表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
villain
22/485

7

「まさか本当に助けてくれるとは思いませんでした」


檻のように展開された棘を能力を駆使して強度を下げて折って魔法少女を助け出す。

助け出したのはいいが、失礼なことを言われた。誠に遺憾である。


「まさか助けてそんなことを言われるとはなあ……」

「……すみません。ですが、私たちとそちらの関係はそういうものですから」


確かに正義の味方が閉じ込められているのを悪の組織が助けるのは変だろう。

もともとの取り決め通り、事故かここの怪人がやった、ということにされて始末されているのが普通だ。


「……前から思っていましたが、あなたは本当に悪の組織の怪人なんですか?」

「そうだけど? 普通に悪の組織の一員だけど」

「……そうは思えません。あなたはほかの怪人とは違うように思えます」

「そうかね。普通に怪人やってると思うけど」


何を言いたいのかいまいちわからない。


「街であったときもそうですが、普通の人と変わらないように見えます。いえ、能力的なものではなくて精神的な部分で、です。どうしてあなたは悪の組織に入ったんですか?」

「何でって言われても、単に仕事を探して応募したらたまたまそこが悪の組織だったってだけだけど?」

「…………え? 仕事に応募ですか?」

「そう。ほら、いろんなところで就職難だろ? 手当たり次第に応募していて、採用されたのが悪の組織で、そこに出向いたら怪人に改造された。それだけ」


ぽかん、と意味が分からないといったような顔になっている。まあ、自分でもどうしてこうなったと思うような話だ。他人が聞けばそんな表情をしてもおかしくはないだろう。


「つまり、望んで悪行をしているわけではない……と?」

「まあそうかなぁ。単に怪人やってるのはお仕事だから、っていう面が強いかなぁ」


基本的に仕事だから、以上の理由はない。その分、割かし容赦なくやってるが。


「……悪事を積極的に働きたくない、というのであれば悪の組織をやめる気はありませんか?」

「無理でしょ。給料の当てもないし、怪人が普通に社会復帰できるわけないだろ」

「確かにそうですが、それならこちらに来ればいいでしょう?」

「正義の味方に? 怪人が? それこそ無理だろう。それはそっちも理解しているものだと思うけど」

「………………」


ぐっ、と苦いものを噛んだ時のような表情を浮かべる。

怪人が社会復帰するのはまず無理だが、それ以上に正義の味方の組織に入るのはそれ以上に無理だ。

それこそ昔は怪人が正義の味方になるような話もあったと思うが、実際はそんな単純にはいかない。

まず最初にスパイである危険を考える必要があるし、仮にスパイでないとしてもその能力で何をするかわからない。

そもそも、今まで悪事を働いていた存在が突然善意に目覚め正義の味方になろう、なんて考えるのはおかしいと考えるだろう。

仮に正義の味方の組織に行ったとしても、その一員にはなれない。

良くて一生監禁生活、悪ければ解剖されたり実験台にされたりが関の山だ。行く利点はない。


「ですが……」

「行ったとしても結局こちらが得るものはない。なんだかんだで悪の組織にいるのは給料がもらえるから、でもある。仮に悪の組織をやめたとしたら給料がなくなるからお金の当てがなくなる。そうなれば生活していけなくなる」


まあ、世の中裏の仕事みたいなものもあるだろう。そういう仕事なら別に問題はないだろう。


「ま、一生養ってくれる、ってなら考えてもいいかな」

「それは……」

「ま、無理だろ。とっとと爆破装置作動させて出るぞ」


悪の組織をやめたら、か。そういえば考えた覚えはない。いつまでも悪の組織が存続できるはずもないし、将来のことを考えるべきか。







「正義の味方たちの秘密基地を攻める」


協定破りの悪の組織を攻めてからしばらくして、首領が正義の味方側に攻め入ることを宣言した。

時期は来週の初め。どうやらあの時に一緒に攻めていたうちの一人を追跡したらしい。

その結果、秘密基地の場所が判明した。今になりようやく宣言したのは怪人たち全員を集めるのに時間がかかったかららしい。

怪人たちは基本的に勤労的じゃないからなあ……その分給料も減らされるが、金があっても仕方ないのかもしれない。

どちらかといえば自分の悪事のほうを優先している感じだ。


「全員、攻勢に向け準備をし、備えよ。以上だ」


首領の話が終わる。来週の初め、自分たちは正義の味方と殺し合う。

この地域においてはこれが最大の戦いとなるだろう。ここが支配できれば、次はほかの地域だ。

ほかの地域にも正義の味方はいるので今度はそちらとの戦いになるのだろう。







「どうしたもんかなぁ……」


公園のベンチで考え事をする。自分がこの先どうするかを。

結局のところ悪の組織にいるのはそれが仕事だからだ。望んで支配や殺傷、悪事を働きたいわけではない。

今まではなんとなくそういった感情を考えず動けたのはその内容が小規模だからだ。相手を殺害するわけでもなかった。

他の怪人がやる分には目を瞑れたのは自分が手を下しているわけではないから。結局自分でそういった本当に悪い、と思ったことはできていないと思う。


「どうしたんですか?」

「……ああ、またお前か」

「別にいいじゃないですか。悩み事ですか?」


あの魔法少女だ。もはやこれだけ遭遇するとなると何らかの意思でも働いているのではなかろうか。


「別に何でもない。そっちこそ何か用か?」

「ええ、探していました。少しいいですか?」

「聞く前に座んなよ……」


魔法少女が隣に座る。探していた、ということだが何の用だろう。


「前に一度話しましたが、悪の組織をやめるつもりはありませんか?」

「答えは同じで変わらない、と言っておこう」


以前と同じだ。迷いがあっても結局やめるわけにもいかない。なあなあですませるしかない。


「…………以前、一生養ってくれれば考える、と言っていましたよね?」

「ああ、言ったな。でも無理だろ? そもそも、口約束だけされても信用できるものじゃない」


仮に書面で交わされた約束事でも一生守られ続けるとは思えない。

そう思っていると、魔法少女が何らかの宝玉らしきものを取り出す。


「これは魔法の契約事で使用するものなのですが、これで契約したことは絶対に守るべき取り決めになります」

「……お前本気で契約するつもりか?」

「ええ。これであなたを一生匿い養う。代償は私の命。そういう契約を取り交わせば問題ないでしょう? 上のほうには正義の味方側の人員の命がかかっているとなれば単純に始末をつけれるものにはなりません」

「そういう問題だけじゃないだろ? 一生匿い養うってことは、その分必要なお金だってとんでもないことになるし、匿い続けるなら普通の人間のような生活はできない。恋人だってそう作れるものじゃなくなるぞ。お前はそんな生活をしてもいいっていうのか」

「はい。魔法少女をやっているので相応に代価が支払われていますから問題ないですよ? 生活だって、そうなってもいいと思ってます」


波の内水面のように静かな声だった。表情も平然としている。迷いはまったくない。

正直に言おう。怖い。どう考えても普通の人間的な感覚じゃない。


「お前は本気でそんな生活をしてもいい、って思ってるのか? その辺の普通の人のような生活ができなくてもいいって思ってるのか?」

「そうなってもいいって言ってるじゃないですか。色々考えましたが、既に覚悟はできています。あとはあなたがどうするか、なんです」

「……なんで敵の怪人相手にそんなことができるんだよ。どう考えてもおかしいだろ」


あまりにも考えられないような内容につい本音が出る。


「あなたは善い人で、私は正義の味方です。今までいろいろと助けていただきました。悪人でないあなたを、正義の味方である私が救うのは当然でしょう?」


正義の味方の多くは似たり寄ったりな行動をとるが、そんな考えを持っているのは恐らくお前だけだ、と言いたくなる。

その言葉とともに浮かべている笑顔を見てそう思う。それはどう考えても普通なものではない。狂気に足を突っ込んだ考えだ。


「善人だから、助けるって? 正気か? 仮にも悪の組織の一員に対していう言葉じゃないぞ」

「お仕事だから悪の組織で仕事をしているのでしょう? 本心から悪事を行っているわけではないし、今までの行動を振り返ってみれば十分善人だと思います」

「だからって、自分の生活を捧げてまで他人を救うものか?」

「それが正義の味方です」


その断言が恐ろしい。自分を正義の味方だとはっきり言って、私を投げ打つことができる感覚が恐ろしい。

もし、答えてしまえば、本気でそうしてしまう。


「………………」

「なんで迷っているんですか?」

「そりゃ迷うだろ。普通、そんなことを選ぶ選択なんてできない」

「何故です?」

「何故って……」

「あなたが悪人なら、受ければすぐにでも私を殺せます。殺さなくても、この後一生楽に過ごせると思います。なのに、なぜそういった選択をしないんですか?」


魔法少女が何を言いたいのか分かった。出された選択肢は悪人であれば躊躇なく受けれるものだ。こちらがあちらに対して何をしようと問題ないものなのだから。

それに対し、あちらはこちらを守らなければならない。つまり手を出せなくなる。やろうと思えば一方的に嬲れるだろう。

なのに、それを選択しない。それはなぜか。


「選択を迷う、ということはあなたが悪人でないことの証左です。だからこそ、私も全力で正義の味方として、あなたを守る選択をとれるんですよ」


それが一番おかしい、と思っているのだが。いや、正義の味方であり、その振る舞いを行うことを選択したということだろう。

それを選択できるのが普通じゃないということなのだが……つまり彼女は普通じゃないってことか。


「……本気で、その選択を後悔しないか?」

「少しはするかもしれません。でも、こうすることを間違いだとは思いません。それが私の答えです」


重い。選択が、意思が、思いが、重い。

だが、以前自分が言ったことに対し、魔法少女が考え出した結論、答えがこれなのだ。

自分はそれに対し、答えを返さなければならない。


「……その提案を受けよう。一生匿われ、養ってもらうことにしよう」

「はい! それでは契約をしましょう」


笑顔で言うことではない。そもそも一生紐生活をさせてくれ、なんていうのがあれだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ