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「……向こうは大変だな」
「いきなりどうしたの?」
「向こうが魔王と戦って、苦戦してる」
「やっぱり早く結界の処理をした方がよかったじゃないのよ!」
そう言ってセディアが結界の核から離れる。残念ながら結界をどうにかしてこっちの有利なように弄ることは出来なかった。もっと時間があれば不可能ではなかったかもしれないが。
「早く吹き飛ばしなさい!」
「わかってる。"スペリオルフォースカノン"!」
結界の核を吹き飛ばす。全力で吹き飛ばしたからあっさり吹き飛んだが、本来であればどの程度の力でなければ干渉できなかったかは不明だ。そういう話は置いておくとして、今は魔王の方が優先だ。
「これで、結界は……」
徐々に空間に作用していた力が消えていくのが分かる。核に近い場所だと、特に核からの結界の維持、作用の力がはっきりと感じられるので、余計にわかる。中にいる俺やエリテ達も、感覚的に変化が起きるのが分かるだろう、多分。
「結界はどうにかしたわ。あとは魔王ね」
「"ゲート"。あとは向こうから同じ魔法を使えば通じるから」
「いや、こっちから行けばいいじゃない?」
「悪いけど、俺は別方向から攻めさせてもらう。"レビテーション"」
空を浮いて、上空へと向かう。結界のせいで分かりづらかったが、結界が消えたことで魔力の追跡もできる。戦ってる舞台の真上まで行くことに使用。
「あ、待ちなさい……門が開いたわね。はあ、しかたない……」
下でセディアが向こうが開いたことで通じた門に入るのが見える。向こうは向こうで頑張ってもらうとして、こちらはこちらでやることをやらないと。
「む? 結界が……他にも仲間がいたか。面倒なことになったな」
こちらの攻撃は通じず、魔王の攻撃は強力でこちらの防御をあっさりと貫く。そんな流れながら、何とか耐えしのいでいると、いきなり魔王の行動が止まり、周囲の空気が変わる。他の面々はいきなりのことに戸惑っているが、こちらはあっちの俺との記憶の共有のおかげで理由がわかる。
「"ゲート"、"シールド"!」
向こうが使った魔法と同じ、ゲートを使い、セディアを呼び込む。魔力で作った門を出てきたところを攻撃されるとあれなので、その前に攻撃を防ぐ盾も作っておく。
「やあっ!」
「ふっ!」
「くっ、流石に結界がなくてはやすやすと防ぐのは難しいか」
エリテと騎士が同時に攻撃を仕掛けている。流石に先ほどまでのように、無条件に体で攻撃を受けると言うわけにはいかないようで、魔王の持つ力で盾のような力場を作って防いでいる。
「"シャドウバイト"!」
「ふんっ!」
噛みつく影の攻撃を魔王ががんと、床を蹴って無効化する。魔王が持つ力を足に集中させて魔法に対抗する一撃にしたようだ。しかし、その動きは少しとはいえ、行動の隙を作る。エリテと騎士が魔王に迫る。しかし、魔王が体の全体からエネルギーを放射し、近づいた二人を押し飛ばす。流石に体にクリーンヒットするとまずいと言うことだろう。魔法と違い、魔王がその力を行使するのに呪文などが必要ないようで、力の行使に関しての隙が少なく、応用も効くみたいだ。
「やってるみたいね」
「実に厄介だ、魔王の持つあの力。便利すぎる」
「魔王の持つそれは変質の作用を持つ力だろうけど、単純にエネルギー、力としても使えるわ。魔力でもできなくはないけど……」
そのあたりの知識はない。与えられた知識は魔法のものだけだ。
「どうやったら使える? そのあたりの知識はないんだが」
「武器をもって戦ってたらそのうちわかってくるらしいわ。やるつもりはないけど……今、そんな話をしている場合じゃないでしょう!?」
確かに戦闘中だ。しかし、戦闘経験が必須か。体の動きなどに魔力の最適化、強化、流動の合わせ、必要事項は不明だが、そんな感じなのだろうか。
「"焔の鳥"よ!」
セディアが周囲に炎でできた鳥を生みだし、魔王へ向けて飛ばす。空中を自在に動くその姿は実際の鳥のように見える。エリテや騎士を回避した動きは通常の魔法のようにただ飛ばすだけでは実現できない生物的な動きだ。流石というべきか。
「"サイキックハンド"!」
実体のない、念動力の手を生み出し、魔王の動きを止めに向かう。魔力を伸ばして動かすが、実態があるのは手の部分だけ、エリテ達の動きを邪魔することにはならない。この手の魔法は下手に使うと他の仲間の動きを邪魔するから困る。
「こざかしい真似を!」
魔王がその力を展開し、ある程度の範囲に限定的な空間を作る。その空間内では、多少の魔力は霧散されるようで、炎でできた鳥はその魔力を散らして落ちていく。俺の作った手の方は一応維持こそされているが、効果は落ちている。
「はっ!」
「くっ、吹き飛べ!」
「ぐっ!?」
騎士の攻撃が魔王に傷を作るが、攻撃後のタイミングを狙い、魔王が騎士に力を放出して遠方へと吹き飛ばした。真横に結構な勢いで飛んでいったが、大丈夫かあれ?
「私は今飛んでいった人を見てくるわ」
「ああ、頼む」
エリテと魔王の一対一、流石に魔王側に有利すぎる。
「エリテ、攻撃向かわせるから自力で躱せ! "メテオレイン"!」
隕石の雨、というほど極端なものではないが、多くの炎の塊を降らせる一撃の魔法。魔王の展開した空間で減衰されるが、十分な効果は出せるはずだ。炎の雨の中、エリテと魔王が戦っている。魔王の方はその力によって炎の雨を逸らしているが、エリテは降ってくる場所が分かるのか、事前に回避している。エリテはまた以前より強くなっている気がする。
エリテと魔王の闘いを炎の塊の雨を降らせながら見ていると、本体の方から連絡が来る。
「エリテ! 下がれ!」
エリテが何も言わず、こちらに下がってくる。それに合わせ、炎の雨を増やして一気に魔王へと向かわせる。別に減衰されて通用しなくてもいい、最大の目的は動きの阻害だ。
「何を……!?」
魔王が上を向く。しかし、もう遅い。魔王の力をもってしても、長々と時間をかけて準備した魔法はそうそう防げないはずだ。"サニーレイ"。そう、本体が言ったのがわかる。太陽の下、その太陽光の熱量を集めて放つ強力な熱線。光の柱が縦に、魔王の城ごと魔王を貫いた。
「熱い!」
「何ですかこれっ!?」
「熱いよ!?」
熱量と光、明らかにやばい。というか、魔王を貫いた光と熱の柱はいいのだが、それの余波がこっちに届いている。魔法だからか、その余波が大したことなくてよかった。下手をすればこっちも焼かれて死ぬ危険もあっただろう。だが、仮に死ぬ危険がなくてもかなり熱いし、眩しい。
最も、すぐにその光と熱量は消える。
「……あ、消えましたね。魔王もいなくなってます!」
「…………倒したか?」
魔王はその姿を隠しただけ、なんていうのは正直やめてほしいところだが。いや、今回復活したように、魂だけ残っているとかもあり得ないわけではないか? そんなことを考えていると、がらっ、と城の一部が壊れているのが見える。そして、その壊れた部分がどんどん広がっていく。
「ねえ、ジュンヤ。なんか崩れてるけど……」
「魔王の城は魔王が作ったものだから、魔王がいなくなった場合どうなるか」
「……え、もしかして城が崩れるってことですか?」
それはやばい。このままここにいると巻き込まれる。逃げないと。
「"念話"!」
すぐに魔法を使い、セディアに意識をつなげる。
『セディア、城が崩れるからすぐ逃げるぞ! 騎士確保したら城の外まで逃げろ!』
『いきなり何? ああ、ジュンヤの方から念話してるのね。いきなり何なの、理由は?』
『魔王が死んで、城が崩れてる!』
『魔王が死んだっていきなりすぎ、ああ、理由はわかったわ。すぐに連れて出るわ』
こちらの話が通ったことを確認し、女性騎士とエリテと一緒に城の外へと向かう。崩れ始め、天井が落ちてきた利する前に脱出できそうでよかった。