50
「迷宮攻略に何日も泊まり込むのは大変だったでしょう?」
「ま、まあ、そうだね」
今、目の前でエリテと姫さんが話をしている。はっきり言わせてもらうと、なぜこんな状況下になっているかが不明だ。
「……なんでこんな状況になっているんだ?」
「姫様の我がままです……他の人には黙ってきたので、護衛が私一人なのでかなり困るのですが」
「下手な騎士よりエリテの方が強いし、俺もいるからそのあたりは大丈夫だが」
護衛の心得なんてものは知らないが、能力だけを見れば何かに襲われても余裕がある。馬車事潰されるような事態でもあれば流石に危ないな。
「"ハードスキン"」
「……何か言いました?」
「いや……ところで、アルリア姫を連れ戻す必要はないのか? なんかついてくる感じだが?」
今、俺たちが向かっているのは魔女のいる場所だ。途中できちんと休める場所で休むとはいえ、王家が出してくれたとはいえ、普通の馬車で移動だ。王女様にとっては、慣れない乗り物だとかで苦になるのではないだろうか。
「……わたしには姫様を止めることは出来ません」
「……いや、無理やり連れて帰ったりは?」
「できれば既にやってます……」
「いや、何でできないんだ、そもそも」
こういう時は上がどう言おうが、無理やり連れていくべきだろう。はっきり言って、ついてこられると邪魔だし困る、というか。
「もし、連れ戻すつもりなら、王様の秘密をばらすって……流石に王様の秘密は問題じゃないですか……」
「いや、それは流石に嘘じゃないか?」
「前科があります。その時は王妃様との仲がかなりひどいことになりました……」
すでに一度やっていたようである。王様とは会ったが、王妃とは会っていない、妙に思ったが、もしかして別居でもしているのだろうか。しかし、そこまでやってどうしてついてくる気なのか。
「なあ、アルリア姫は何でついてくるんだ?」
「姫様は興味を持ったことはとことんやるタイプです」
答えになっていないが、つまりは、エリテに興味を持ったということだろうか。
「……それ、大丈夫なのか?」
「何かあったら仕事クビになる程度で済めばいいなあ……」
大丈夫じゃないということか。多分、恋愛感情でないので大丈夫だとは思うが。エリテもそのあたりは疎い感じだし、こう、同い年の女の子がいっしょでたじたじと言った感じだろう。先ほどから話している内容も、エリテ自身の事ではなく、経験したこと、どんなことをしてきたか、どんなものを見てきたか、というのが主題な感じだし。
「ジュンヤさん! 迷宮でのお話をしてください!」
「え?」
「エリテくんから色々と話は聞いたので、ジュンヤさんからお話を聞きたいです!」
「……まあ、いいけど」
どうやら話をせざるを得ないようだ。流石に黙っているわけにもいかないだろうし、これ以上エリテに姫さんの相手を任せるのも負担が大きい。しかし、そういった話を続けるにも、馬車の旅は長い。途中で休むときにでも、色々と遊び道具を持ってくるか。
「あやつらが姫様を攫ったのです! 今すぐ指名手配をすべきです!」
「これだから獣人なぞ連れている輩は……」
あまりに何も考えていない対応に王様はため息をつく。確かに、アルリア姫がいなくなったことは、ジュンヤたちが出た後に判明したことであり、彼らの下にいる可能性が高いというのも確かだが、だからと言ってジュンヤたちが攫って行ったというのはあまりにも暴論にすぎる。
「好き勝手言うものではない。娘を連れてきたのは彼らだ。もし攫って行くつもりならばわざわざここに連れてくることもあるまい?」
「しかし……!」
少なくとも、王様の言う通りであり、無駄なことをする非合理性の理由を説かなければ駄目だろう。最も、そんなことは彼らにとっては関係ない。彼らにとっては相手を攻撃できる理由があればそれだけでいいのだ。魔王が復活しようとしている現状で王城で大して関係ないものを巻き込み権力争いをするというのも、また人間らしいことではあるが。
「騎士が一人ついていっている。必要なら連絡を入れるだろう。どうせ、いつもの娘の我がままだ。聞かなければまた私が被害を受けるのだろう」
「ああ……あの……」
周りの人間が王様を見て気の毒そうにしている。前に起きた王妃と喧嘩が起きた騒動の時はかなり大変だったようである。
「今となっては昔の話だがな」
「もう仲直りはされたのでしたな……」
最も、今も別居中ではある。子供ができる程度には関係が修復されてはいるようだが、その騒動のおかげで本来必要な子作りも碌にできていないのがこの国の王家の現状である。最も、王様が早いうちに側室などを作らなかったせいで余計こんがらがった事態になったのだが。
「彼らには私から頼みごとをしている、娘はそれについていった、今回の件はそれだけの話だ。それよりも、各々の仕事を続けろ。今は忙しいのだぞ?」
「は、はい」
「わかりました……」
王の周りで騒いでいた彼らも、王様がはっきりと断言したため、これ以上言っても仕方がないと去っていった。
「はあ……本当に、あの娘は勝手なことをする」
なんだかんだで王様もいろいろと苦労している。特に周りの味方が少ないせいもあって余計に。
「はい、チェックメイト」
「くっ……負けましたか」
横で姫さんと騎士がチェスをやっている。ルール的に将棋なんかよりはわかりやすいし、ルールもはっきりしているのでチェスにしたが、二人とも知的遊戯に強いタイプのようだ。
「……え? もう終わりなの?」
「手が……ないのか? 流石にこの状況から先読みはちょっとなあ」
俺とエリテは盤面を見てもさっぱりである。ある程度はできても、先読み必須の知的遊戯は苦手だ。大抵どこかで必須の手に気づかず王を奪われて終わるパターンになる。戦闘の方が楽だと言うのも正直どうなのかと思うが。
「ジュンヤさんたちはやらないんですか?」
「弱くていいならできるが、面白くないだろう?」
「でも、製作者ですよね……?」
別に製作者が常にそのゲームにおいて最強であるわけではない。
「製作者でも強いわけじゃないだろ……鍛冶屋なら全員立派な剣士かというとそういうわけじゃないだろう?」
知的遊戯の類に武力や肉体依存の内容例をもってくるのはちがうとおもうが、分かりやすい例にはなると思う。
「他にも持ってきたが……やってみるか?」
「そちらはこっちのものよりもルールが複雑なようですからね……」
「じゃあ、五目並べしよう! あれならそこまで難しくないし!」
エリテが囲碁盤と碁石を持ってくる。あれならば、ルールも単純で、勝敗もわかりやすいし、エリテもそこそこできる。
「これ一つしかないのですよね。持って帰ってもいいものでしょうか……?」
「好きにしてもらっていい。作ったはいいけど、使わないし」
「ありがとうございます。城での娯楽は少ないですからね。騎士と遊べそうなものがあれば少しは楽しく過ごせるでしょう」
なんだかんだでアルリア姫も王女、お姫様の類だ。相応に義務などやるべき事柄もあるのだろう。友人もいないということだし、相応に大変なのだろう。たまにはこういう気が抜ける時間があったほうがいいのかもしれない。だからといって人の旅についてこられると困るのだが。せめて遊び道具を持ってきて馬車の中で暇つぶしをしていてもらおう。魔女との相手についてこられたら大変だし、騎士相手に遊んでいてもらえればそれでいい。作ったはいいが、使われることのない遊び道具も役目を果たせて満足できるだろうし。




