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魔女がいると言われている荒野を探索する。最も、探索するのに大した苦労はなかった。恐らく、だいぶ昔に作ったのであるだろう道が、ある程度とはいえ残っていたからである。この道の跡は、今は誰も行くことはなくなったがかつては何人もの人間が魔女のもとを訪れていたことの証拠なのだろう。
残った道らしき道を馬車が進む。整備されていない道であるため、がたがたと揺れたり、止まりかけたりもするが、問題なく馬車は進んだ。そして、結構進んだ先に、小さな一軒の建物が見えてきた。
「……あれが魔女の家でしょうか?」
「他に建物はないですし、そうじゃないかしら?」
ごく普通の一軒家に見える。しかし、張られている結界はとんでもない量だ。明確に敷地として作られてる小さい塀にそって、侵入を阻害する結界が何十二も張られている。単に阻害するだけでなく、侵入しようとした相手は自動で攻撃、排除する機構もついている。特に、結界の一部、後ろ側はその性質が顕著に付加されている。普通結界は全体で一つの結界として存在するが、その結界の一部の能力を変化させるのはとても難しいことであり、それができるあの家に住んでいる魔法使いは、魔女であるかなしかはともかく相当な実力者であることがわかる。
今現在俺たちがいる位置も、探知の結界が薄く張られている。進入禁止の結界が張られていないのは正面の塀の空いている部分、この道の通じている部分だ。ただ、攻撃性の判別、武器などの危険物の攻撃能力の喪失、魔力探知、魔法封じなどが自動で付加される魔法があるが。実に厄介なのは攻撃性のある状態異常系の魔法ではなく、身体強化などの補助系の魔法に誤認させているせいで防ぐことが難しい点だろう。エリテや姫さんたちは対策は無理だな。
俺だけは、いざというときのために、あらゆる正負に限らず、補助系魔法を無効化する防衛魔法を使っておこう。
「"エフェクトフィクス"。かなりの結界が張られてるようだな。魔女かどうかはわからないが、相当凄腕の魔法使いであるのは確実だろう」
「へー。そういうの、やっぱり魔法使いならわかるのかな?」
「私たちは見てもわかりませんね」
「さっぱりです」
先に小さくいったのを誤魔化すために、分かったことを言ってみたが実に話にのってくれている。そんなふうに言っているうちに、馬車が魔法効果の発動点を通過し、俺たちに魔法の効果をかける。
「ん?」
「エリテくん、どうかしました?」
「何か今……」
エリテは何が起きたかわからないが、何か起きたことは気付いたようだ。かなりの隠蔽性のある魔法だが、よほど感覚が鋭敏になっているのだろう。最も、気づいたところですでに魔法がかけられているので大した意味はないが。
馬車が止まり、降りる。見た目だけで見ると、やはりただの一軒家にしか見えない。
「カアー!」
「わっ」
「カラスが止まってますね」
「つついたりしません……よね? 他のカラスの姿見えないし、ペットか何かでしょうか」
ペットというよりは使い魔だ。魔力を纏い、その魔力が中に伸びているのが見える。最も、すぐに伸びている魔力はぷつりと切れる。侵入者がいたので、一時的に視界や情報のリンクを行ったのだろう。その手のものは普段からやらないし。
『外でのんびりとしてないで、入って来たら?』
声がすると同時に、家の扉がひとりでに開く。入って来い、ということなのだろう。
「自動で開くなんて凄いですね」
「ジュンヤはこういうのできるの?」
「……いや、やるだけなら楽だけど」
単純に風の魔法や、念動の魔法でも使えばいいだけだ。
「早く入りましょう。怒らせたら大変です」
騎士が先に中に入る。安全確認も買って出ているのかもしれないが、あんまり意味はないと思う。魔法使いの能力的に。
「広いですね……」
「広い……」
「見た目よりも大きい……のかなぁ」
最初に入って思うのは、三人の感想通り部屋が広いことだろう。明らかに外の見た目の一軒家の大きさから考えられる部屋の広さではない。最も、広いわりに本棚が沢山置かれているのでかなり圧迫感がある。
『こっちよ』
ぎい、と奥の方にある扉が開く。横方向にも扉はあるがあちらに行けと言うことだろう。大人しく声に従い先に行く。先の広い部屋でもそうだが、シャンデリアのような豪華な装飾の明かりが存在する、広い机にいろいろなものがおかれている実験室のような部屋だ。その机の隣にある小さめの机、その前にある椅子に向こうを向いて座っている黒いローブの金髪の女性がいた。
「数十年は人が来なかったから、忘れられているものかと思ったけど、本当に久しぶりのお客さんね。歓迎するわ」
そう言って、金髪の女性、魔女がこちらを向く。そのさなか、俺の姿を見た翠色の目が一瞬険しくなったのが見える。
「……まあ、いいわ。何の用かしら? 人間がわざわざこちらを尋ねてくるなんて」
「……ええっと」
「……何の用なんですか?」
姫さんと騎士がこちらを見る。確かに用があるのはこちらなのだが。
「一つ聞きたい。魔王に関しての調査、昔魔王が住んでいた場所まで出向き、結界を調べ、獣人と遭遇した魔女はあんたか?」
「ええ。あなたも魔法使いみたいだけど……その口ぶりだと、魔王の張った結界について知りたいのかしら?」
「いや……そちらは魔王が復活したことを知っているか?」
「っ!?」
知らないようだ。必要ならばフィールドワークもするのかもしれないが、必要なければ外に出ないのだろう。そして、人と関わりがあるわけでもなく、情報収集はまともにしていない。何らかの情報収集手段はあるだろうけど、普段から積極的に世情を探っているわけでもないだろう。典型的な一部の世捨て人的な研究者、科学者タイプだろうか。
「魔王が復活した……となると、必要なのは魔王に関する知識かしら?」
「その通りだ。ぜひとも、その話を聞きたい」
「………………」
何やら考え込んでいる様子である。だが、すぐに答えを出して、返答してきた。
「話だけではすまないわね。魔王が復活している以上、ここでのんびり知識の講釈をしても仕方がないわ」
そう言って、魔女は立ち上がる。がさごそ、と部屋の中を漁って何かを探しているようだ。
「対価の要求や、話に関しては今は置いておくわ。先に馬車に行ってなさい。直接出向いて話をさせてもらうから。ああ、そこの男の人、旅をするのに必要なものを探すから手伝ってくれる?」
どうやら直接こちらにきて、話をしてくれるようだ。俺から知識を王様たちに話してもいいが、魔女から話を聞けるのであれば二度手間にならないし、場合によっては戦力として使える可能性もある。得の方が大きいだろう。
「……来てくれるみたいだ、先に行ってて待っててくれ」
「ジュンヤは?」
「手伝ってくれ、って言われてるから手伝うさ。へそ曲げられても困るし」
そう言って、彼女の近くまで行く。姫さんや騎士は、エリテを伴って先に外に出て、馬車で待つようだ。そんなふうに、部屋の中には俺だけが残り、今まで部屋の中を漁っていた魔女がぴたりと動きを止め、背筋を伸ばしてこちらを向く。少しだけだが睨んでいるようにも見える。
「実は手伝いなんて必要ないのよ。"転送"」
一瞬で旅に必要な道具が集まった。恐らくだが、指定した条件に対応する対象を転移させる、みたいな魔法だろう。一瞬だったため完全にはわからなかったが、知識を引き出す限りではそんな感じだと思う。
「流石は魔女、というべきか。凄い魔法の技術だな」
「あら、褒めてくれるの? ありがとう」
にこり、と笑顔を浮かべているが、目は笑っていない。何か敵視されるようなことは……してないとは言えないのが困り種である。
「単刀直入に聞くわ。あなたは何者かしら?」




