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「なあ、エリテ。魔物の強さはどうだ?」
「上よりも楽。一番上のところよりは強いけど」
「強化しているから……じゃないよな」
「うん。強化してなくても多分、一つ上よりも楽だね」
そもそも一つ上の階層では強化を使っているのだから差の実感はあるだろう。
俺たちは今三階層目に来ている。二階層では無事な魔力石を見かけることなく、三階層目に続く階段を見つけたからだ。しかし、この階層もやはりほぼ折られている。恐らくだが、この階層は二階層目よりも攻略が楽なので、二階層目を攻略した人間がこちらに来て魔力石を回収していくのだろう。
この調子で行けば、四階層目が同じ状態ならば五階層目も折られていそうだ。とりあえず今は四階層を目指すことにする。
「なんで弱くなるんだろうね」
「多分、二層構造なんだろう」
「二層構造?」
二層しか存在しない、という意味合いではなく、二層で一つエリア、という意味合いだ。
「一階層目と二階層目で、強さは違うが出てくる魔物は一緒だ。だけど、三階層目だと強さが下がって出てくる魔物が違う。この場合、一階層目と二階層目は同じ魔物ということで同じグループのエリアになる。強さの差、この場合だと上階層と下階層で、下階層の方が強さが強い。その二つの層で一エリアの構造が続いていく、ってことだ」
「……えっとー」
ああ、ちょっと説明が過ぎたか。エリテも頭は悪くないが、新しいことを覚えようとすると処理能力の限度がある。特に考える、思考する内容には弱い。ただ話を聞く程度ならばまだ許容範囲は大きいみたいだが。
「一と二、三と四、五と六、七と八、九と十が同じ魔物出る場所ってことだよ。簡単にそれくらいで覚えておけばいい」
「……うん、わかった」
最も、この迷宮がどの階層まであるかは不明だ。下階層部分、二の倍数階で最終階層になるか、それともそこから一つ進んだところの奇数階層に他とは違う最終階層部分が出現するのかそのあたりは不明である。
そのまま道を進み、結局無事な魔力石を見かけることなく四階層目の階段を見つけた。そこを下りて、すぐに折れている魔力石を見つける。
「やっぱりここもダメなのかなぁ」
「いや、階段を下りたばかりだと魔物も出ないし、階段を見つけたら一度下に降りて攻略階層を上げたいだろ。すぐのところに魔力石が残っているわけはない」
だから、どうしても奥の方まで言って探さなければならないだろう。道を魔物を倒しながら進む。三階層と魔物は同じ種類だが、やはり強さは上がっている。数は一階層と二階層と同じように四匹が限度なのは変わっていないのだが。
やはりこういう所は奇妙に感じる。出現時間も、魔物の強さが若干上がるのも、出現数が一定なことも。まるで、ゲーム的、いや、機械的というのが正しいだろうか。作為的な部分が見える。あまりにも綺麗な煉瓦の積まれ方からも明らかに普通に作られた場所とは思えない。恐らくだが何か特殊な力によるものか、強大な存在によって作られたのだと思われる。
そんなことを考えながら道を進む。エリテの修行ということもあって、俺が相手をすることはないのだが、それでも玉にエリテもダメージを追うのでその回復くらいはする。身体強化のかけ直しなどは最初にかける時点で一日は持つようにしているので必要ない。
「あ!」
「おっ」
エリテが叫び、俺がそれに続いてつい声を上げる。ようやく、道を進んで折られていない魔力石を見つけたのだ。
「ジュンヤ! これとればいいんだよね!?」
「……これはもちろん持っていくけど、一応もう一つ見つけよう。 一人一つで判断される可能性はあるからな」
「えー……まだやるのー?」
エリテも結構疲れてきている。時間は……わからないが、昼食は途中でとった。時間が不明なので空腹になった時点でとったのだが、それからまだ空腹にはなっていない。あまり過剰に時間は立っていない、ということだろう。
「……もう一つ早く見つけないと夕食食べられないかもな」
「ジュンヤ! 早く探そう!」
夕食がかかっているということもあり、もう一つを急いで探しに行くエリテ。だから、罠もあるのだからこちらが前だと何度も言っているというのに。
もう一つはあっさりと見つかった。一応四階層目でとれる魔力石なので攻略階層は三階層だが、別にいいだろう。最終的に一番下まで行くのが目標なのだから、何回層攻略でも構わない。
「よう、兄ちゃん。地図なしだったから戻るのも大変だったか? もう結構遅い時間だぜ」
「まだいたのか」
迷宮に入るときの地図売りが声をかけてきた。流石に少々筋違いというか、見当はずれな内容だ。
「へっ。地図、欲しくはないか? 戻るの大変でこんな時間になったんだろ?」
「……勘違いしてもらうと困るな」
持ってきた魔力石を取り出すと、地図売りはあんぐりと口を開けて驚いた。その表情を見て思わずにんまりとしてしまう。
「地図は必要ない。わかるな?」
「ああ、わかったよ……俺の地図は三階層までしか埋まってないからな」
実に浅い部分だけの地図だ。せめて四階層を超えるくらいまでは行ってほしい所である。最も、深い階層の情報は重要だから出回らないのだろう。しかし、なるほど。三階層までの地図が売っているのならば、あれだけ取られつくしているのも納得だ。地図があれば三階層まで攻略は容易だ、二階層がどうにかなれば三階層も行ける。ただ、四階層からは厳しくなってくると言ったところか。
「……魔力石の回収ができない原因、あんたか」
「ああ、四階層まで行った理由はそれか。三階層目までは取りつくされてるからなぁ。新しく伸びてくるのもすぐ取られるもんなあ」
実に腹が立つが、これも一つの商売である以上仕方あるまい。大人しくその場を去った。
ギルドに魔力石を提出したら驚かれた。二人のパーティーで一日で四階層まで到達しているというのは相当に珍しいらしい。最も、珍しいからと言って特典があるわけでもない。一応三階層攻略という証明だけは貰ったみたいだが。階層的には四階層まで言っているが、あまり納得がいかない表示だ。最も四階層目入り口に魔力石の存在を見ると仕方ないとも思うが。
「夕食に間に合ったねー」
「何食べるつもりだ?」
「お肉!」
「そうか」
やはり獣人の性質的にエリテは肉食動物っぽいな。俺は何を食べよう。とりあえず未知の食材に挑戦する。しかし、この世界には虫食があり、運が悪ければそれにあたりかねないので怖いのだが。さりげに動物の名前が知っているものと同じでない場合もある。博打は運が悪いから、確実に虫系を回避できるように注文内容を把握できる魔法を使って対処しよう。