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結界沿いに歩いているのだが、もう半日も歩かされている。本当にこちらが目的地なのか怪しいと感じ始めた。もしかしたら仲間の下に案内してこちらに不意打ちを仕掛けることでも考えているのではないだろうか。こうやって前を先導している仲間を見れば、こちらが脅していると考える可能性もある。いや、流石に考えすぎだとは思うが。
「なあ」
「何だ?」
「本当にこっちでいいのか。ずっと歩かされているんだが」
「三日はかかる予定だ。そもそも、我が監視に着いた場所はかなり住んでいる場所から遠い場所なんだ」
三日? 時間がかかりすぎる。その間ずっと歩かなければならないのか?
「三日間歩き続けるの?」
「そうだ。珍しくもない。結界沿いはまだ巨大魔物が出現しないから移動しやすいのだぞ?」
確かに巨大魔物は出ていないが、だからと言って三日間歩き続けるのは正直嫌だ。
「……目的地だけでも教えろ。ここから見える場所なのか?」
「ああ。ここにある結界の向こう、あちらに見える山の麓だ。巨大魔物は平原の地域しか出ない。山はデコボコとして、高低差があるため、足場が悪いということで出現範囲にしなかったのだと言われている」
結界の先に確かに山が見える。結界からはそこそこ遠くにあるようだ。
「場所が分かったなら問題ない。エリテ、暴れるなよ」
「うん」
のんびり歩いて行くのも疲れるし、頻度が少なかろうと巨大魔物が出ることには変わらないのだろう。歩いて魔物が出るのであれば歩かなければいい。距離が原因だろうと移動速度は歩きよりも早いし、襲い掛かるのが難しい、発見しにくい位置にいればいい。
「何を……?」
「歩きが面倒だから、空で行く。飛行の魔法、我らを運べ。"エアフロートフロア"」
魔法を使い浮かび上がる。ただ、この魔法は浮遊の魔法とは違う。
「わっ!?」
「なっ!? 突然視界が……足元が上がった!?」
見えない足場を作り出し、その上に乘った状態で空中に浮かび上がる。流石に足元に何か存在している事すらわからないのは少し怖い。
「立つことを維持できそうにないならしゃがむと言いぞ。あんまりスピードは出さないから大丈夫だとは思うが。行くぞ」
床を動かし、結界に沿って目的地へと向かう。結界に衝突すると怖いが、なにも生えていない境界線があるからわかりやすくていい。映画のバミューダの壁見たいのだったらわからないし触れたら死にかねないし。
「い、移動しているのか!? これはい、一体!?」
「ジュンヤの魔法だよ。凄いでしょ」
エリテ、味方かどうかもまだ不明な相手に情報を教えるのはよくないぞ。空中、四階建ての建物くらいの高さに浮かび上がり移動する。この高さだと、安全とわかっていても下に何もないと怖く感じるな。そして魔物が出現するのが見える。流石に高所にいるからか気付いていない……と思ったらすぐに気付かれる。
「む! 出現したか!」
「でも、空中なら……」
駄目に決まっている。あの大きさの人間だと仮定してもこの高さなら普通に届く。まあ、重力、落下、地面は一番の攻撃手段、使い減りしない武器と言われるし。
「飛んできた!」
「"シールド"」
跳んでくる巨大魔物が何かに衝突したかのように頭を打って地面に落下する。サイズがサイズなので、落下ダメージも大きいだろうけど、元が大きいから高さがそれほどでもない扱いになるから結局受けるダメージは少なそうだ。最も、同じことを繰り返すのであれば、目的地付近で楽に倒せるだろう。
道中でもう一体出現したが、途中までついてきた巨大魔物を見つけるとそっちに食いついた。ダメージを受けているのもあって襲いやすいとは思うが、あいつらには味方とかそういう概念は無いようだ。ある一定条件による定期出現とはいえ、すべてが味方マークのない存在なのだろうか。もし同種の巨大魔物同士が出会った場合は? あの巨大魔物の出現がどういうものなのか調べたいところはあるが難しいだろう。そもそも結界と同じく魔法の類ではない可能性が高い。
そこまで考えて、迷宮の魔物の出現も魔法の類ではない。自然発生の類でない魔物という観点では同じだ。あそこも魔法の知識で分からない部分が多い。魔王が関与しているのであればここもあそこも同じ、という点ではわからなくもないが……
そんな考え事をしていると山の近くまで到達していた。道中に現れた巨大魔物は二匹で、同士討ちをし始めたのでこちらにはついてきていない。
「なんと……もうついてしまったのか」
「地面を移動するよりも早いし楽だったな。だが、そろそろ日が落ちる頃合か」
もう夕方が近い。戦いもなく、障害物もない空中を高速で移動、それでも歩きで三日かかる距離だから相応に時間がかかる。
「野宿になるのかな?」
「いや、ここまで来た以上、我々の住む村にまで案内する。我も自分の家で休みたいのでな。久々に家内に会うのもよいだろう」
家内? えっと、嫁さん? え、こいつ独身じゃないのか。時代劇風味な妙なしゃべり方をしているから変人の類かと思っていたが。
「結婚してたのか」
「へー」
「……以外そうに言われると我も傷つくのだが」
「止まれ!」
「……お前は」
二人の獣人が木の上から現れた。不意打ちされる可能性もあったので一応防御の準備はしておいたが、必要はなかったようだ。
「攻撃はするな! この者は客人だ!」
「……サディン。何をやっている?」
この獣人の名前はサディンっていうのか。そういえば名前を聞いていないな。自己紹介もしていないし。
「我はこの者たちに負けた。この者たちは、平原の向こうから来たようで、魔王の知識を欲している」
「……敵ではないのか?」
「それは我に判断できることではない。長に話をつないでくれ」
「………………」
二人の獣人が互いに顔を見合わせている。ぽそり、と互いに顔を近づけ何かつぶやいている。ぴくり、とエリテが耳を震わせた。
「エリテ?」
「サディンごと始末するか? 面倒ごとは排除したほうがいいな」
エリテがぽつりと呟く。機転が利くようになった、と言いたいところだが、流石にその音量だと向こうにも聞こえるぞ?
「なっ!?」
「耳がいいなっ!」
「サディン、悪いな!」
二人が襲い掛かって着ようとするが、遅い。完全に不意打ちできていればまだわからなかっただろうに。
「"パーソナルスペース"」
者が接触する直前に弾かれる。いや、弾いてはいない。ただ、少しの空間を開けたところで止まっているだけだ。
「止められた!?」
「奇妙な術を!」
俺たちを狙ったものだが、一方のはサディンで止まっている。本当に一緒に斬る気だったか。
「"ストーンエフェクト"」
ぱきん、と門番であるだろう二人の獣人の動きが完全に停止する。まるで石化したかのように。
「……いったい何を?」
「ちょっと停めただけだ。解除すれば戻るし、数日放置してれば直る」
時間ごと停止しているから死ぬこともない。まあ、交渉決裂すれば放置決定だな。
「とっととお前が長のところに案内しろ。直接話す」
「……わかった。途中でどうなるかはわからぬが、お前ならばなんとでもなるだろう」
その認識は正しい。実に正しい。




