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そろそろ王様のところに俺が戻っている頃合だろう。それはあくまで人形である俺だが。そういった、雑事、面倒ごとはあっちに任せ、俺はこちらでやるべきことをやる。向こうとしてはそういう面倒ごとばかり任されるのは不満だろうけれど、俺は隠れ家のほうで隠れ住むことになるため、色々な出来事の矢面に立つのはあちらの方である。甘んじて受けてほしい。
本来の約束どおりであればこの元々魔王がいた地域、そこをもらい受けることになる。いや、貰うのとは違うか。自由にしていい、勝手にするのを許す、そんなところだろう。最も、あくまであちらの国だけであり、他の国については知ったことではないだろうけど。
とりあえず、現状で俺のやることは、建物、城や街なんかを作ること、森や畑などの植生、食物の確保、住んでいる魔物の排除など、いろいろだ。住む存在が今のところいないが、とりあえずここに来たらすぐに住める環境を作っておくべきだろう。魔物の排除とはいっても、ここにはもともと結界が張られていた上に、巨大魔物の出現の状況もあってほとんど魔物はいない。いや、残った巨大魔物の類はいたりもしたが。ほとんどは食事対象がいなくて餓死したらしい感じだ。
「大地よ、樹々を生み自然の緑を育み生かせ。"グロウフォレスト"」
本来は"グロウプラント"という植物を育てる魔法だが、それを大規模にして森を作る魔法とする。問題として、大地の栄養が足りなくなる。それの補充が必要になる。
「大地に力を満たせ。"エナジーシャワー"」
必要な栄養素そのものにはならないが、栄養素が足りない分の補填、もしくは必要な栄養素を生み出す原動力となる膨大な魔力を栄養やエネルギーの枯渇した大地に送り込む。単純に栄養素だけでなく、水分も足りなくなるだろう。こういった足りない分を補うことが必要になる。
「大地よ、その身に水を満たせ。"レイニーアブソープ"」
水、栄養素、森、魔法を利用して自然を作る。本当に際限も制限もない、魔力と知識。世界を滅ぼすことができると言っていたが、それができると言うことは同時に世界を生み出す、作ることもできると言うことではないだろうか。少なくとも、国位なら余裕で作れそうだ。いや、国の根幹は環境や建築物、法律なんかではなく、やはり国民だろう。誰も人のいない国に君臨しても意味はない。
「森は作った。植物の植生を弄って食べ物の成る樹にするのは後にして……畑か。耕すのは簡単だな。大地よ揺らぎ震え。"アースシェイカー"」
下手をすれば地揺れを起こすような魔法も、局所的にすれば大地を耕す魔法に……変わったりしない。そのあたりは根本的に魔法の諸々を弄らなければならない。まあ、そのあたりはいいだろう。
「建物……建物か。壁だけで作る建物でもだめではないだろうけど……」
建築物の見た目は重要だ。
「"ハウスメーカー"」
ごっそりと魔力を消費する。それでも、全体からするとほんのわずかだ。全体は多くても、消費による疲労はまた別のようだ。大したことはないが、何度もやると結構な疲労がたまる。最も、隠れ家で魔法を使っている間に結構慣れたものだ。建物……全体で種類は統一していてもいいが、時々別物を立てる。住処としての建物ではなく、ギルドみたいな所や、さまざまな食品を売る家とかもいる。そういったことまで考えて、というのは難しいし、後で人が入ってから手を加えればいいか。
そういう行き当たりばったりなところはあるが、順調に国の土台となる土地の開発を行う。最も、そんなことで国を作れるのかは疑問ではある。法律は、人を守るための手段は、国境に関しては、他の国との関係性は、いろいろとすること考えること定めることは多い。
「はあ、国となると大変だよな。村とか、小規模なら楽そうだけど」
「あたりまえよ。本当に国を作るつもりなのかしら?」
「……セディア。こっちに来たのか」
色々と考えているところにセディアが訪れる。確かに向こうで別れ、何処かに行ったのは俺の記憶にあるが。まさかこっちに来るつもりだったのか。
「……もう建物までいろいろと作っているのね。人はいないけど」
「人は呼び込めばいい……とは思うけど、来てくれるものか」
基本的には、不当な扱い受けている獣人の類を呼び込むつもりだ。歩いてここまで来させるのは大変だろうから、転移門なんかを用いれば簡単だろう。
「そのあたりはその人達の考え次第ね。故郷を捨てるのは簡単ではないわ」
「例え、そこでの扱いが最悪でも?」
「住めば都ともいうでしょう。地獄であっても故郷というのは大きいわ」
何か思う所があるのか、どこか遠くを見るように過去に思いをはせている。なんだかんだで長生きしているからだろうか、今までいろいろとあった中での経験談なのかもしれない。魔女もあの荒野に住んでいる理由は故郷だったからとかなのだろうか。
「……色々とやっている所に悪いけど、あなたに話があってきたわ」
「何だ?」
「もうちょっと場所を考えなさいよ……まあ、いいわ」
ぴり、と緊張した空気が漂う。セディアの方もかなり真剣な表情をしてこちらを見ており、普段の雰囲気とはまるで違う。
「前に、話したでしょう? あの場所で」
「……ああ、返事は後でいいと言った、あれか」
思い出すと、かなり恥ずかしい。あれは本音ではある者の、半ば雰囲気と勢いと、なんというかこう、難しい口に表せない何らかの空気に押されて行ってしまったことだ。あれはある意味、自分にとっては言えた、と思う所と、行ってしまった、と思う反対の心情がある。
「その、あの返事よ……」
女性への告白のようなもの、その返事となるとどうしても緊張する。別にそれ自体が相手との仲を悪くするものではないが、やはりこういうものは緊張すると言うか、精神に来ると言うか。
「ごめんなさい。あなたと、永遠を共にすることは出来ない」
「そうか。いや、セディアがそう思っているなら、それでいいよ」
「あの、ね。ジュンヤ……別にジュンヤのことが嫌いだから断る、とかそういうことじゃないわ」
セディアに明確にお断りされたが、こちらを嫌ってのことではない、とセディアは言う。それ自体は何となくわかる。俺自身、あれは好意からくる言葉であっても恋愛感情ではない。セディアの方も、こちらに対して恋愛感情ではない好意を持っているに過ぎない。それで、永遠を共にするとかいう重いことを口に出したのが問題なのだ。
「私は、いつか死ぬ。本来であれば、生物として死を迎えるのは当たり前の事よ。あなたの願い、不老不死を否定するつもりはないけれど、私は、魔女として、生きて死ぬ。そうしたいと思ってる」
「……そっか」
セディアの想い、彼女は魔女として誇りをもって生きている。そして、その誇りから、魔女として終わりを迎えたい、ということなのだろう。
「以前言ったことはそのままよ。あなたの監視がてら、一緒にいさせてもらうわね」
「……うん」
何か、こう、自分の中で大きな何かが崩れた感じはする。多分、これがあったのは一生に一度だけな気がする。それ自体が崩れたことは悪いことじゃないと思うけど、良いことでもないだろう。ただ、それは自分という存在にとっての大きなきっかけ、何かを決める大きな事象だ。今は、こう思っていても意味が分からないけど、未来、この先の自分が、いつか気が付く時が来る、そんな感じだ。
「……とりえあず、国作り、手伝うわ。何かすることがあるなら言ってちょうだい」
「ああ、そうだな。色々と頼ませてもらう」
セディアと街づくり、国作りを行う。最も、魔力量や知識の関係上、セディアにできることはそこまで多くはないだろう。むしろ、セディアはあちらの方の俺やエリテを任せた方がいいかもしれない。とりあえず、街を作りながら様子見をすることになるだろう。




