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馬車での移動中は暇を見て持ってきた遊び道具で時間を潰す。街道沿いは本来魔物が出にくいのだが、全くでないというわけでもなく、さらに言えば魔王復活の影響もあってか魔物が活発化しており、馬車に襲い掛かってこようとする魔物がそこそこいる。基本的には、事前に探査魔法を使用し、その範囲に侵入、さらに言えば攻撃をしてこようと近づく魔物を馬車内から魔法を使用することで対処している。攻撃を受ける前に始末するのは、馬車に攻撃を受ければいくら強化しているからと言っても、馬車にダメージを受けて破壊される危険性があるからだ。
そんなふうに魔物を対処していると、姫さんが不機嫌な様子になってきた。
「……ずっと外の魔物にジュンヤさんが対処してくれますけど、実際どれくらい強いのか、実力が見れません」
そもそも姫さんに実力を見せるために戦闘をするのではなく、安全を確保するためなのだが、姫さんにとってはこちらの実力、戦闘能力がどの程度あるのかを見たいのだろう。以前も馬車を守るときに戦っているが、あの時も外には出てきていなかった。そう考えると、こちらの実力そのものは見せていない状態だ。
「……外に出れば、実際闘ってもいいといえばいいけど。いいのか?」
「姫様、あまり危険なことは」
「……危険、ですか」
姫さんはなんだかんだで、無理は言わない。無茶なことを要求したりはするものの、やっていいこと悪いことはある程度の分別はつけている。それでもその分別を突破してあれこれすることはあるみたいで困り者だが。
「危険でなければ、かまわないんですよね?」
「は、はい……安全なら別に」
騎士が大丈夫だと言ってしまう。こういう時でも、絶対外に出さないくらいの気概を見せてほしい。そんなことを言ってしまえば、姫さんのことだから、絶対になんとしてでも外に出て戦闘を見ようとしてくるだろう。
「ジュンヤさん、守りの結界を張れますよね? それを張ってくれれば、安全ですよね」
「……なんで俺がそこまでしなければならない?」
確かに結界を使えるし、使えば安全だろう。しかし、その頼みを俺が訊かなければならない理由はない。
「……駄目ですか?」
「理由がない。無駄なことはしない。必要ならやってもいいが、必要ではないだろう?」
「……そうですね」
じっと姫さんは下を見て何かを考えている様子だ。騎士がそれを見てあわあわとしている。あまり良くない兆候と行った所なのだろう。今までの行動から考えても、あまりに行動を制限されたり、頼みごとを却下されたら無茶を言い出しそうな感じはある。いくら馬車内で遊具があるからとはいえ、多少のガス抜きは必要か。エリテもずっと馬車内にいさせるわけにもいかないか。
「……野営時、寝る前に少しならいいだろう。どうせ俺たちは外だしな」
途中でも野営は何度かしているが、女性二人、姫さんと騎士は馬車内、俺とエリテの男性二人は外で休んでいる。結界さえ張っておけば問題なく休めるので野営には苦労しない。御座のようなものも作っているし、あとは路上の石なんかのごつごつを解消したいところである。
「まあ、それはいいですね」
「……姫様が無理を言ってすみません」
「あら、こういう時はありがとう、でしょう?」
確かにそうだろうけど、頼んだ張本人がそう騎士に言うのはどうなのだろう。
「うう、ありがとうございます……」
「ああ、うん……アルリア姫」
「ジュンヤさん、頼みを聞いてくださりありがとうございます」
「………………」
実にやり難い相手である。しかし、外に出て魔物退治という話をしているせいか、最近体の動かしが足りていないエリテがうずうずしている。こっちもそろそろストレス発散は必要だったか。
「ふっ!」
野営、夜に向け休憩場所で休む準備をしている。結界を張ったうえで、誘引効果のある魔法を使い、魔物を呼び寄せる。あまり過度に使うと周辺の魔物が本当に無差別に来るので、結界を二重にして、ある程度の範囲の魔物に限定する。倒しすぎても生態系崩すことになるのであれだが。
エリテが剣を振るい、魔物を始末しているのを横目に、俺はテントみたいなものを作る。なんだかんだでこういう道具は便利なので、制作しておいた。エリテは一体いつ作ったのか、と訝しんでいる感じだったが。そのあたりは言えない事情もあるので聞かないで欲しいところだ。そういう勘は鋭いので深く追及されたことは今までないのだけど。
「エリテ、上に飛べ」
あまり大きな声を上げなくても、エリテの耳はかなりいい。前はこれほどよくなかったのだが、身体能力が上がってきたせいか、魔法の身体強化になれたためか、聴力や視力の一部五感の強化ができるようだ。魔法を使わない身体強化に関しては、自分で試したことはないが、少なくとも俺は無理そうだ。この辺り獣人特有の物か、それとも個人の才能に由来する物かは不明である。あまり解明する必要性もないだろうけど。
エリテが上空に飛び上がる。三メートル以上の高さを楽に飛び上がれるのはこの世界でもできる人間は少ないだろう。魔物が空に逃げたエリテを追って集まる。地上にいる魔物たちは俺が一掃する。
「"キューブボムレット"」
魔物たちの中心、エリテの飛んだ位置から四角形の範囲指定の結界が張られ、その範囲を爆発が襲う。周囲に爆発を漏らさない一定範囲の爆発だ。気づいてもすぐに範囲外に逃げ出せなければ爆発に巻き込まれ即死である。
三匹残ったが、それに対しては降りてきたエリテが落下で一匹、その後もすぐに残った二匹相手に対処する。実に苦労のない戦いである。
「……あっさり終わりましたね」
「そりゃ、苦戦するような戦いはしないつもりでやってるしな」
「魔法もすごいですけど……あの子、強いですね」
「エリテくん、凄く高く跳びましたね」
戦闘に関しては流石に山場もない戦いだったので、面白みがないと不満はありそうだったが、もともとは実力を見る、という内容だったのだから問題はないだろう。騎士と姫さんはエリテの身体能力に話が言っている。
「ジュンヤー、これどうするの?」
「その辺に捨てておけ。流石に使う予定もあまりないしな」
そのあたりに打ち捨てておけば、勝手に動物や魔物が処理するだろう。だいたい十分な材料は手に入れているので、今は必要以上に確保する必然性もない。処理するのもそこそこ大変なので。
そんな一幕もあり、戦闘を見せる上での外での野営を行った後、また馬車で変わらぬ展開の移動を開始する。戦闘を見せた時から、数日馬車で移動し、ようやく目的地の魔女の住む荒野の近くにある村、スィーベンに到達した。スィーベンはかなり牧歌的な雰囲気で、村と言われれば村だと思えるような田舎っぽい感じだが、広さだけで見れば街くらいはある。少なくとも、俺が最初に訪れたあの村よりは大きい規模だ。
最も、この村での滞在は長いものではない。この村に来た目的の主なものは、魔女についての情報収集だ。既に場所の情報自体は入手しているので、現在の魔女の情報が欲しいと言うことで話を聞くために来ている。一応、物資の補充なんかもあるのだが、俺の魔法で途中に寄った街で旅に必要なものは余分な量も購入しているので全く問題はない。
「……情報はなし、か」
「噂話もありませんでした……」
俺と騎士の二人であらかた情報収集はしたが、魔女の噂すらろくにない。以前聞いた話では最近魔女のところに人間がいないということだが、そもそもまだ生きているかどうかもわからないのが現状だ。一応情報はあるし、獣人の所で聞いた話もあるので大丈夫だとは思うが。
「いなかったらどうします?」
「……その時はなんとか探すしかないな」
「姫様はもちろん戻りますよね」
アルリア姫は騎士の言葉ににっこりと笑って返している。多分、帰るわけないじゃない、って感じの笑顔だろう。騎士がうう、と呻き嘆いている。




