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首領が膨らみ、テープのように関節部分の皮膚がはがれていく。
嫌な予感を抱き、水城を抱き込む。
「佐山さん!? いきなり何を」
「いいから動くなよ!」
さらに首領が膨らむ。ぴっ、と一気に皮膚がはがれ、爆発した。
首領が爆発した、首領の中にあった膨大な量の闇が当たりを覆った。
危なかった。嫌な予感に突き動かされて水城を守らなければこの闇にのまれていただろう。
『これで私のお仕事も終了です。お二人ともお疲れ様でした。もう会うことがないことを祈ってますよ』
闇の中から声が聞こえる。先ほども聞いた女性の声だ。
「あんた一体…」
『私の正体が知りたいですか? そうですね。初めまして、邪神です』
「邪神……?」
首領の話にも合った、首領を作った存在だ。
『はい。ああ、もしかして私が彼をここに送り、悪の組織の首領なんてものをやらせていた理由でも知りたいですか?』
「……いや、別に?」
『ならいいです。別にわざわざ語る必要もありませんし、語ったところで知的好奇心を満たすだけにすぎません。今日は悪の組織の一つが終わりを迎え、そこにいた怪人はすべて死んだ。それだけでいいでしょう』
正直に言うと、いろいろ聞きたいことはある。ただ、相手が相手だ。
そもそも、邪神の言った通り、聞いたところで何かの役に立つのかというのもある。
今回は勝たせてもらった立場だ。これ以上相手とかかわっても仕方ない。
『それでは、さらばです。この周辺のすべての闇は回収したのでしばらくは自ら怪人になるような悪者は生まれませんから安心してください。まあ、他の悪の組織自体は残りますけどね』
ごうっ、と周囲に散らばった闇が一か所に集まり消えていく。
後には何もない静かな空間だけが残された。
「……とりえあず、終わったな」
「そうですね……そろそろ離してくれませんか?」
「あ、悪いな」
抱き寄せていた水城を離す。
「とりあえずこれからどうする?」
「私は今までとは特に変わりません。いつも通り学校に行って、正義の味方の仕事をするだけです。ああ、一つだけ……あなたを匿って養うことが増えますね」
「ああ……」
そういえばそういう成り行きだった。自分より年下の相手に養ってもらうとかどうなのかとは思うが、そういう契約だし。
そもそも向こうが言い出したことだ。まあ、決めたのは自分だが。
「……とりあえず帰るか」
「そうですね。私は上に報告しないといけないので、先に帰っていてください」
「おう」
奇妙な関係だ。元悪の組織の怪人と正義の味方の魔法少女。その共同生活。
これからどうなるのだろう。
あれから数か月は経っただろう。実はこの辺一帯での一番の悪の組織はうちだったらしく、あれからしばらくは怪人が起こす事件はしばらく減っていた。
最近はぼちぼち、怪人の起こす事件も増えて若葉も正義の味方として仕事をすることも多くなった。
そういえば、いつのまにか籍を入れられていた。どうせ一緒に生活するのだから、そちらのほうが色々とお得だとか何とか言っていた。
だがちょっと待ってほしい。そんな簡単に籍を入れることを決断していいのかと。そもそもこちらの意思をガン無視じゃないか、と。
結局向こうのほうが理由づけや言い訳がうまかったので口で負けてしまった。諦めるしかない……まあ、そもそも特に結婚したくない理由があるわけでもない。
別に結婚するような恋愛関係の相手がいるわけでもないから別に籍を入れられていても問題がないと言えばない。
ちなみにまだ手は出していない。出そうと思えば好きに出せるが、そういうのは相手の同意を得てからでないといけない。
その考えを若葉に話すと古いと言われた。古いのだろうか、こういう考えは……
生活は基本的に自堕落、部屋に引きこもって必要なものは通販で仕入れている。
正義の味方としての給料や、悪の組織をやっていた時の給料でお互いかなりの額の貯金があるので生活は今のところ問題はない。
養ってもらうことになっているが、本気で養ってもらうだけだと気分がよくないので、たまに能力を使い存在を感知されない状態で外に出ている。
何をしているかというと、時々ある、襲撃をした怪人を追い、その逃げたアジトを正義の味方側にたれ込む仕事だ。
別に謝礼が出るわけではないが、正義の味方側に貢献していれば養ってもらうことへの恩返しみたいなことができる。
もともとは悪の組織の一員だったのに、いつの間にか正義の味方側についている。なんというか、奇妙な話だ。
まあ、それも悪くない。
内容の問題や設定の不備、言葉使いの奇妙さなど諸々ありましたら感想で着きつけて下さい