすく、探索者からの引退も早まるらしいが。


「お先に行ってるわ。せいぜい頑張って頂戴」

「ああ。そっちこそ、無理して戻ってこれないことにならないようにな」

「誰に物を言っているのかしら」


 ずいぶん自身があるようだ。そういう所は貴族、上位者の傲慢さというか、そういうものが垣間見える。迷宮は貴族だろうと、女性だろうと、関係なく命を奪う。もう少し謙虚になったほうがいいと思うが、所詮は他人事だ。彼女たちが去っていく後ろ姿を見届ける。


「あれ、大丈夫かしらね」

「ああいうのはそのうち壊滅するってのがいつものことだぜ」

「……アドバイスくらいはしておいたほうがよかったのでは?」

「ああいうのがそういう話を聞いてくれるわけねーって」


 ジェリコの言う通り、他のチームの話を聞く探索者の方が少ない。例え、真実をつく正論であってもだ。


「そうですね……」

「それより、どうする? このまま探索を進める?」

「次に休憩を挟んだら、帰還だな。そろそろたき火を片付けて、攻略を再開する」

「りょーかーい」


 レッツェが松明の準備をはじめ、レイズが荷物を片付ける。俺とジェリコは火の始末を行う。再び、迷宮の暗闇に身を投じることになる。五階だけが暗闇ならば、まだ安心できるのだが。もしこの先も同様の階層があれば、攻略そのものを考えなければならないだろうな。

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