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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
wizard
242/485

45

 魔王の住んでいた地域、その獣人の村にて、皆口純也はそこそこの時間滞在する。それはその地における色々な状況、魔王の能力によって変質した法則や、結界のような力の作用、残っていた獣人たちから得られた情報の精査と知識の確認、様々なことがあったからだ。また、誰も訪れないその地域に隣接する他の国の国境付近まで、他国の情報を調べに行ったりなどもしていた。流石に他国に侵入するとなると、色々と気苦労も多くなるのでそこまですることはなかったものの、他国においてのこの地域の扱いはどうか、などを調べていた。その他にも単に生活するうえで色々と知識から物を作ることをしたり、知恵の提供を行い、獣人を使っていろいろなことの実践や試行を行ったりと、色々とおこなっていた。

 そんな純也の行動とは別に、世界ではある出来事が起きていた。

 迷宮探索は、その内容に対し報酬がない。厳密な言い方をすれば、迷宮を攻略し魔王の力を入手して教会に持ち込めば、相応の報酬が得られる。しかし、通常迷宮を探索することで得られるのは魔力石のみ、下の階層に行けば行くほど、魔力石は良いものが手に入るが、変わりに魔物が強く構造も広くなり大変になるし、迷宮攻略において迷宮から一日で戻れないほど下の階層に行くことは難しい。迷宮のシステムのせいで留まることが難しいからだ。それゆえに、迷宮探索は魔力石を入手するのを目的にされており、滅多なことで迷宮の最奥まで攻略しようと言う人間はいない。

 しかし、本来はそんなことはない。教会が設立された当時は多くの人間が迷宮へと向かい、攻略がなされていた。当時は魔王という脅威に対しての認識がしっかりとしていたからだ。だからこそ、魔王の力を回収し、教会を通じて神へと渡し、魔王という存在を復活させないように人々は努力していた。だが今はそんなことはなくなり、魔力石を回収するだけだった。

 その情勢が変化したのは、新たな迷宮攻略者の誕生によるものだった。詳しく語る必要はない。純也が迷宮を探索し、最奥を攻略して魔王の力を回収し教会に渡した、そのことが各地の教会やギルドなどに伝わったのである。そして、その結果教会が出した報酬、褒章に関しても。それらの情報は、迷宮を攻略している一部の人間の心に火をつけた。迷宮に入っている多くの人間は魔力石をとり、それをギルド側に売ると言う生活をしているか、攻略により実力を示す事だけを目的としていたが、中には最奥を攻略したいという冒険心にあふれた人間もいた。彼らは迷宮攻略者の情報を聞き、自分たちも、と迷宮へと果敢に挑戦していった。

 彼らは純也やエリテほど、攻略するのに楽な条件があるわけではない。そのため、彼らは多くの同じ目的の人間同士、協力し合うことを選んだ。かつても同じようなことはあったが、彼らは自身の功名心、自分だけの利益を目的としていたせいで、自然と途中で協力関係が崩壊し、結果的に攻略へとつながらなかった。しかし、彼らは本当に迷宮攻略のみを目的としたため、かつての同様の人間とは違い、本当に攻略を成功させていった。

 もちろん、それは全ての迷宮で同じ結果を出せたわけではない。迷宮によって、難易度は同じではない。純也の攻略した迷宮よりも深い迷宮もあれば、浅い迷宮もある。迷宮の構造もいろいろだ。つまり、攻略できた迷宮もあれば攻略できなかった迷宮もあると言うことである。

 多くの迷宮において最終階層のボスはもちろん存在した。純也とエリテですら、攻略には相応に苦労を要した相手、そんな相手を普通の人間が倒すことは出来るのか。結論を先に言うと、倒すことは出来ない場合がほとんどだ。時には倒せる人間もいたが、それは極めて例外的な実力者の場合である。ならばどうしたかというと、そもそも別に倒さなければいけない、ということはなかったのである。後ろにある扉まで行き、中にある魔王の力を奪えばそれでよかった。最も、倒さず魔王の力を持ち帰るのは相当難しかったわけだが。

 そんなこともあり、複数人、まとまった形であるため、色々と困った事情はあったが、相応の褒章を得られる形で迷宮を攻略した人間は増えていった。そして、迷宮を攻略し、得られた魔王の力ももちろん増えていった。そして、それらは神の元へと送られた。

 その日も、迷宮攻略者によって教会に渡った魔王の力を、教会関係者は神の下へと送っていた


「さて、これでよし……」

"汝らの献身、感謝する"

「っ!?」


 教会関係者は神の下に魔王の力を送ると言うことは出来ても、直接神の存在を感じたことはなかった。しかし、今日は違った。魔王の力を送った後、何者かが語りかけてきたのである。


「おお、まさか……! 我らが神にございますか!?」

"確かに私は神と言っても過言ではない。少なくとも、汝らにとってはそのようなものであろう"


 教会関係者の問いに、その存在は是と答える。教会関係者は、ようやく神に力をささげる、教会のしてきたことが正しかったのだと、そう思った。


「ようやく、我々の苦労が報われたのですね……我らが神よ!」

"うむ。これでようやく私もやるべきことをやれる"

「ぜひ、我らをお使いください。神のために己の生を捧げ、活動することが我らの使命です」


 言っていることは少々過激だが、協会に所属す多くの人間はそれほどまでに神という存在を尊敬し、活動している。そうでなければ、今まで教会が維持されることもなかっただろう。それくらいに神と人との関係は薄まっている。神話として知っている者はいても、その話に出てくる神の存在が本物であると思っている人間は多くない。


"いや、必要ない。私のするべきことに汝らがかかわる必要はない"

「そんな! ぜひとも我らをお使いください! 我らは神のために……」

"私にとって、人間は必要あるものではない。私を討った存在などな"

「…………我らが神を討った?」


 話しかけてきた存在、その存在が語った言葉は教会関係者にとって、理解できないものだった。その言葉通りであれば、人間が神を討った、というふうに解釈できるだろう。教会関係者の考えている通りの内容であるならば。だが、そのあとに語られたことは、すべてを覆す内容であった。


"そもそも、私は神ではない。汝らは勘違いをしている"

「なっ!? ならばあなたは一体なんだというのですか!?」


 彼に話しかけてきた存在は神ではない、と自分から言い始めた。いきなり自分の思っていたこととは違う内容、それまでの会話の内容から類推できることとは全く違うその発言に、つい声を荒げて問いかけてしまう。


"わからぬか? わからぬというのであれば、実に残念な思考能力であると言わざるえを得ぬな"

「な、な……何だとっ!」


 馬鹿にされて怒ったはいいものの、結局彼は答えを出せなかった。それは本当に答えを出せなかったのか、それとも無意識にたどり着くべき答えを考えなかったのか、それはわからない。語りかけてきた声は少しの嘲笑を含み話しかけてきた。


"結局、わからぬのだな。せっかく神の恩恵を受けてきたというのに、愚かしい。私と戦っていた時と比べるとあまりに衰えている"

「戦った…………人間と……まさか!?」

"私の力を私に返すことを続けてくれたのには感謝しているぞ、人間よ"


 語りかけてきた存在、それはかつてこの世界に存在した魔王。そして、今まで教会関係者は魔王へと、魔王の力を送っていた、すなわち魔王をもとの存在へと戻す手助けをしていたということになる。


「いったいなぜだ!? 何故魔王が!? いつから!?」

"最初からだ。教会はそもそも、私が作らせたものだからだ"

「な…………」


 もはや二の句を告げないほどの精神的な衝撃を与える言葉を魔王は言った。教会が神の手によって作られた、ということになると、そもそも神として彼らが崇めてきたのは神ではなく魔王ということになる。それは彼らの信じていたものがそもそも間違いである、信仰の否定になってしまう。それは、たとえ真実だとしても、絶対に受けれ入れられないようなことだ。


"神は迷宮に私の力を封じた。自分で持っていればこちらに渡ることもなかったが、そうはできなかったからそうせざるを得なかった。だからこそ、その隙をついて私の力を取り返すことができた。人間を使って取り戻させたのは意趣返しのようなものでしかないがな"


 迷宮は、魔王の力で生まれたものでも、魔物によって作られたものではない。全ては神が魔王の力を封じるために作ったものだ。中にいる魔物が外にいる魔物と違うのは当たり前の話である。外にいる魔物は魔王が作り、迷宮内の魔物は神が作ったもの、それが違うのは当然だろう。


"さて、必要なくなったものは処分せねばならぬな"

「うっ!?」


 語りかけてきた存在、魔王と会話をしていた教会関係者がその身に異変を感じ、倒れ伏す。


"私とずっと繋がってきていたのだ。私が汝らに力を振るうのは難しいことではない"

「がっ………ぐ、ぐっ!?」


 倒れ伏したその体が、爆発的に膨れ上がる。まるで膨らませた風船のように。


"汝らの献身、感謝する。これからこの世界は私が苦難を持たらす。そして、汝らは私の復活に手を貸したと知られることになるだろう。その時のことを考えれば、今この場で死ぬことこそ、汝らにとっては幸せであろう。感謝は本物だ、だから、ここで死ぬがよい"


 膨れ上がった肉体、そこに込められた魔王の力による変質させられた力の塊、それは教会を破壊するほどのエネルギーとなって、周囲を襲う。その日、復活した魔王の手によりほぼ全ての教会は破壊された。


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