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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
wizard
227/485

30

「まさか娘が襲われる事態になるとはな。騎士にも被害が出ている。どこの手の物かは分かったか?」


 謁見を終え、玉座の間から出て執務室に戻る途中、エドガルド王は後ろについてきている大臣に、今回の謁見を行うことになったアルリア姫を襲った盗賊たちを送った何者かについて、調査ができているかどうかを尋ねた。


「いえ、まだ不明です。しかし、恐らくは中の者の手によるものでしょう」

「ふん。私が獣人に対して融和的な方針をとっているのがよほど気に入らないようだな」


 エドガルド王は獣人に対しての差別的な対応をよく思っていない。今すぐは不可能であっても、徐々に様々な面で獣人に対してのあたりを弱め、獣人の立場をよくしたいと考えていた。アルリア姫への差別的内容を含まない獣人教育もその一環である。

 なぜエドガルド王がそのような方針をとるのかは、獣人のみが持つ身体的特性や能力を持っていることを知っているからである。今、獣人はその立場もあり、明確に民として認められていない。場所によっては商売すらできず、彼らは彼らで独自の生活をしていることがある。そんな獣人は、彼らの能力により、人間では探せないような物を見つけたり、気づけないような些細な異変を察知したりと、人間よりも優れた能力で糧となるものを得ている。

 それらについての情報をエドガルド王は知り、獣人の力を借りれば様々な分野においてより良い成果を得られると考えた。例えば鉱山を掘る場合などでは、落盤やガスの危険があるが、獣人であれば微かな音や臭いで察知し、回避できる。そうなれば人員を無駄に消費せずに得られる成果を上昇させることができるのではないか。実際にそういったことができないか、と獣人を受け入れられるような方針や政策を考えている。

 最も、簡単に行くようなものではない。今までの教育から獣人に対する差別感は根深く、今でこそある程度緩和し、無反応に近い形になっているものの、それでもまだ壁は残っている。特に貴族などはその筆頭であり、一部の貴族の領地ではこちらの方針に反対するかのように獣人を差別的に扱う場所もある。最も、そういった土地から逃げ、別の領地に移った獣人も多いが。獣人は明確に民として認知されていないため、他所に移りやすい。


「しかし、よろしかったのですかな?」

「何がだ?」

「彼らに褒賞を与えることを決めたことです」


 アルリア姫と騎士たちを救った旅人、ジュンヤとエリテに褒賞を渡す事についてである。そもそも、ジュンヤは旅の魔法使い、一緒にいるのは獣人の子供のエリテ。常識で考えれば相当怪しい、ありえないと言ってもいいくらいの異様な組み合わせだ。

 まず、魔法使いが旅をするというのがそもそも奇妙である。魔法使いとは本来、魔法を使える者が知識を教えてなるものであり、普通は師となる存在がいる。そして、この世界に存在する殆どの魔法使いは国や貴族に仕えており、野に存在する魔法使いはほぼいない。例外となる存在もいるにはいるが、かなり辺鄙な場所におり、少なくともジュンヤたちがきた方向にそのような存在はいない。仮に魔法使いから魔法を教わったとしても、旅に出るのも奇妙な話になる。最も、これはジュンヤ自身が何かの目的があって旅をしている、ということのようなので一応の納得はできるだろう。最後に獣人の子供を連れている、という点である。ジュンヤの来た方向は北側、この国以上、他の国よりもはるかに獣人差別がひどいロエルマの方角である。その影響もありこの国でも北の方ではまだ獣人への差別は大きい。そんなところにいたジュンヤが獣人を連れている、しかも王からもらう褒章に獣人のための通行許可証が欲しいと言う。もはやわけがわからない、といった感じだ。

 それらの話はあくまでジュンヤという存在が怪しい、という点であり、怪しい人物に褒賞を渡すのはどうなのか、という話である。それ自体はうまく対処すればそこまで極端な問題にはならないが、この褒章の内容がエリテ、獣人に対しての褒章でもあるというのが最大の問題点だ。


「確かに旅の魔法使いというのは珍しいし、奇妙だが、彼らは恩人だ。それに報いなければならないだろう?」

「ええ、人間である魔法使い殿に褒賞を渡すのは構いません。しかし、その内容に獣人に対してのものが含まれています」

「何が言いたい?」


 流石にそこまで聞けばエドガルド王もある程度大臣の言いたいことが分かるが、はっきりとさせるために訊ねる。


「獣人に褒賞を渡した、ということになると各地の獣人嫌いの貴族たちが煩くなるでしょう」

「言わせておけばいい。我が娘を守ったことの礼に文句をつけるのであれば、我が娘に危害を加えたいと言っているようなものと脅しても構わんくらいだな」


 獣人であろうと、人間であろうと、アルリア姫を守ったことには変わりない。それに対する礼を否定するのであれば守ったことが良いことであったと認めないことになる。つまり、守らなければよかったと言っているようなもの、と言える。少々論理の飛躍はあるかもしれないが。


「しかし、彼らには内実は関係ないでしょう。ただ、獣人であると言うだけで文句をつけてきます」

「ならば言いくるめよ。例えば、もっと大きな要求をされかねない所をただの通行許可だけで済ませた、とでも言っておけばいい。それならば、彼らに対しての恩賞を少なくすませたように見せられるだろう」

「……なるほど。もともと彼らが言い出したことですが、王族を救ったとなればもっと多大な褒章を要求できるでしょう。そのような言い方をするのであれば、向こうが城就きの魔法使いになりたいと言ったが、その話を蹴ったと言ってもいいかもしれませんね」


 事実を誤認させる。相手が言い出したことをこちらが言い出したことに、こちらが言い出したことを相手が言い出したことにする。結果は同じでも、切っ掛け、起点が違えば全く印象は変わってくる。詭弁ではるが、大いに利用できる話だ。


「彼らへの説明は任せる。私も執務で忙しい身だからな」

「ええ、わかっておりますとも」


 執務室への道中、王と大臣でそのような会話があった。獣人に対しての政策、対応をとるエドガルド王も中々に大変である。






 本日王城を出る。王城を出て、入り口まで一人の騎士がついてきた。そして、入り口で袋を渡される。中身を確認したところ、結構な数の金貨と、俺とエリテの通行許可証が入っていた。通行許可証は、特殊な円形の透明な金属でそこに城にあるのと紋章が刻まれている。触れるとホログラフィのメッセージウィンドウのようなものが出て、この者の通行・入場を許可する、と出た。どうやら俺とエリテでそれぞれで出る許可証が違うようで、個人認証されているようだ。いったいいつ個人情報を入手したのか不明である。


「ねえ、ジュンヤ。城に仕えられたのによかったの?」

「いいか、エリテ。お偉いさんっていうのは大変なんだ。書類に殺される、っていうぐらいに仕事に追われる。もし城に仕えればそういうことになってもおかしくない。俺がやることが終われば仕えてもいいけどな」

「ふーん」


 エリテはあまり納得していない感じである。こちらとしては実のところ単純に城に仕えるのが嫌だ、っていうだけなので本当に仕事に追われるとかそういうことまでは考えていない。一番の問題は旅の途中のように自由である状況がなくなることである。俺の目的はまだ達成されていないのだから。


「もし仕えてれば、恐らくエリテと別れることになったけど、それでもよかったのか」

「え…………」


 俺の言葉を聞いて、エリテは驚き、少し悲しそうな表情をして服をつかんでくる。


「やだ! まだジュンヤと一緒にいたい!」

「だから、仕えていたらだって。俺もまだエリテと一緒にいるからな」


 ぽんぽん、と頭を叩く。叩くと言うかあまり好きではないが、なでているわけではないのでこういう言い方しかできないが。こういう時の表現はなんという表現になるのだろうか。


「うん……」


 エリテもまだ情緒が不安定、心が成長しきっていない感じである。まだまだ子供ということか。元々家族と逃げてきたのに、はぐれてひとりになったのだから余計に寂しくなるし、つらく感じるのだろう。いつか大丈夫になるまでは一緒にいてやろう。


「それで、ジュンヤ。どこに行くつもりなの?」

「とりあえず道なりに行こうかな。お金は困らないし、行き来も楽になっただろうし」


 最も、この許可証がどの程度効果があるかは不明だ。この許可証が王族由来のものであるとどれくらいの人間が気づくのだろう。王族の紋章なんて普通の人間がどの程度知っているかは不明だ。流石に街の門番や関所の見張りは知っていると思うけど。王族の馬車にもこの紋章はあったし。知っていてもそれでも妨害してくるような場合もある。流石にそこまで行くとあれだが。

 あと、この国の外、別の国に移った場合もどうなるだろうか。流石に別の国にまで効果はない、とは思う。あくまでこの国内の通行許可と考えた方がいいだろう。

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