63
「ふう……完全に崩れたな」
魔王の城から少し離れた場所で、城が完全に崩壊した惨状を目の前にする。城から脱出する途中も崩壊してたが、外に出てからもゆっくりと崩壊するさまを遠くから見ていた。魔王の力で作られた城のようなのだが、城そのものは残骸という形で残っている。素材そのものはどこからか入手していたということだろうか。
「魔王は死んだらしいが……本当だろうか」
「まあ、確かにまだ生きている可能性はある、と思うのはわからなくもないが」
「あの城は魔王の力によって構成され、維持されていたものよ。それが崩壊したと言うことは、力の持ち主が存在しなくなったということ。だから、確実に死んではいるはずよ」
「本当に魔王を倒しちゃったんですね……あの凄い光で」
「えっと……これで、もう終わりなのかな?」
魔王は確かに死んだが……以前も魔王は討った、死んだはずだ。それが、今回復活した。また復活しない保証はない。
「魔王が魂だけとなって生きている可能性とかはどうだ?」
「ありえなくはないわね。今回も力を集めて復活しているし。でも、以前とは違って、神が奪った魔王の力がなくなっている状況よ。復活は難しいわね」
魔王が復活した原因は魔王の力を回収したから、そうである以上、回収した魔王の力は魔王とともに消滅、残った魔王の力がどの程度かは不明だが、復活できるほどの魔王の力があるかは不明……ということか。でも、復活の可能性があるのなら対処だけはしておいた方がいいか。
「城の残骸をどけて、残った魂への対処、力の回収を不可能にする何らかの手段、封印あたりはしておきたいな……」
「好きにしたら? 止めないわよ」
「……手伝いが欲しいけど、魔法を使えない他の三人じゃ無理だな」
瓦礫をどけるのに人力でやっていると日が暮れるどころか、一月二月は余裕で使うだろう。
「あの瓦礫をどうにかしろというのなら、悪いが断らせてもらおう」
「……あんなの無理です。大きくて多すぎです」
「吹っ飛ばすくらいならなんとかできるかも……?」
三人はそんな感じで、瓦礫を片付ける戦力としては使えそうにないだろう。そのあたりはこちらでどうにでもなる。魔法の便利さが光る戦いになるだろう。そんなことを考えて、城の残骸の片づけをしようとしていると、何かの鳥がセディアの側で羽ばたいている。
「……悪いけど、私は用事がでできたわ。少し外すわね」
「……まあ、瓦礫を片付けるのに参加するつもりはないんだろう? なら別にいい。終わったらここに戻ってきててくれればいい」
「ありがとう、行ってくるわ」
そう言ってセディアがその場を離れる。他の三人には魔王の城の片づけと魔王が本当に、しっかりと死んだかの確認に行くと話して、三人は戦力にならないのでこの場に残ってもらうことになった。
セディアの下に来た鳥がセディアを導く。セディアは目的地は不明だが、自分に向けて鳥を飛ばしてきたものが何者であるかは知っている。なので、不安も持たず鳥を追う。しかし、セディアが疑問に思うのは、このタイミングで自分を呼び出したことについてだ。少なくとも、今この場にセディアがいることを知っていた。だからこそ、案内役の鳥を送ったのだ。少なくともセディアが今いる位置から行けるような距離でないと案内することはないのだから。
案内された先は、魔王の城からかなり近場にある森だった。案内を終えた鳥はどろりと溶けて消える。普段使いするような使い魔ではなく、即席の使い魔であったようだ。森の手前で案内役が消える、つまり森に入ればそれでいいと言うことのようだ。
「はあ……来たわよー。何か用があるんでしょー!」
森の中に入り、セディアが自分を呼び出した相手に向けて叫ぶ。がさり、とその叫びに合わせて草むらが動く。そちらにセディアの視線が向く。しかし、それ以後反応はない。少しだけ、目的の人物ではない別の何かが反応したのか、とセディアは思ったが、それならばすでに何らかの動きがあってしかるべきである。
「出てこないと魔法ぶち込むわよ」
そう言って上へと視線を向ける。その視線に、観念したかのようにざざっと枝が揺れて、一人の女性……まだ少女というくらいに幼さが残った女性が降りてきた。
「ふう、本当にからかいがいがないですねぇ、イルスディア」
「いちいちそんなことしてないで、最初から出てきなさいよ。<夕闇>」
夕闇と呼ばれた少女が眉をしかめる。セディアの地震への呼び方が気に入らないようだ。
「む。人を二つ名で呼ばないでくださいよ。そんなふうに呼ぶなら、私も<金曜>って呼びますよ?」
「あなたの名前、ころころ変わるじゃない。確か……アルティアだったかしら?」
「今はミズリーです」
「……はあ、また体が変わったのね。見た目は前と一緒にしか見えないけど」
「前の体の姉の子でして。中身も同じためかほとんど同じ、瓜二つです」
夕闇と呼ばれる少女はセディアと同じ、魔女だ。だが、その存在はかなり特殊である。まず、セディアが言うように名前がころころ変わる。これに関しては、夕闇が言っている前の体、という言葉が大きな理由だ。
「……まだ転生の術式で体を転々としているわけ?」
「ええ。私は永遠の体現者です。魔女にも、寿命はありますでしょう?」
夕闇と呼ばれる魔女、夕闇の魔女は己の術により、その魂を記憶を保持したまま転生させる。それは特殊な術式によるものであり、彼女はそれにより、自身を永遠の存在へと昇華させようとしている。現時点でも、疑似的な永遠は完成している。少なくとも、夕闇の意思が残っている限りは次へとつなげられる転生の術を自身に重ねられるからだ。
「そうね。でも、寿命に逆らって永遠を求めるのはあなた位でしょう」
「そうですか? 他にもいますよね、永遠を求めている人」
確信を持った夕闇の魔女の言葉を聞き、セディアが少し動きを止める。
「……なんでそう思うのかしら?」
「そりゃあ、その術そのものは発見していますし。月の魔力を集める術なんてそうそうないですしねぇ。ああ、魔法陣を使う場合、刻んだのが大地である場合は大地に魔力が漏れるので注意したほうがいいですよ、って言っておいてください」
どうやら、夕闇の魔女が発見した術は純也の準備している術式のようだ。純也の用意している術式は永遠を形作るものではないものの、不老不死という永遠に近いものを術の使用者に与えるものだ。
「……言っておいて、って」
「一緒にいたじゃないですか。術を見つけた時点で私が監視しないはずないでしょう? 何で一緒にいたかも聞きたいので、イルスディアを呼んだんですよ?」
「あのねえ…………いえ、いいわ」
なんだかんだでかなり長い付き合いであり、数少ない友人、それも同じ魔女の友人である。相談事から、世間話、場合によっては夕闇の魔女の恋話について聞くこともあったセディアは、純也の魔法に関しての話や、言われたことなど、色々と話した。流石に言ってはいけないような内容、信じられないような内容、本人の許可なく話していいかわからないような内容は話さなかったが。
「ほうほう……一緒にならないかと誘われたと」
「さ、誘われたって! そういうのじゃないでしょう!?」
「永遠を共にするってそういうことでしょうに」
ぐぬぬ、とセディアが唸る。確かに、永遠を一緒に生きないか、と誘われたのはつまりそういうことなのだろう。
「まあ、永遠を生きる以上連れ合いがいたほうがいいでしょうけどね。それで、イルスディア、あなたはどう返事をするつもりですか?」
「………………」
返事は魔王を倒した後でいい、と言われていたが、今がその魔王を倒した後である。セディアは純也に聞かれたことの回答を、答えを返さなければならない。はっきりと言わなくても、逃げ出せばそれが答えになる。そんなことも思っているが、それは流石にひどい行いだ。それをするくらいなら本人の下に行ってはっきり答えたほうがいい。そもそも、セディアは純也が間違わないよう、見守ることを決めている。
「あなたがどうしたいか、その答えを出す必要があるのでしょう? 全く、人の恋愛事情は困りものですね」
「恋愛とかそういうのじゃないわよ……」
「はいはい。とりあえず、とっとと本人に会って答えを言ってきなさい」
「いや、その答えが出ていないから……」
「今はダメでも、後で心変わりするかもしれません。今の答えは今の答え、です。必要なら後で私が永遠の術をかけてあげますから、とっとと行きなさい。尻蹴飛ばしますよ」
夕闇の魔女は言う。答えが出ない、というのもまた答えであると。答えが出ないと言うことは、それを認められないと言うことだ。それはつまり、ノーの返事だ。今はそれでもいい、今が駄目でも未来もまた同じままであるとは限らない。最も、それは純也の使う不老不死の魔法からは外れることになるが。
「はあ……いきなり呼び出したのはそっちなのに……」
「話は聞きましたので用済みです。あなたはあなたのことをしなさい。先輩からの忠言です」
「本当に面倒な先輩ね……」
しかたないので、セディアは純也……は今はいないので、その場に残っていた三人の元へと戻る。結局、己の答えが出ないまま。だが、夕闇の魔女の言葉がセディアに棘として刺さり残っている。答えが出ないと言うこともまた答えである、と。




