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「……酷いね」
「ああ、そうだな。いったい何があったのやら」
魔王の住んでいた地域へと入る際、国境みたいな、関所というか、そういう場所を通った。その時は全然普通の場所だったが、今その場所に戻って来ると、壊滅していた。死体も残っており、片付けられている様子はない。恐らくだが、生存者がいないのだろう。それに、個々の状況を国の方は把握していない、ということだ。
「……とりあえず、放っておくのも忍びないし、片付けるか」
「うん」
「人間の死体の方はこっちが始末するから、エリテは瓦礫なんかの破片などを一か所に集めてくれ」
そういったことは別に俺たちがやる必要もないが、このまま放置されると、死体から発生する疫病の類で酷いことになる可能性はあるし、そもそも放っておくのは人としてどうかとも思う。
人間の死体を一か所に集める。一々弔うのも大変だし、一か所に集めてまとめて焼いて処理するほうが楽で早くて安全だ。後の処理、焼いた灰の類を埋めるのも楽だし。最も、素手でやるわけではない。もちろん魔法で動かす。ここにいた人員そのものはそこまで多くなく、すぐに集まったので、焼いて処理し、埋める。そのあとはエリテに任せた瓦礫の撤去を行う。こちらは特に何もせずに置いておく。持ち帰って再利用する、というの考えたが、勝手に持っていくのは微妙だ。どうせばれないだろうけど。
「これで最後ー!」
「しかし……完全に壊されていたな」
建物は原形をとどめていない、というか、少しでも建物らしき跡が残っている様子がない。単に襲われたわけではないのだろう。そもそも、ここは何に襲われたのか。巨大魔物はありなくもないが、様子からは考えづらい。魔物ではなく人間の類であれば、もう少し何かしているし、建物を完全破壊などしないと思う。やはり、魔王復活の影響……魔王が破壊した、と考えるべきか? でも何故魔王が破壊したのか、という疑問もある。
「ジュンヤ、この後はどうするの?」
「魔女に会いに行く……となると、こっちに来るまでの道のりを通ることになるな。ほぼ逆方向だったわけだから。基本的には今まで通った街を逆に辿ることになる」
魔女のいる場所は話を聞いた限りでは俺の最初に訪れた村の方面だ。最も、村とは別方向であるらしいが。トゥエルバから村の方向とは逆よりに進むとあるスィーベンという村があり、その近くの荒野にいると言う話である。今まで通ってきたルートを考えるとかなり遠い。魔王の住んでいた場所に訪れた魔女は別方向にいたんじゃないかと思う程度には遠い。最も、魔女に関しての情報は他にない以上、そちらにいくしかない。
自分たちのたどったルートを通り、迷宮のあった街イーニンへと向かう。その道中、何やら魔物に襲われているらしい馬車を見かけた。
「……どこかで見たような」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! ジュンヤ! 助けないと!」
エリテがダッシュで向かっていく。魔物に襲われている、というと単純だが、数が数だ。数十匹、周りを囲まれている状況だ。騎士が円陣を組んで耐えているから今は何とかなっているが、そのうち駄目になるだろう。騎士、そう、守っているのは騎士なのだ。馬車にある紋章も見覚えがある。
「はあ……またこういうことに巻き込まれるのか」
姫さんか、王様かは不明だが、そういうことなのだろう。
「また助けてもらいましたね、ありがとうございます」
また姫さんと馬車に乗って移動である。二回目、周囲が魔物という極限状況から助けてもらったためか今回はそこまでこちらに厳しい態度はとっていない。
「いえ。それにしても、何故あれだけの魔物に?」
「それはわからないが……我々は隣国へと向かっている状況だったのが、突然あの魔物の群れが現れたのだ。そして、襲われた」
「突然……いつ頃?」
「ジュンヤさんが来た時間の少し前です。私を守る騎士たちも、あれだけの数ではあまり長くは戦えませんから」
確かに数十匹の数に襲われて長持ちするのは無理だろう。最も、周囲に満ちて同時に襲う場合でも数の限度はある程度あるが。
「……実は、ここに来る前に魔王の住んでいた場所へと向かっていたんだが」
「危険地帯に? なんと無謀なことを」
「……でも、ジュンヤさんとエリテくんは無事ですから、あまり中に入らなかったんですよね?」
「がっつり奥まで行った。流石に魔王のいた場所まではいけなかったが……そこから戻ってくる途中、国境、入るときに訪れた場所が破壊されていた」
「……破壊されていた?」
騎士と姫さんにこれまでの状況を説明した。流石に魔王の結界や、獣人に関しては教える意味もないし教えても仕方がないので言わなかったが、魔王の住んでいた場所で探索をしたこと、そして状況の変化、異変、関所の破壊跡、諸々の話だ。
「……何者かが襲った、それは魔王かもしれないと?」
「ふん。魔王が復活したなどとは戯言にすぎん……とは思うが」
騎士は否定するものの、やはり不安はあるようで、完全には否定しきらなかった。
「もし、それが本当なら、教会に行ってみるのもいいですね」
「あそこは神、神と言ってばかりで信用なりませんが」
「もう、否定してばかり」
先ほどから内容に関して騎士は否定ばかりをしている。騎士としては、そういう曖昧な情報や、信心を信用するわけにはいかないという所なのだろう。
「まあ、とりあえず……戻る……と思ったんだが、そちらは戻っていいのか? 隣の国に行く予定だったのでは?」
「急ぎというわけじゃないですし、距離もありますから、あれだけの魔物に襲われて無事だったとはいえ、一度街へと戻らないと大変です。だから大丈夫ですよ」
「我々の乗る馬も、魔物に襲われたときに多くを失った。歩きで行くにはさすがに遠いからな。補充せねばならん」
「……そちらがそれでいい、というのなら別にいいが」
こちらとしても、魔法で移動というのも楽だが面倒だし、こういう馬車に乗せてもらえるのはありがたいと言えばありがたい。多少とはいえ、情報の収集、共有もできるし。
「……………………」
「エリテくん、さっきから話しに入ってきませんけど、大丈夫ですか?」
「え、えっと…………」
「ほら、話しましょう」
「あうう」
エリテは今、隣に姫さんがいる、いるだけではなく、姫さんが寄っているせいで緊張気味だ。騎士は睨んでいるが、今回の殊勲はエリテにある。そういうこともあって、エリテに対して強くは言えない。姫さんのわがままを何とかすればいいのでは、とも思うが。
「どうせだから、お前が何か話せ。魔王の住んでいた場所に行ったということだし、色々と見てきたのだろう? お前の連れている獣人は話せる状況ではなさそうではなさそうだからな」
同乗している騎士がこちらに話をするように振ってくる。一応エリテに助けてもらっというのも強くあるため、そこまで獣人だからということでの嫌悪感は薄まっている感じはあるが、やはり姫さんの側に、というのはむっと思う所があるのだろう。だからこちらに話をさせて意識を向かせたい。
道中、結局あまり話せることはなかった。代わりに魔王の住んでいた地域での話ではなく、迷宮関連の話をするにとどめた。それはそれで楽しんでもらえた感じではあるが、今その迷宮のある街に向かっているのである。そして、今向かっている街の話をして、たどり着いた。
「……教会、無くなってますね」
「いったい何があったんだ?!」
町は一応無事だったが、教会が完膚なきまでに崩壊していた。もはや疑いようもない。魔王が復活した、そう思うべきだろう。