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「ねえ、ジュンヤ……結局教会で話してたことってなんだったの?」
宿をとって休んでいると、エリテが昼間に教会で聞いていた話について尋ねてきた。話を聞いている間、聞いても理解できないような、思考限界に達した様子だったので話を分かっていたのかどうかは不明だったが、ダメだったようだ。
「どれだけ理解してる?」
「……神様が人間と獣人に力を与えた、ってところまでかな?」
エリテのような子供でもそこまで理解できれば十分と言えるほどだと思う。最も、これはあの神父の語りが上手だったというのもあるだろう。さすが訪れた人に伝説を語っているだけはある、というくらいの話の上手さだった。
「なら、そのあとの話しか。まあ、あまり内容をそのまま教えてもだめっぽいし、要約して話そう」
内容を要約してエリテに伝える。伝説に関しての話や教会に関しての話は重要ではないのでばっさりと話をすっ飛ばさせてもらったが。俺たちにとって重要なのは、迷宮に関しての話だ。
「迷宮……魔王の力……なんかすごい話だね」
「まあ、凄いと言えば凄い話だな。実際にどうなのかは不明だが、迷宮があるのは恐らく事実だろう」
宿を探す途中、明らかに人の集まっている、物々しい雰囲気のある場所を見かけた。迷宮探索は利益がでないから人がいないものかと思ったが、結構人が集まっているようであるのはどういうことなのだろう。物々しい雰囲気なのは迷宮内から魔物が出ないかを心配して配置している者だと思うのだが。
「へー」
「エリテ、返しが軽いが、恐らく迷宮にはいくことになるぞ? 覚悟しておいた方がいいぞ」
「えっ」
もともと、俺たちが旅をしている目的は金を得ることが目的ではない。話を聞く限り、迷宮内の様子は地上と違うものである以上、中にあるものを調べて回るのは悪い話ではない。中にいる魔物との戦闘はエリテの修行にもなる。素材が残らないというのは少々残念な話だが。
「な、何で!?」
「わざわざ魔物を探す必要もなく襲ってきそうだし、死体に関しての処理も必要ないだろう。だいたいこういう所の魔物は強そうだし、地上と違う魔物であるらしいから経験としてはいいはずだ。まあ、ほぼエリテの修行用だな」
「えーっ!? 別に普通の魔物でいいでしょ!?」
確かに迷宮にわざわざ行って挑む必要性もないが、どんなことでも経験を積むのはそこまで悪い話ではない。
「これも経験だ。俺も参加するし、どうせなら一番奥まで行って何があるのかを見てみたくはないか?」
「……見てみたいとは思うけど」
こういう所で冒険心があるのは実に男の子らしい。最も、やはり迷宮に入るのは怖いか。話はそれくらいで終わって、宿で休むことにした。
「あれ? 隠れ家の方にはいかないの?」
エリテはいつもと違って宿で休むことに驚いた様子である。
「あそこはそもそも隠れ家、隠れる場所なんだ。今回みたいに普通の宿屋に泊まれるなら行く必要もないだろ。だいたい、布団とか食事はここの方がよかっただろ」
「うーん……そうなんだけど、いつもと違うからなぁ」
「本来であればこういう宿で休むのが普通なんだ。あっちで休むことに慣れすぎてるせいで違和感を感じるんだろうな。でも、こっちで休むことにも慣れないとだめだぞ」
最も、連れて行っているのは俺なんだけどな。
「布団……ベッド? これ向こうじゃ作れないの?」
「素材がないからなあ……結構な量が必要だし、作るなら一定の品質と種類が必要だったりするし。まあ、そういうのを気にしなければ簡単に作れそうだけどな」
そもそも素材をわざわざ自分で集める必要もないし、買ってもいいんだけど。まあ、良さそうなものを見つければ集めるということでいいだろう。
翌日、迷宮があったと思わしき場所に行く前に色々と情報がありそうなギルドに向かってみた。ギルドであれば、情報収集もできるだろうし、依頼か何かを見れば何かわかるだろう。そう思ってエリテを伴ってギルドへ向かうと、朝の最もギルドの混む時間は過ぎたのにまだ人が多い。そして、依頼を見てみると、その依頼の中に三層以上攻略者などの今まで見たことのない情報が条件にかかれていいる。
まだ混んでいるからギルド側が困るかもしれないかと思ったが、こちらとしてもこのままギルドにいてもしかたないし、今の時間帯に混んでいる以上他の時間帯に空くとは限らない。なので、誰も相手をしていない開いている受付に行き、話を聞いた。
「すまないが、少しいいか?」
「ん? なんだいあんちゃん」
相手をしてくれるのはそこそこの年齢に達している男性のギルド員だ。かすかに前髪が後退している様子が見える。後で魔術で禿になるのを防ぐ魔術を探そう。
「ここのギルドの依頼に書いてある何とか層以上攻略者、っていうのはどういうことだ?」
「そりゃ迷宮のことに決まっているだろう。今更……ああ、あんたここにきたばっかりか、もしかして。ちょっと左手だしな」
やはり書かれている内容は迷宮に関してか。しかし、迷宮の攻略がなぜ依頼に書かれて、しかも条件として指定されているのか。言われた通り左腕を出す。そこに板を出し、何か情報を写している。
「おう、いいぞ。そっちの坊主も左手だしな」
エリテも同じようにして、情報を板に映し出す。それがどのような意味合いがあるのかが不明だが、恐らくはああすることで何かわかるのだろう。例えば最後にどこのギルドに寄ったか、とか。やはりギルドでつけた左手の宝玉は怪しい感じだ。
「それで、詳しく教えてくれないか。推察はできるが確定できないからな」
「ああ、面倒だがここにきたばっかりじゃわからんからな」
受付の男性がここのギルドのみで使われている情報についての説明をしてくれた。正確にはここにギルドだけではないらしい。多くの迷宮のある街のギルドで使われている、という話だ。ちなみにこの街はイーニンという街である。今更名前を知ったところでどうでもいい話だ。
迷宮のある街のギルドでは、ギルド登録者の強さに関して迷宮の攻略階層で計られるらしい。もちろん、今までの実績なんかも考慮されるが、迷宮の攻略階層はその登録した人間の強さを分かりやすく示してくれるものだ。
「迷宮攻略階層で実力を示す、というのはわかったが、どうやって迷宮攻略したことを示す? 魔物は残らないって話だが」
「魔物はそうだな。だが、迷宮内部にはそれぞれの階層でしかとれない特殊な魔力石がある。その魔力石が採れる階層の一つ上、が攻略階層として扱われる」
「……魔力石をもってこれば実力証明になる、ということか。でも、そんな判断の仕方だったらずるをする人間が出るんじゃないのか?」
物で判断するのであれば、だれか別の人間が採ってきたものを出せばいいということでもある。
「そりゃそうだがな。だが、実力をごまかしたて依頼を受けてどうするんだ? 依頼を受けても達成できなきゃ意味がねえ。実力をごまかす意味なんてないのさ。それに、攻略階層の指定があるのは討伐とかそういう系統の依頼ばっかりだぜ?」
普通の依頼にはないのか。まあ、薬師に薬を作ってくれという依頼をするのに迷宮攻略してないといけないと駄目なんてこともないだろう。
「なるほど、理解した」
「ああ、ついでに迷宮の魔力石はこっちで買い取るぜ。ある意味それが魔物の素材変わりだ」
つまり、迷宮で魔物を倒してもあまり意味はないが、代わりに魔力石をもってこれば金を稼げる、と。それならば迷宮攻略者が増えるのは理解できる。最も限度はあるだろう。そんなに魔力石ばかり会っても困るだろうし。
「……魔力石の引き取りの限度とかはないのか?」
「あんまり過剰だったら値が下がるけ気にするほどじゃねえ。何に使うのかは言わないが、使い道があるんでな」
無制限に買い取ってくれるというのならばありがたいところだ。
「情報ありがとう」
「なあに。迷宮攻略者が増えればこちらもありがたいんでな」
受付から離れる。
「それじゃあ、迷宮に行こうか」
「……迷宮がどんなところか聞いてないよね?」
「……情報がなくても大丈夫、大丈夫」
「不安だよー」
凄腕の魔法使いである俺がいるのだから大丈夫に決まっている。