8
少々内容があれだが、魔法少女と契約を行う。
特にこれと言って必要な事項はなく、内容だけをしっかりと記述し、互いに一緒に触れるだけらしい。
言われたとおりにすると、宝玉が光を放ち消滅し、自分と魔法少女が放たれた光に包まれる。
「これで契約は完了です」
「おお……おおっ!?」
再び魔法少女が光に包まれる。これは先ほどの契約の光とは違う。
よく見たことがあるタイプの光……変身時によく見る光だ。
眼を逸らす。この手の光に包まれている間は中身が見えないお約束だが、基本魔法少女の変身シーンと言ったらあれだ。
光が収まるまで待つ。収まったので振り返ってみると、そこには黒っぽい衣装の魔法少女がいた。
「衣装変わったな……もしかして悪堕ちしたか?」
悪堕ちは悪の組織側に正義の味方側の人員が傾倒した場合に起きる現象だ。
だいたいはその手の洗脳や調教によって起きるものだ。
今回の場合、こちらにその人生を捧げたような感じなのでそういった現象が起きてしまったのだろうか。
だとしたら面倒なことになる。正義の味方側に仲間の扱いをされることは少ない。
「いえ……多分これはダークヒーロー化、でしょうか?」
「ダークヒーローってもっと別方向じゃなかったか?」
「でも、衣装は色が変わったくらいで露出が増えたわけじゃないですし……」
悪堕ちした魔法少女は何故かその衣装の露出度が露骨に増えるらしい。
確かに今までの経験上、そういうことが起きるのは確認済みだ。
それを考えると、今の魔法少女の変化は服の色が暗めな色になっただけだ。露出は以前の服と同じで二の腕部分くらいだ。
「なら、大丈夫か……?」
「私のことを心配してくれているなら大丈夫です。今回のことは上には報告しています」
「あ、そう」
正義の味方側で問題がないならばまあいいや。
「……とりあえず、こんなところで長々話すのもあれだからちょいとうちにくるか?」
「いえ、どうせなら私の部屋にしましょう。匿う以上、今の居を移す必要がありますよね」
確かにそうだが、女の子の部屋に行くというのは初めての経験だ。ちょっと臆してしまう。
だが、結局はいずれいかなきゃならないならば今行こうが後で行こうが変わらない。
「わかった」
「そういえば、お互い自己紹介もしてないよな」
「そういえばそうですね。あなたの名前すら知りません」
なんというか、お互いの立場や出会い方のせいか、色々と歪な関係だ。
「俺は佐山浩二だ。まあ、普通の悪の組織の社員だよ」
「私は水城若葉です」
「……それだけ?」
「他に何か?」
いや、自己紹介なのだからもう少し自己アピールをするべきではないだろうか。
「家族とかはいないのか? そういえばそっちは何も言ってこなかったのか?」
「家族はいませんよ。私は孤児です」
「……悪いこと聞いたか」
「いえ。そもそも正義の味方の直接戦う立場にある人たちは基本的に天涯孤独です。普通は子供が怪人と戦いと言ったら親は止めますよ」
目から鱗である。言われて確かにそれもそうか、と思ってしまう。
実際にそういう立場になることを認める親なんてよっぽどあれな人だ。
まあ、志願制でなりたい奴がなる、くらいには思っていたが。
「……一人で住んでいるところに男を連れ込むのはどうなんだ」
「別に何か問題がありますか?」
「ありまくりだろ……」
しかも相手は悪の怪人なんだから。少しは自衛ってものを考えるべきではないだろうか。
「……ああ、男女のあれこれですか?」
「まあ、その手だ。正直心配になるぞ」
「そもそも私はあなたに何かされれば抵抗できません。心配する意味がありませんよね」
そういえばそういう契約をしていたのだ。ならばある程度は覚悟しているのかもしれない。
「確かにそうだな。ま、手を出す気はないから安心しとけ」
「それはそれで少し傷つきますが」
しれっとそんなこと思ってないですといった表情で言う。
「……ところで、聞きたいことがあるのですが」
「何だ?」
「これからのあなたの立場……動向です。あなたを私が匿い養うことに決まりましたが、これからどうしますか?」
「どうとは?」
「あなたの所属する悪の組織です」
すっかり忘れていた。この魔法少女との対話でいろいろと考えていたことがぶっ飛んだせいだろう。
ああ、そうだ。そもそもあそこで悩んでいたのはこれから起こす事があったからなのだ。
「…そうだな。いや、そもそも正義の味方側に匿われるのだから、やっておくべきことはある」
悪の組織との決別。今回悪の組織側が決めた正義の味方側への攻撃の阻止、および組織を壊滅させること。
そのためにはまず正義の味方側に今回の通達の内容を伝え、アジトの場所を教える必要があるだろう。
……これは自分が裏切りを行うということだ。それに対してのけじめは自分でつけるべきだろう。
魔法少女と話をして、正義の味方側に所属組織のアジトの場所、および攻撃の内容を連絡してもらう。
恐らくその攻撃前に攻め入ることになるだろう。その時は自分も参加する。そう話し合った。
そしてその日が来る。