48
イーニンの街の教会は破壊されていただが、生き残りがいたので何とか持っている情報を得ることは出来た。最も、得られた情報はさほどない。教会が内部から破壊されたこと、神と繋がることのできた教会関係者はすべて死んでいることくらいしかわからない。彼らの推測になるが、神に繋がる教会関係者がいると魔王にとって不都合があると言うことで教会ごと破壊されたのでは、という推測のようだ。また、この事件が起きても迷宮の存在は変わらない。迷宮と魔王の関係性は低い、とみるべきか。
「………………」
「………………」
「………………」
馬車の中は重苦しい無言で満ちている。教会関係者が一人乗っているのだが、この世の終わりのような顔をしている。
「なあ、教会があんな状態になったのはいつなんだ?」
「……いつ、と申しますと?」
「俺は少し前に魔王が住んでいた地域へと行っていたんだが、状況の変化を追っている感じがある。この馬車、アルリア姫も魔物に襲われている。その流れで教会が破壊されているのであれば、魔王の行先の予測ができるかもしれない」
魔王があの結界の中にいるのか、移動しているのかを確定させる情報になる可能性はある。そう思って尋ねてみた。最も、結果は芳しくない。
「私たちが襲われるよりも前に教会は破壊されていたのですね」
「……状況的に少し早い、か?」
最も、俺たちが結界が消えたことを知ったのは結界が消えて少ししてからだ。少しだけとはいえ、魔王が行動し始めた時期よりは遅れていると考えるべきだろう。最も、それにしても教会が攻撃された時期は早い。いや、早すぎる。ほぼ結界が消えたころ、と思うべきか? そうなると、教会への攻撃が早すぎる。
「他の教会との連絡は?」
「全くとれておりません……いえ、そんな余裕もなかったもので」
まあ、教会が完膚なきまで破壊されていたのだから、その対処に精一杯だったと考えられる。
「情報がほとんどないな」
「しかたあるまい。所詮教会はただの一組織にすぎん」
騎士はどうも教会には敵対的な雰囲気がある。魔王に関しても否定的な様子はあったし、その手の伝承系のものはよく思っていないのだろう。最も、現状実害としてそういう存在が出てきたのは確実だ。それ自体は理解しているようではある。
イーニンの街で足を入手してミアの街へと馬車が向かう。本来は他国へと向かう予定であったのに、唐突に起きた魔物の襲撃、教会の破壊、そしてそれに付随する魔王復活の可能性、そういった事情もあって報告のために戻る、ということだ。教会関係者もつれているし、国の中核であるミアであれば何か情報はあるだろうということだ。
そういうことでミアの町まで戻ったが、色々とやり取りをする前にすぐに城へと向かう羽目になった。
「無事で何よりです!」
「すぐにご案内します!」
もはや何者であるか、とか関係なく、馬車に乗っていた騎士や一緒に来た騎士、姫さん、教会関係者、俺たちも全員纏めて案内される。案内された場所は会議室のような場所だ。かなりの人間、重要そうな立ち位置にいるだろう見た目、それっぽい人物たちが集まっている。
「おお! アルリア姫! ご無事でございましたか!」
「騎士もよく姫を守ったものだ!」
アルリア姫が会議室に入ると、中にいた人間がわあわあと騒ぎ始める。どうやら、アルリア姫が襲われたことは周知のようだった。
「お前たち、静かにしろ。アルリア、無事だったようだな」
「お父様。はい、何十匹の魔物の群れに囲まれた時は恐ろしかったです。でも、ジュンヤさんとエリテくんの二人に助けられました」
そう言ってアルリア姫がこちらに視線を向けてくる。つられて王様やその周囲の人間もこちらに視線を向けてくる。
「旅の魔法使いよ、また娘を助けてもらったようだな。感謝する」
「いえ、当然のことです」
今回は公式の場、ということではなさそうだし、普通に対応する。最も、きちんとした対応をするのは当たり前だが。その対応自体には文句を言われない。不満というか、むっとしたような表情はされるものの、無礼だとかそういう指摘はない。
「しかし、ちょうどいい。旅の魔法使いよ、お前たちも話に加わってほしい」
「……いきなりですが、一体なんでしょう?」
「魔王復活についてだ」
もともと自分で情報を集めるつもりだったが、すでにこちらでは情報が集まっていたようだ。
「……それは、ぜひとも聞かせてもらいたい話ですね」
王様の誘いに乗り、会議室で行われていたらしい話に参加することになった。エリテも一緒だが、獣人に対しての視線はいくつかあるものの、そんなことにかまけている余裕はないらしく、すぐに逸らされる。
話されている内容は、魔王復活が確実に起きたと判明したことだ。各地の教会が破壊された事は、各地に滞在していた兵士や、間諜のような人間からの連絡で判明していた。教会の人間を連れてきたのは無駄かと思ったが、直に話を聞いたわけではないので全くの無駄ということではないようだ。
他にも、魔物の活発化がかなりの地域で起きているらしい。この魔物の活発化はかなり広範囲に広がっており、また、教会から聞いた伝説、話に持ったように、動物の魔物化も一部では起きているらしい。最も、本当にごく一部、生物のごく一部で起きているだけで、動物が一斉に魔物化するみたいなことにはなっていないようだ。そのあたりの理由は不明だが、魔王の力が完全ではないのではとも話にはあげられている。
「結局、魔王の行方はつかめていない……と」
「そもそも、魔王はどこで復活したのかが不明だ。一番怪しいのは魔王が住んでいた地域だが……」
「恐らくあそこにはいません。魔王があの場所に施していたと思われる影響が消えたので、あくまで推測になる話ですが」
「影響が消えた? あそこは巨大な魔獣が蔓延っているという話だが、一体何があったと?」
こちらが言った時の状況の話をする。また、その過程でどうしても、獣人、魔王に協力していた過去のある彼らの話もせざるを得なかった。もちろん、それを信用するのか、怪しい、魔王復活の原因やその関係者なのでは、という攻撃的で厳しい意見もあったが、王様の鶴の一声でそれらの意見が消える。
「……話を聞く限りでは、娘が襲われたのは偶発的だが故意的な事象である可能性があると行った所か。少なくとも、破壊された場所を通ったことに間違いはないと思うべきだな」
「でも、何故直接襲わなかったのでしょう?」
姫さんが魔物に襲われても、魔王には襲われなかった。国境の関所は破壊されたのに、そちらは何故直接手を出さなかったのか。
「恐らくだが、逸れていたのだろう。直接狙うほど近場ではなかったから、魔物を増やすついでに襲わせた、と行った所だろう。そもそも、魔王が今の国の現状を把握しているかは不明だ。馬車が通っていたから魔物に襲わせた、その程度の話だと考えられるだろう」
確かに魔王が今の国の状況を知っているとは思えない。復活したばかりの魔王が現在の世界の情報収集ができているか怪しい所だ。つまり、たまたま通りがかった姫さんの馬車を移動中の魔王が見つけたので、人間を殺そうと周辺の魔物の活発化、動物の魔物化などをして向かわせた、それだけに過ぎない……偶然にしては少し出来すぎている気もするが。
「そうなりますと、馬車が襲われた場所、破壊された関所、魔法使い殿の言う魔王の住んでいた地域の話からも考えまして、こういう直線経路をたどった……とみなすべきですかな?」
机の上に用意された国の地図、その上に木の棒がおかれる。流石に貴重品である地図には直接書き込む、ということは出来ないので、色々と道具を置いて、表すようだ。
「魔王の向かう先がわからんな。そもそも、復活した魔王の目的は一体なんだ?」
「それは魔王に聞かなければわかりません」
「魔法使い殿は……獣人から魔王についての話は聞いておらぬのですかな」
「当時の情勢や、関連した知識は教えてもらったが、魔王自身の目的については伝承以上のことは不明だな」
「伝承では地上を自分のものにする、というのが魔王の目的でした」
教会の人間は過去の伝承に関しては詳しいものの、魔王そのものについての情報は少ない。
「……魔王の力、それに関しては教会で調べたりはしなかったのか?」
「我々は神の下へと送りましたが……それ以上のことはちょっと」
実にあてにならない話である。
「……迷宮、魔王の力……迷宮がある街の場所はわかりますか?」
「示してやれ」
「はっ」
地図上の迷宮のある街の場所に、他とわかるように適当に物がおかれる。そして、最も近い……まだ攻略されていない、最も近い迷宮のある街が、魔王の移動したと思われる直線の先にある。
「……魔王の目的は迷宮にあると言われる魔王の力か」
「可能性はありますな」
「教会が……ああ、すでに破壊されているのだったか」
連絡そのものは届いているが、再度向こうに人をやったりなどはしていない。
「よし、まずそちらに人を向かわせよう。何かが起きていれば、魔王の目的が迷宮にある可能性は高い」
「少なくとも次の目的地を絞ることは出来るでしょうな」
ひとまず迷宮の方に騎士などの連絡要員を送ることに決まったようだ。会議はひとまず終わり、解散となった。俺もその場を去ろうとしたのだが、王様に引き留められた。
「すまないが、少し話がある。後で使いをよこすのでそのものについてきてほしい」
「はあ……」