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「ここをまっすぐ行くとちょうど角の部分……かな?」
「前に見つけた端の部分か」
地図上ではどちらも壁が一直線に続いている。もしこの先が行き止まりでなければ以前結論を出した行き止まりのある真っ直ぐな通路が北端ではないことになるがそれはそれで重要な情報だ。そして、もしこの先が行き止まりでれあば今俺たちのいる真っ直ぐな道は西端になると思われる。
「東、北、西の端の部分がわかれば、多分南端も絞れるかな」
「この迷路が正方形であるならそうでしょう」
「意外とそういうところは律儀なもんよ?」
和やかなムードで話が続いているが俺たちも地図が分かる目途がついていたせいかここが迷宮であることを少しの間忘れかけていた。しかし通路の先にいた小鬼が一気に和やかな雰囲気を元の探索者の空気に戻す。
「ゴブリンだ、呑気に話してないで倒すぞ!」
「今更ゴブリン一匹に苦戦するわけねーって!」
たった一匹のゴブリン、武器すら持っていない相手はもはや脅威と言えるような相手ではないが先ほどまでの雰囲気でもし数をそろえて不意打ちを受けていれば、犠牲が出る程度で済めばましで、最悪全滅の危険もある。ゴブリン相手とはいえ魔物は魔物、危機意識の復帰に役に立ってくれた。
「……あっさり終わりましたね。しかし、気づくのが遅れました」
「ジェリコ、索敵あんたの役目でしょー」
「うっせーな……悪い、少し油断してたわ」
攻略が進み、迷宮内でも魔物の出現数は少ない。そのせいか、だいぶ楽に進めるという意識が出てきた。迷路は魔物が少なくても迷わせることで足止めし、そのうえで魔物が少ないせいで攻略が難しくないと錯覚させる意図があるのかもしれない。もし、この迷路の先が過酷な内容になっていれば、ここで生まれた油断が死を招くことになる。
「油断大敵だな。迷路内ではそこまで危険を意識しなくてもいいかもしれないがこの先はわからん」
「そうですね。しかし……先ほどのゴブリンはこの先から来たのでしょうか?」
先を進むと、行き止まりに出る。
「さっきのゴブリン、ここから来たわけ?」
「別にここにゴブリンがいてもおかしいわけじゃないだろ」
「でも、妙ですね」
「…………少し、ここで待ってみるか?」
一つだけ、この妙な感じを受ける理由に思い当たるものがある。
「リーダーがそういうなら、別にいいけど」
「とっととここを抜けたいけどなぁ」
「まあまあ、いきなり意識の切り替えも難しいですし、少し休んで切り替えましょう」
少しの間、この行き止まり、道の端が見える位置で休む。なぜ、端まで行って休まないのか、というのは少々理由がある。しかし、行き止まりか。迷宮内に出現する魔物は強くないが端に追い込まれると危険かもしれない。端の探索は今回で終わりにしてやはり下への階段を探そう。
そんなことを考えて時間を潰していると、光の粒が行き止まりに集まり始める。
「な、なにこれ!?」
「……まさか!」
「知ってるのか、レイズ!?」
「……知識としては。恐らくですが魔物が出現するときの兆候です」
迷宮内において魔物は繁殖する以外の増加方法が存在する。それがこの、光の粒が集まって魔物が出現する現象だ。迷宮の魔物は迷宮外の魔物と違う理由の要因であると思われている。
「ゴブリンが出た!」
「マジか!」
「やはり……ということはこの端は魔物の出現地点なのでしょうか?」
「そんなことは後だ。とりあえず、現れたゴブリンを倒すぞ」
迷宮内の魔物の出現地点は重要な情報だ。場合によっては、その場を独占することで、魔物自体を資源として得ることが容易になる。最も、今回みたいにゴブリン一匹しか出現しない、なんてものは大した……いや、ほぼまったく価値がない。それでも、情報としては重要だ。出現する魔物の数や種類は場所によってほぼ固定であり、再出現にかかる時間は同じ階であれば他もほぼ同じであることがほとんど。つまり、魔物の増加ペースが判明する。
最も、俺たちがそれをわかってもそこまで重要な価値があるわけではない。ただ、この情報は村にある迷宮の情報を管理するところにもっていけば、結構な報酬がもらえる。それこそ、普通に探索するよりもはるかに儲かる。既に情報が入手されている可能性はなくはないが、帰ったら報告したほうが良いな。
「二回目の出現を確認、これで確定ですか」
「魔物の出現地点、そんなものもあるんだー。もしかして、他の端もかな?」
「さあな。魔物がでるまで……八欠けの砂時計が落ちるよりも早い、か」
八欠けの砂時計は、一日草の咲いている花が次の花に代わるまでの間、それを半分の半分の半分にしたものだ。それが落ちるよりも早い、となると結構な再出現の早さだと思っていい。
「大体検証は済んだな。そろそろ次の階への階段を見つけるぞ」
「対称の位置……かなぁ、やっぱり」
「南端を調べますか?」
「いや、西端で階段を探す。わざわざ南に行く必要はない」
「本当に西にあればいいけど……」
そんなことを言いつつ、西端を南へと向かう。魔物は出ない。
「階段見つけたぞー!」
「でかしたジェリコー!」
先を行っていたジェリコが階段を見つけたことを報告してきた。すぐに先に急ぐ。
「この先に何があるのかねぇ」
「用心していった方がいいでしょう。一階でしっかりとした対処が行われている以上、ここで何かあってもおかしくはない」
「そうだね。慎重に行った方がいいよね」
「罠があるかどうか、用心するぞ」
罠の有無を確認しながら、ゆっくりと階段を下りる。
「陰湿な奴なら、上から岩を落としてきたりとか」
「罠はないから恐らくそれはないだろ」
罠がないとはいっても油断は大敵だ。後ろの警戒もしつつジェリコを先頭にして先に進む。
「お、っと!? おい、ちょっと止まれ!」
ジェリコが急に止まり、少し前にいたレイズが衝突し、レッツェ、俺と連続してぶつかる。
「ちょっとジェリコ!? いきなり止まらないでよ!」
「うっせぇ! 落ちる、落ちるから、とりあえず後ろに下がれ!」
ジェリコが切羽詰まったように叫ぶ。何かあったのだろう、急いで言われた通り後ろに下がる。レッツェも俺と同じように一歩下がり、レイズもそれに合わせて後ろに下がった。
「あぶねえ……」
「階段を降りたらすぐに崖、ですか……何とも意地の悪い」
階段を下りて、そのあと少し上を向くようなわずかな坂道となっている。本当に気付かないくらいの短い坂道だ。そのせいで視点は上を向いて、そのうえ、三階は壁から突きでた岩の柱の上を通るような道になっている。いや、それは正確ではない。三階の階段を出た先は崖になっており、横に階段がある。階段の先は、下に見える森、年中暑い地域で見られるような森に降りる階段と、途中で壁から突き出ている柱に移れる場所がある。
つまり、三階は下に降りて森を進むか、空中に突き出ている巨大な岩の柱を進んでいくか、なのだろう。森は広いが、この高い位置から、端の壁が見える。そして、かなり遠く、とても遠い森の先に、四階への階段と思わしい壁の穴が見える。
「……どちらを行った方がいいと思う?」
「下」
「森」
「人間は空を飛べませんからね」
「……そうなるよな、やはり」
全員に意見を聞いて、満場一致で下に降りて森を行くことに決まった。突き出た柱の上を行けば、恐らく早い。しかし、だ。空を飛んでいる鳥妖、翼竜の姿が見える。恐らくだが、この三階の広い空中には、そこら中に空を飛ぶ魔物がいるはずだ。空中から魔物に襲われれば、岩の上では戦闘も碌にできない。森を行ったほうが比較的安全だ。
「……一度、戻るぞ。森の中を進むことなんて想定してないからな」
「普通迷宮に森があるなんて思わないもんね」
「たいていの迷宮は洞窟だからな」
「……森だけですむでしょうか」
レイズの言葉が妙に不安を膨らませる。この迷宮の主は意地が悪い。森以外の、何らかの環境があってもおかしくはない。例えば……水場、水中を生かせるような階とか。不安になる。水没した迷宮自体は存在していなかったわけではない。もし、水没した場所があるなら魔術師がいないとどうしようもない。場合によっては、他の探索者との協力が必要になるだろう。




