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教会からの迷宮攻略の報酬をもらった後、その街を出て各所を巡る。姫さんを救ったことにより移動の制限がないことや、教会からの迷宮攻略の証明もあって、普通に旅人として生活するのに問題がなくなった。おかげで色々な場所をめぐるのに不都合がないのはありがたい。
道中では色々な魔物を討伐したり、様々な素材の収集に勤しむ。エリテの修行に関しては迷宮以上の成果が地上ではないような感じなので微妙なところだ。かといってまた迷宮に行って修行というのもエリテは嫌なようだが。
しかたないので街をめぐるついでに修行になりそうなギルドの依頼を探し受けることにした。エリテもそういった仕事をすること自体は悪くないようだ。そのついでに街での獣人の様子、獣人の生活を観察する。見た限り、そこまで極端に酷いことにはなっていない。これはこの国の王の方針か政策あたりで何とかされているからなのかもしれない。
「……もっと別のところを見て回るか?」
ここまできて思ったのはずっとこの国にいても仕方がないということだ。俺の持っている色々な権利はこの国だから適用されるのであり、他の国では適用されないだろう。かといって、ここでやれることはだいぶ少ない。
だが、その場合はエリテが問題になる。この国における獣人の扱いは他の国よりもかなりいい、と聞いている。もしエリテを他の国に連れていけば、この国にいる時よりもひどい扱いになる可能性は少ないない。北、エリテが逃げてきた方角にある国は最もひどいという話もどこかで聞いた気がする。
「そのあたりどうするかはエリテに直接聞くか。問題は、どこに行くかだな」
ここにいても仕方がない、といってもどこに行くかは別の問題だ。ただ旅をするだけならばどこでもいいかもしれないが、どうせならば実のある旅にしたい。特に魔法に使用するような素材収集は行いたい。発展性がなければつまらないだけだ。
今まで各街をめぐり聞いてきた話の中で二つ、行くところい着いて考えられることがある。
一つは魔王の住んでいた地域だ。どうも以前魔王が住んでいたところは今も人が住んでおらず、自然のままであるらしい。理由は魔物の存在だ。魔王がすでに倒されていると言っても、魔物全てが死んだわけでもない。今の状況を見ればわかるが、魔物は魔王が死んでも生きている。魔王が存在したことにより生まれた強力な魔物が今もいる、ということで人はそこに入らず隔離することで対処しているようだ。また、ここには現在も当時魔王側に着いた獣人の多くが住んでいる、という話もある。そちらにコンタクトをとるのも悪くはないのでは、と思っている。
もう一つの選択は魔女と呼ばれる存在だ。どうも、国の外れ、人の住まないような荒れた土地に魔女と呼ばれる存在が住んでいるらしい。あまり人とは関わらないが、対価をもって訪れればその対価や願い次第だが、相応のことをしてくれる……らしい。あくまでそうであるらしいという話だ。どうも最近は人が行ったことがなくて実際に体験した話がないらしい。なので今も生きているのか、実際に願いを叶えるための行動をしてくれるのかは不明、そもそもどれだけの対価を要求されるのかも不明である。ただ、魔女と呼ばれる存在については情報があり、相当に長生きで数百年以上余裕で生きるらしい。ならばまだ生きていると思ってもいいだろう。
この二つ、現在自分が考えているこの先どうするかについてだが、まず場所の問題として、魔王の住んでいたところが近い。魔女のいるところはかなり遠いのでどうしても行くのは大変だ。そう考えると、魔王のいた地域に行ってみるほうがいい。素材的にも充実するかもしれないし、エリテの修行になる可能性もある、獣人も住んでいるということで話を聞ける可能性もある。
「……とりあえず魔王のいたところに行くとして、あとはエリテがどうしたいか、だな」
エリテがこの国を出て他のところに行きたいか、それを聞かなければならない。エリテにとって、この国は他の国よりも住み心地はいいだろう。もちろん、獣人というだけで扱いは普通よりも悪いが、それでも色々な恩恵によりかなり改善されている。他の地域ではそういった良い状況がない可能性が高い。わざわざ悪い環境に行きたいか、というとそんなことはないはずだ。
夜、宿に戻り同じ部屋に泊まっているエリテにこの先についてのことを話す。
「エリテはこの先どうしたい?」
「どうって?」
「何か目的、行きたいところ、そういう所はないかってことだ」
そう尋ねてすぐに考え始めるが、すぐに答えが返ってくる。
「特に……ないかな。そもそも、欲しいものってあまりないし」
「そうか」
欲がない、というと少し違うか。今までの生活的に、こう目標、目的とするものができなかった、思いつかないというのが正しい気がする。そもそも大変な状況から逃げ、俺と出会いかなり恵まれた環境になった。ある意味、生活的な改善がなされたことで何かしようという目的がなくなった感じはある。家族を探す、というのも悪くはないかもしれないが、生きているかも不明でどこに行ったかもわからないから探しようがないだろう。いや、魔法を使えばできるか?
「家族を探す、とかは?」
「……今更だよ。ある意味、僕は独り立ちしちゃった感じだから、もし会えたら、とは思うけどわざわざ探そうとは思わないかな。強く生きていればいいんだけど」
なんだかんだで精神的に成長したためか、家族を思って、とかそういうのは特にないようだ。
しかし、このまま何も目的も目標もなく生きると言うのも寂しいし、何か持ってほしい所がある。俺に関してはある意味目的、目標はあるが、それに関しての準備自体はすでにすんでいる。あとは半ば道楽的なものでしかない。
それならば、エリテがこの先どうするか、どうしたいか、それを探す自分探しの旅、にでもした方がいいだろうか。
「なら、今は特にすることがない、ということか」
「そうだね。でもいきなりなんでそんなこと聞いてくるの?」
素直に尋ねられると少々困る。
「……俺は一度、国外の方に出ていろいろ見てみたいと思ってる。だけど、エリテがそれについてくる必要はない。何かすることがあるならエリテをこの国に置いていくのはどうだろう、と思ったんだ」
「……え? 僕を置いてくの?」
悲しそうな顔をされる。捨てられた子犬のような感じだ。
「この国は獣人にとってかなり住みやすい方だ。他の国はそうでない、となると住みやすいほうがよくないか?」
「……僕はジュンヤについていく。ずっと前からそうしてるし、これからもそうする」
「……なぜそこまで俺についてくことに頑なになる?」
前からエリテはどうも俺を信頼しすぎている気がする。たまに怒ったりもするが、それでも俺自身を嫌うということはないような気がする。少し自意識過剰な気がするが。
「恩返し……かな? 僕はジュンヤに助けてもらった、その恩返し。まあ僕がそうしたいから、ってのもあると思うけど」
恩返しでついてくる、というのも変な話だ。むしろ足手まといが増える、という考え方もできるので一概にいいことではないはずだが。でも、俺としては確かにエリテがいたほうがいいようなところはある。なんだかんだで一人で行動するのは寂しいし、つまらない。大変さはあっても、充実する部分は多い。
「……わかった。ついてくる、というならそれでいい。大変かもしれないけどな」
「うん」
「ひとまず、国外……魔王のいた地域に出る。そこで色々と見て回ることにしよう」
当面はそれでいい。明確に目標、したいことが決まるまではそういう風に適当過ごしていてもいいだろう。