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翌日になり、エリテを連れて街へと出た。やはり獣人であるエリテがいるためか視線を感じる。しかし、視線の数、強さはこの街よりも最初に来た時よりも少ない。もともとこの街に来た時もそこまで多くの視線を感じていたわけではないのだろう。少々過敏になりすぎていたのかもしれない。一応、見慣れたなどの理由で実際に視線が減った可能性もある。
ギルドに向かう。時間は朝であるため、どうしても人が多い。その中に獣人であるエリテを連れて行っているので、どうしても多くの視線が向かってくる。エリテも流石に表を通るよりも強い視線であったからか、俺の後ろに隠れようとする。最も、この程度の視線はこれからも向けられるだろう。いつまでも俺の後ろに隠れてやり過ごすわけにもいかない、エリテ自身が強くなるべきである。そういうことであるため、エリテが後ろに隠れるのを阻止し、抑える。
「エリテ、ずっと隠れているわけにもいかないだろ?」
「ジュンヤ……」
視線の中、おずおずと前に出る。最も、俺が先導して受付に連れていくのであくまで後ろに隠れないというだけだが。受付は空いている人のいないところに行く。獣人だからということでいろいろ言われるとあれだからだ。
「ああ、何の用だ?」
「この子のギルドへの登録を頼む」
受付の職員がエリテに視線を向ける。そして、眉をしかめた。
「……獣人の登録か」
「駄目なのか? 獣人は登録してはいけないというルールでもギルドにはあるのか?」
少し棘を含めた言いまわしてで攻める。別に職員が悪いというわけでも……いや、職員の対応が悪い。悪い点を攻めて有利な条件を引き出すのが良いだろう。
「いや、そういうわけじゃないんだ。その子は子供だろう?」
「ギルドでの登録、仕事に参加する年齢の取り決めは? 俺は聞いたことはないが」
「う……い、いやないが……」
「なら問題はないだろう? それとも、子供を働かせるのはよくないと思っているのか? 個人的な感情で登録をしないと?」
「いや、違う。少し待ってくれ」
流石に少し攻めすぎたか。別に謂れもないことで攻められるのも困るだろう。
「なら、この子の登録を頼む。別に登録には何の問題もないんだろう」
「あ、ああ。わかった」
そうしてエリテのギルドの登録が始まる。獣人であるといっても、別に特殊な質問があるわけでも、必要な条件みたいなものがあるわけでもない。俺がギルドに登録したときと同じだ。ただ、出身を聞かれたときにちょっとしたことがあったが。
「出身はどこだ?」
「……北の国、ロエルマ」
「ロエルマ!? ああ、すまん。ロエルマか……」
そういえばエリテは北から来た、と言っていたが国名までは聞いていない。今初めて知ったわけだが、ロエルマという国からエリテたちは逃げてきたのか。
「そのロエルマという国に何か問題があるのか?」
「あそこは獣人の扱いがここよりもはるかに悪いからな。まあこの国もそこまでいいわけじゃないが。どこも大して変わらないが、ロエルマ程は悪くないだろう」
そこまで言われるほどロエルマでの獣人の扱いは酷いようだ。それでも最初にエリテを見た時はそこまで酷い扱いを受けているようには思えなかったが。この街で見た、恐らく厳しい状況に置かれているだろう獣人と変わらない程度だっただろう。そういった話もありながらも、普通にギルド登録そのものは完了した。
「じゃあ、受けられる依頼を探そう。その前に登録の情報でも見ようか」
「え、どうやって見るの?」
近くにある机にあるボードのところにエリテとともに行く。そのボードに手のひらの宝石を当てると、ボードに情報が浮かび上がる。このボードと宝石の関係は最初に教えられている……いや、俺の場合は自分から聞いたので教えられているわけではない。最初に教えられない可能性もあるのか。聞けば教えてくれるのだろう。聞かなくても、自然とこのボードに左手の宝石が触れればわかるはずだ。そういう所は不親切かもしれないが、必要ならば自分で求め学ぶしかないという事なのかもしれない。最もすべて憶測だが。
俺の情報が開示される。最も俺の情報は名前と能力だけだが。重要なのが能力であり、能力しだいでできることが変わる。
「こうやって情報を開示する。エリテもやってみたらどうだ?」
「うん!」
エリテも同様に手の宝石を当て、ボードに情報を写す。先にギルド登録の時に話していたことと変わらない。ただ、情報における能力欄、そこに示されている色は俺の能力欄に存在する色よりもはるかに少ない。ギルドにおける依頼はある程度色分けされており、恐らくはその色が依頼の受領の条件のはずだ。調薬なんかは専門技術が必要なものだ。そういうものを能力が持たない者が受けられないように、ということだろう。宝石側、依頼側で管理し、駄目な場合は受領時に弾かれるのだと思う。
「この色で受けられる依頼が示されているはずだ。この色だと、討伐や力仕事だろうな」
討伐や力仕事といっても具体的に依頼を見て理解しているわけではないので正確なところ分からない。読んだ雰囲気的にそんな感じだったというだけだ。
「じゃあ、討伐を受けるの?」
「エリテは一応剣を使えるから、そうなるな」
方針が決定したところで依頼を探す。依頼に書かれているのは内容と報酬額。できるだけ報酬がよくない依頼を探す。報酬がよくないということは、やる人間が多い、難易度が低い、緊急性が低いなど、色々な理由が考えられる。そんな以来であればそこまで難しくないだろう。もしかしたら、出していれば馬鹿が受けてくれるかも、とか期待して出す可能性もあるかもしれないが、流石に少々極端な例だろう。
「これなんかでいいかな?」
「……読めない」
俺も読めないが、なんとかの討伐十匹での依頼だ。この数の討伐であれば極端に難易度が高い、とかそんなことはないだろう。受付に依頼を持っていく。ただし、受けるのは俺ではなくエリテである。
「これを受けるのか? それもその子供がか?」
「問題はないだろう。それと、別にこの子一人で依頼をしなければならない、ということもないだろう?」
「……確かに依頼を受けていない人間が手伝うことは違法じゃないけどなあ……」
マナー、倫理的なあれこれと行った所だろう。違法でなければ何をしてもいい、というわけでもない。ある程度のルールは守る必要がある。別に依頼を受けていない俺が討伐を行うというわけではなく、後ろで監督役を務めるつもりだ。不可能、相当難しいとなった場合に参加するつもりだ。
受領が終了し、ギルドを出ようとする前に、受付に訊ねる。
「なあ、この討伐対象って何なんだ? 簡単に字は読めるが、固有名詞がわからないんだ」
「…………知らないで受けたのか?」
「ああ。それで、どんな奴なんだ?」
ため息をついて受付の職員が仕事内容、討伐対象について話し始める。討伐対象は一つ目のイノシシのような生き物らしい。戦闘能力は高くなく、気配が近寄ってきたら隠れる隠蔽能力の高さが厄介であるらしい。見つけ、追い詰めると目から光線を撃ってきて攻撃してくるという。
対象もわかったので、依頼の場所に行って討伐をする……前に、依頼主のところに行って受領したことを報告することにする。エリテを連れて依頼主のところに向かった。