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「久しぶりだな」
「えっと…………誰だ?」
「……前にアルリア姫を助けた時にいただろう」
「ああ…………」
かなり昔だし、その時の騎士の事なんて覚えていない。
「ところで、何か用か?」
「魔王討伐に行くのだろう。私が参加することになった」
「そうか。他には?」
「姫と魔女を呼びに行ったときに行った騎士が参加することになっている」
あの騎士、戦えるのか? 騎士だから戦えないと言うことはないだろうけど、なんかすごく気弱そうというか、大丈夫か不安になる相手だったんだが。
「他には?」
「これだけだ」
「…………騎士二人だけ、か?」
「そうだ」
肯定された。どう考えてもおかしい話だ。普通はもっと出ると思うのだが。
「本気で魔王を倒す気あるのか……」
「……無いのだろう。いや、魔王を倒すことをしないと言うわけじゃないはずだ」
魔王そのものは人間にとって大きな脅威である。それを倒さない、という選択はない。
「そもそも、私ともう一人に関しても、私から言い出さなければ恐らく騎士の参加はなかったはずだ」
「……騎士を消耗させたくないと言うことか」
この国がこちらの手伝いをする気がない、ということなのだろう。いや、王様は普通に問題なさそうだが、他の面々が問題だ。そうなる理由の一端は、俺が獣人、エリテを連れているせいだろう。他にも、二度姫さんを救っていることが大きいか。一応王様にも城で仕事しないかと誘われたし、そう考えると、結構大きな立場に就く可能性はある。
「嫌われたものだな」
「……すまない」
「気にするな。ただ、向こうが後悔するだけだからな」
本気で魔王討伐ができないと思っているのなら、それが間違いだと思い知らせてやればいい。それこそ、こっちで手柄を独り占めするのが一番向こうにとって悔しい想いをすることになるだろう。
騎士が訪れて翌日、王様に呼ばれ会議に参加する。この会議は、魔王討伐に関してだ。
「……騎士二人をつける。今回の魔王討伐に参加させられるのはそれだけだ」
王様が苦々しい表情でそう告げる。本人はもっと参加させたそうだが、それができない。周囲にいる人間の何人かがこちらをにやにやと見ている。まあ、そういうことだというのは事前に予測できていたが、味方で争いしているのは実に馬鹿らしいと思う。
「そうですか。別に構いません。一人も参加する者がいなくても問題ありませんし」
こちらがそう言うと、先ほどまでにやにやしていた人物のいくらかが眉を上げる。
「ふん、大言壮語が過ぎる」
「どうせ口だけだろう」
こちらに対して色々と言ってくるが、大したことではない。気にせずに言葉を流していると、言葉による攻撃は加速する。
「どうせ失敗するのだ!」
「負けるに決まっている。所詮ただの魔法使いにすぎん」
「そもそも、魔王をどうにかすることができるかわかったものではない。本当に魔王についての知識が正しいのか不明なのだからな」
不安を煽ったり、こちらが失敗すると言ったり、魔王に関しての知識が云々、といろいろと言ってくる。正直、今この場は会議の場で罵倒を言う場ではないのだが。いや、問題はそこではない。彼らの言っている内容、それが問題だった。何が問題なのかというと、その攻撃対象が俺ではない発言になっていることに行っている奴が気づいていないことである。魔王に関しての知識、それは俺が発端ではない。
「私があなたたちに教えたことが間違っている、と言いたいのかしら?」
じりっ、と周囲の、会議の場の空気に攻撃的な色が混じる。この場には魔王討伐に参加する俺、エリテ、騎士二人、そして、もちろん参加するつもりである、魔王についての知識の源、セディアがいる。
流石に、セディアを敵に回すのはよくない、と思ったのか、慌てて発言した奴らが取り繕う。
「ま、魔女殿の言っていることが間違っているとは言っておりません!」
「そ、そうですぞ!」
一応そう訂正することで、攻撃的な雰囲気は抑えたようだが、それでも気配はぴりぴりしている。
「……散々失敗する、などと言われていますが、魔王は倒すべきでしょう。何故討つことを期待しないのです?」
「魔法使い風情が言うではないか」
「ふん、たった五人で倒せるならば苦労はせぬ」
人数が多ければいいというものではないだろう。数の暴力は強力だが、魔王のような強力な存在にどの程度有効か。
「では、もし倒せた場合、どうするつもりです?」
「何?」
「倒せるつもりでいるのか? 笑わせる」
散々馬鹿にされているのである。こちらの怒りの沸点は相当に高いし、かなり無視できるような大した内容ではないので気にならないが、言われっぱなしはあれだ。
「ふむ……何が欲しい? 言ってみよ」
「何を言うのです!?」
「そなたらが散々に言うからだ。もし彼らが魔王討伐に成功した場合、そなたらが馬鹿にしたことがそのままこちらに返ってくるのだぞ? こちらは騎士も碌に出さないのだからな」
「む……」
欲しいもの……か。いや、なんとなく希望はある。欲しい、とは少し違うが。
「では、魔王討伐の暁には、かつて魔王が住んでいた、今は人のいないどこの国の所属でもない土地、あの場所を貰いたいと思います」
「……魔王がいなくなれば、今までのような危険がなくなるか。しかし、あの地は誰のものでもない」
「ええ、そうです。ですので、そこに国を作ろうかと」
「くっ」
「はははっ!」
こちらが言った言葉に周りが嘲るように笑う。
「……国だと? しかし、人はおらぬだろう?」
「今は、そうです。ですので、あくまである程度の範囲に街や城を作るくらいになるでしょう。ですが、人はすぐに来ると思います」
「そう簡単に来るとは思えぬが」
「いずれ、わかります」
「そうか……まあ、そうすると言うのであれば、好きにするといい。あの地は誰の手も入っていない場所だからな」
「わかりました」
王様から許可は貰った。あの土地の有効利用……エリテのために、国一つ作るってのは少々あれだが。残すものはあったほうがいい。流石にこの場で、内容を言うのは少々あれだったから言わなかったが……獣人の国、作らせてもらおう。