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「なんで閉まったんだ?」
「わかるわけない。だが……罠が作動するってことは、何かが駄目ってことだな」
迷宮に入ることすらできないとなると、それはそれで問題が起きる。しかし、入れないと分かることもまた一つの情報だ。
「しかたねぇ。いったん外に出るか。大した情報はねえが……」
通路に入った人員の中で最後尾となっていた男性魔術師が通路から出る。すると、扉の方に変化が起きる。
「お……? おい、扉が開いたぞ」
「何? 時間制か……?」
「中の様子は……変わらないな」
扉が閉まっている間に臨戦態勢を整えるとか、何かがあるかもしれないと思って中を覗いたが特に変わった様子はない。少なくとも、中の様相を変化させるために覆い隠したというわけではないのだろう。そういったケースも迷宮ではあり得るらしい。
「開いたのであれば、やはり行くと言うことでよろしいですね」
通路の外側へ出た男性魔術師が通路に戻ってくる。それに伴って扉が閉まり始めた。
「おい、閉まったぞ?」
「……おい、魔術師さんよ。一度通路の外に出てくれ」
「え……ああ、いいけど」
男性魔術師が外に出ると閉まり始めた扉がまた開いた。なるほど、流石にこうも同じ変化が起きれば俺でも原因はわかる。
「魔術師がいると扉が閉まる……理由はなんだ?」
「恐らくだが、人数制限だ。この場所への過剰な侵入を防ぐための人数制限を駆けるための通路なんだろう」
今この場にいる人数は六人。魔術師……一人を含めない、となると五人で二体のオーガと闘わなければならないといることになるだろう。
「誰か一人を残さなきゃいけねえ……となると、だれが残るかは明白だな」
「一番戦闘能力が低い人物」
「……俺だよなあ」
攻撃の要の魔術師二人、前衛の二人、それらを除くと前衛に近い戦闘能力を持つ中衛の男と、罠解除や気配察知能力の高いスカウト。誰を戦闘に連れていくかは考えなくてもわかる。
「通路の外で待機していてくれ。そんな長時間戦闘していることはないだろうが、もし帰ってこなかったらしっかり戻って伝えろよ?」
「縁起でもねぇなぁ。ま、わかってる、頑張って来いよ」
スカウトの男が通路の外に出る。入れ替わりに通路の外にいた魔術師が通路に入ってくる。扉は閉まらない。確実に人数が問題だと言うことがはっきりする。
「よし、まずは魔術師二人、入ったら速攻で一体に魔術攻撃を集中させて沈めろ。もし倒せな買った場合、俺は攻撃しなかったもう一方を抑える。その間に、お前らがなんとか倒せ。一体さえ何とかすれば、後のもう一体は囲んで袋にするだけだ」
「わかった」
「わかりました」
魔術師たちが頷き、話し合う。同時に魔術を行使する場合、反する属性の魔術を使用したりすると威力の減衰などが起こるため、使用属性を合わせたほうがいい。すぐに使用する魔術は一番攻撃性能の高い炎の魔術で決まったようだ。詠唱をはじめ、魔術の準備をしている。こちらも、武器をもっていつでも飛び出せるようにする。詠唱を終え魔術の発動待機の状態になったようだ。それを大男が確認し中になだれ込む合図をする。
「魔術師は中に入って右にいる奴を攻撃しろ! 行くぞ!」
だっ、と大男が中へと駆け込み、左にいるオーガに突っ込む。こちらの攻撃対象は右のオーガ、しかし、先に魔術師の魔術の攻撃を確認してから出ないと動けない。中に入っても、すぐに攻撃に移ることは出来ず、魔術師の攻撃が行われるのを待つ。
「炎よ撃ち貫け! フレイムシュート!」
「火精、炎獄より来たりて骨の髄まで焼き尽くせ!」
オーガに数発の炎の矢が撃ちこまれ、足元から蛇のようにのたうった炎がオーガを包み燃やす。一瞬だけ燃やされるようなものではなく、数秒に渡り炎に包まれる地獄、オーガの叫びが炎の中から轟く。炎が拡散し、魔術が終わって中にいたオーガはかなり炎により焼かれ爛れていた。しかし、まだ息がある。
それを確認し、地を蹴って一気にオーガに近づき懐に入る。熱による苦しみで、こちらが懐に入ったことには気づいていない。槍を一気に顎に叩き込む。いくらオーガと言えど、頭を貫通して生きているはずもない。顎を貫き、脳、頭蓋骨まで一直線に貫いた感触が届く。身体を蹴って槍を抜くと、その反動で立っていたオーガが倒れる。迷宮の魔物は死ねばそのうち死体が消失するが、それを確認している時間はない。
もう一方のオーガと大男が戦っているのが横目に見える。中衛を任される男が、魔術師たちの前に立ちながら遠距離攻撃を仕掛けている。こちらへの加勢はしていなかったが、向こうに加勢をしていたようだ。こちらも参加して、早く終わらせよう。
「ふう。全然問題なかったな」
「俺、待ってるやつを呼んでくる」
中衛の男が通路の外で待っているスカウトを呼びに行った。
「大丈夫かな? 門番を倒したけど、それでも迷宮の罠がまだ作用しているかもしれないけど」
「それならそれで扉が閉まるだけだ、問題ないだろ」
問題なく二人が中に入ってきた。
「扉の罠は作動しなかったようだな」
「中を確認できる位置で待ってたが、お前らが入っても扉は閉まらなかった。中に入ろうと通路に移動しようとしたら、扉が閉まりかけたからすぐに戻ったよ。恐らくだが、本当に中に入る人数を制限するためだけのものなんだろう。普通なら、ああいう扉は中に入った奴らを閉じ込めるために閉まるものなんだが……」
「罠に関する考察は別にいらないだろ。門番を倒した以上、これ以上ここにいてもしかたねえ。先を見に行くぞ」
門番を倒したことで、先に続く扉が上がっている。その先には入ってきたときと同じような通路が続いていた。同じような罠があるかもしれない、ということでる通路をスカウトが進み、罠の有無を確認する。門番を倒したことで上がった扉以上の物はない。
「なんか拍子抜けだな。罠は特にないぜ。入り口と同じような部屋と、降りる階段があるだけだ」
「つまんねぇなぁ……」
「何もないならないでいいじゃないですか」
その通りだ。安全に進めるに越したことはない。
通路を進み、広い部屋についている階段を下りると、その先に会ったのは通路だった。部屋ではなく、単なる通路。ただ、ある程度の大きさがあり、俺たち全員が横に並んでもまだ余裕があるだろう。
「……通路ばかりだな」
周りを見ても、壁と通路だけだ。奇妙なことに、みちは直線通路しかなく、曲がり角も直角だ。迷宮の形状としては直角の道は珍しくもないが、こうも大量に続くケースは少ない。確かこんな感じの道には覚えがある。確か…………
「迷路タイプか?」
「ん? 迷路タイプ?」
「ああ、ラビリンス形式とも呼ばれるものですね。主に通路だけで構成されているマップ何ですが、広い中を歩く人を迷わせる形状です。恐らくですが、かなり広いはずです。スカウトの人は地図の作成をお願いします」
「罠も確認しなけりゃいけないのに、地図も作るのか」
「このタイプの迷宮は地図を作らなきゃ一生迷いかねない。頼むぞ」
通路を進む。同じような形状のせいで、違う所に来ていても本当に違う所に来ているかわかりづらい。スカウトと一緒に戦闘を歩いている大男が壁に傷をつけて道をわかりやすくしようとしているが、すぐに傷が消える。対策されているということか。
途中、通路を歩いていると小鬼、ゴブリンを見かけたが、最初に戦った大鬼のような存在ならばともかく小物のゴブリン程度はまったく相手にならない。その他にも通路を進んでいると狼鬼、豚鬼、猪鬼なんかを見かける。コボルトとオークだ。豚鬼と猪鬼は一緒くたにオーク扱いされているが嫌われているのは豚鬼の方だ。猪鬼はいっしょくたにされてとんだとばっちりだな。
「広い……下に降りる階段も見つからねえな」
「一直線に進んでみたが、まだ端の壁らしき者にも当たらねえ」
「途中の広間に、宝箱がありましたけど……」
「罠だろうな、流石に」
宝箱、というものが迷宮には時々ある。大抵の場合、中にはそこそこ有益なものが入っているが多くは近づいた人間に攻撃する罠があったり、魔物が近くに潜んでいたりするので、俺たちのような先遣部隊は近づかないのが鉄則だ。
「くそー。次来たら絶対中身確認してやる」
「……今回はこれくらいで帰ろう」
女性の魔術師が提案する。そもそも、俺たちは迷宮の様子を確認するために派遣されている。迷宮の攻略が今回の目的ではなく、どんな迷宮かの確認が主題だ。
「賛成する。目的は十分に達した。どうせ今回で探索しきれるはずもないし、次の機会に正式に迷宮の探索に来ればいい」
「……そうだな。よし、帰るぞ」
「地図を作っておいてよかったですね、帰り道は迷いません……迷いませんよね?」
「スカウト舐めんな」
地図を作っていたことが功を奏し、帰りは余裕をもって戻れた。そして、一階。階段を上って進んだ部屋、その先の通路の扉が閉まっている。
「……おい、門番の部屋の扉、閉まってねえか?」
「どういうことだ……?」
通路に全員が入ると、後ろで扉が落ちる。
「なっ!? おい、スカウト、罠の確認は!?」
「……俺たちでもわからないように設置されていた。これ、通路じゃなくて部屋の方の天上から伸びてるみたいだ」
通路の罠は確認したが、部屋の中にある罠は確認していない。通路の罠は通路だけにある、という思い込みのせいだろう。直ちに命に影響のある罠でないのが救いだが。
「扉が開いてる」
「おお、向こうに行けば…………おい、復活してるぞ」
部屋の中でも門番をしていたオーガ二体が復活していた。つまり、部屋の扉が閉まっていた原因はあのオーガの復活によるもの、ということだろう。
「……出られなくなる、ということはないようですが」
「また倒さなきゃ戻ることは出来ねえな……面倒くせえ」
こちらに来た時と同じような戦法でオーガを倒し、入り口を開けて迷宮を脱出した。今回の迷宮は一筋縄ではいかないことが、今の時点でもわかった。この迷宮が攻略されるのは相当時間がかかることになるだろうな。




