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「……あれ? ジュンヤ?」
「どうした、エリテ?」
隠れ家で目を覚ます。ここのところ、王城であったり、騎士や姫さんなんかと一緒でどうも拠点で休むということはなかった。今回は王都ミアをでて道なりに進んだところの休憩できる場所で休んだため、久しぶりに隠れ家に戻ることができた。おかげで色々とやれなかったことがようやくやれたのである。一応作業そのものは隠れて王城でもやっていたのだが。
「……ねえ、本当にジュンヤ?」
「どういう意味だ、それは。俺は俺だ、別に変わらないぞ」
「うーん……」
エリテはどうも、俺が俺でないように思っているようだ。少々変わったところはあるが、俺は一応俺である。変わらないのだが。
そう考えていたところ、エリテが俺の体に触れて探ってくる。たとえ体を直接探っても、何もわからないだろう。そもそもエリテはこれ以前俺の体を探ったことはないはずだ。触っても特に何かわかるとは思えない。
「エリテ、触って調べても何もわからないに決まってるだろ」
「うー……確かにジュンヤだとおもうんだけどん、でもジュンヤじゃないような……」
「しつこいぞ。ほら、朝食を作るから待ってろ」
獣人だからか、エリテは妙に勘がいいというか、感がいいというか。ちょっとした変化にも気づくものだろうか。朝食を作り、食べている間にもエリテはこちらをちらちらと見ている。食事中ぐらいは行儀よくしてほしいものである。軽く魔法を使い指導する。
食事も終わり、元いたところに魔法を使い戻った。
エリテと俺が去った隠れ家のなか、まだ俺が残っている。
「エリテは鋭いな、本当に。いくらなんでも魔法まで使って違和感を消しているのによく気づくものだ」
以前から作って試していた人形、生物の肉を使い作り上げた生体人形がようやく完成した。意識を分割、魂を分け、魔力を籠め、自分自身と同一である分体の自分を作り上げた。これこそが俺の目標としていたことの一つ、自分自身の分身の作成だ。俺は生物である以上、無敵ではない。しかし、それでも色々と世界に出てやらなければいけないことがある。それを俺自身がやると、死ぬ危険がどうしても存在する。俺は死にたくない。ならばどうするか?
その答えが、自分が操作する自分自身に等しい人形の作成である。もちろん、それ自身が自分と同一であり、自分自身の一部であるかのようなものでなければならない。遠隔操作は嫌だし、別の自分自身を作ればそれは自分自身ではない。自分そのものでありながら、延長的な別の自分自身として存在する別の自分の作成。魂、意識の方は分割したり操作する魔法があったので楽だったが、肉体の方は大変だった。人形操作の魔法と、人形作成を使いつつ、人間らしく動けるような、人間として活動できるような人形を作るのは本当に大変だった。
「これで、安全に活動ができる。今まではやっぱり不安があったからな」
魔法使いということで狙われる可能性があったかもしれないし、エリテを連れていることで獣人嫌いの過激派に狙われる可能性もあった。魔法を使い防御していたとはいえ、魔物に襲わて死ぬ可能性もある。それらの危険、死の恐怖からようやくおさらばできた。最も、俺自身は安全でも一緒に行動するエリテはそうではない。その部分は注意を払っておかなければならないだろう。
「しかし、エリテが気づくとなると、勘の鋭い人間や身近な人間ならば違和感に気づく可能性はあるか? 改良しないとだめかな」
今後の課題となるだろう。
「それはさておき、これであっちの自分が外で活動している間にいろいろとできるな。とりあえず考えていた一人遊び用の道具でも作ってみるか」
十六ピース、パズル、ルービックキューブ。簡単に作れそうな単純ルールのものだ。最も単純で簡単と言っても作り方は知らないので色々と試してみるしかない。こういう時、知識チートは羨ましい。一応俺は魔法チートなのだけれど。
王都から道なりに進んだ先、中央に大きな建築物のある街に到着した。街の門で門番にチェックされる。今回も、エリテがいるので面倒なことになるかと思ったが、獣人が存在しても特に反応はなかった。正直な話、関所や門で引っかかってきたせいか、その反応に驚いた。
ただ、ギルドの宝玉を見てからは別の反応をされた。
「ギルドに登録してるんですか」
「何か問題があるのか?」
「いえ。ただここに来るのは初めてですよね? なら中央の教会に行ってください」
教会、と聞くと宗教的な何かだろうか。反応から見るにギルドに登録しているとそちらに行くように言われるようだが、一体どういう理由でそうなるのだろうか。
「……獣人が入っても問題ないのか?」
「別に問題ないですよ。あ、他の街だと獣人差別が多いんだったっけ。この街だとそういうのがないので、全然大丈夫です」
獣人差別がない。むしろ逆に怪しく思えるのは俺だけだろうか。
最も、そんなふうに街の入り口で話し続けていても仕方がない。教会に行け、ということなので行けば何かわかる可能性はあるだろう。そういうことなので言われた通り教会に向かった。
教会は十字架こそないものの、前世で、ファンタジー系の作品で見たことのある建物に近い。実際に教会は見たことがないのでわからないが、ゲームや小説、漫画などで見かけるような教会と同じような感じに見える。中に入る。いわゆる参拝者みたいな教会の客となっている存在は見られない。ただ、入り口の先にある机のような場所で、神父っぽい恰好をした男性が座っている。神父……というよりは牧師か? 最も差が分からないが、あくまでイメージ的な印象で、神父よりは牧師っぽい、という感じだ。
「ようこそ、神法教会へ。神へ祈りに来たのでしょうか。それとも、魔王の力を持ってきたのですか?」
いきなり魔王の力、と言われても困る話だ。そもそも、ここはどういう所なのかが不明である。
「そのどちらでもない。街の入り口でこちらに行け、と言われたから来ただけだ」
「……この街に初めて来た、ギルドの登録者ですね。それでは、なぜここに来るように言われたか意味が分からないでしょう。少し、話をさせてもらってもいいでしょうか?」
こちらを見てくる視線に害意や敵意、探るような意思は見られない。俺自身そこまで鋭いわけでもないが、魔法などで感覚を高めているのでなんとなくわかる部分もある。最も確実ではないのだが。
「獣人が一緒だが、構わないか?」
「ええ、問題はありません。神は人間も獣人も同じものとおっしゃっています。そもそも、今の人間社会に蔓延している獣人を下に見る思想の方が間違いなのですからね」
どこまで信用できるかわからない。一応怪しい所はないし、嘘を言っているようにも見えない。そもそも宗教が怪しい、というのはちょっと穿った見方だろうか。
「……まあ、話くらいは聞こうか」
エリテと一緒に教会の中に入る。少なくとも、話を聞かず出て行っても特になることはない。聞くだけならばタダだ。流石にいきなり豹変して襲い掛かってくるということもないだろう。