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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
wizard
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14

「ここ洞窟の中みたいだけど明るいんだね」


 周囲を見てエリテが呟いている。この場所は完全に日の差さない空間だが、周りは昼かと思える程度には明るい。ところどころ、光がうまく届かない所があり、そういう所は暗くなっている。本来光源となるようなものは、太陽光や松明などの炎が一般的だが、俺の魔法により一部の物質を光を生み出す物質に変換し、この空間内を明るくしている。明るいのは良いが、代わりに外のように昼と夜みたいなものはない。家の中に完全な暗室を作ることで夜にならない部分は補っている。


「頑張って明るくしているんだ。さ、家の中に入ろう」

「うん!」


 エリテと一緒に家の中に入る。隠れ家の家に来た目的はそもそも休むためである。多少の遊びは行ったものの、すぐに夜は来る。この家の中では明るいので時間の変化には気づきにくいため、この世界の時間を示すための時計を置いてある。この世界でも一日は二十四時間で変わらない。時間間隔が同じなのはありがたいが、全く同じとなると少々不気味だ。ちなみにこの時間を表すのにも魔法を用いている。本当に魔法は便利だ。

 翌日、家の中、洞窟内は変化がないためわかりにくいが、時計が日が昇ったらしばらく鐘を鳴らすようにしている。時計が鐘を鳴らすのは日が昇った時間と日が沈んだ時間だ。時間そのものはずっと表示しているが、鐘がなるのはその時間のみである。

 俺とエリテは鐘を聞いて目を覚ます。簡単に朝食を作り食べ、旅の準備をして家の外に出る。そして昨日も使った姿を見えなくする魔法を使用した上で、元の場所の様子を見て周囲に人がいないことを確認したうえでテレポートした。


「戻ってきたんだ、魔法ってすごいね」

「まあ、そうだな」


 凄いと称賛されるのは嬉しいと感じると同時に、これは元々の俺の力ではない。そう考えると自分がずるをしているような感覚がしてすこし後ろめたい気持ちになる。


「とりあえず、道沿いに進もう。街か何かが見えてこればそこに行くつもりだ」

「……やっぱり何も決めてないんだね」


 昨日も同じようなことを言われた気がする。最も否定できるものでもない。わざわざ答えるようなことはせず、無言で先を行く。エリテも何も言わずに俺についてきた。ちゃんと整備された道を歩くと、特に動物が襲ってくることもなく順調だ。旅人や商人の馬車はこちらの方にはあまり来ないのか、途中ですれ違う相手もいない。そのあたりは社会的にそういう旅をする習慣みたいなものがない可能性もある。流石に商人の行き来はあるだろうけど、それも頻繁ではないのかもしれない。

 真っ直ぐ道を歩いていると、道の先、遠くに街が見える。その街を目標にして歩き続け、昼が過ぎたあたりで入り口に到着した。


「止まれ。何者だ?」


 街の入り口には門が存在し、中に入る存在を監視しているようだ。全ての存在を一々チェックするのか、それとも珍しい旅人を怪しんでチェックしに来たのかわからないが、尋ねられたのに無視するわけにもいかないだろう。


「ただの旅の魔法使いだ」

「……魔法使いが旅をするとは珍しい話だな。どこから来たんだ?」

「この道の先にある山の村からだ。ちょっとわけがあって世話になってな」


 出身を聞かれたのかもしれないが、別にどちらの意味とでもとれる。多少訝しくは思われるかもしれないが、かといって村にまで確認しに行くのも大変な話だろう。そういえば俺が出て言った村は現在どうなっているのだろうか。気になるところはなくはないが、気にしても仕方ない話だ。



「そうか…………そちらのフードをかぶった子供は?」

「拾い子だ。世話をしてくれる者もいないのに置いていくわけにもいかない」

「ふむ。フードを外して顔を見せてくれ」


 一瞬どうするか迷う。嘘をついて見せないようにしてもいい、と思ったがわざわざ嘘をつくのもどうかと思った。獣人であることが知られることに問題がある可能性はあるが、ここだけでばれるほうが問題は少ないだろう。むしろ、ここで見せて街の中で隠しやすく動いてくれる可能性もあるのではないか。

 そのあたりの獣人に関しての事情を思考し、エリテのフードに手をやる。エリテは少しびくりとおびえた様子を見せるものの、抵抗はしない。こちらを信頼してくれているのか、抵抗しても無駄だと理解しているのか。信頼してくれるのならばうれしいが。

 フードを外すと、フードに隠れていた獣耳がさらされる。門を監視する兵士は少し眉をしかめているのが見て取れる。


「……獣人か」

「何か問題でも?」


 いくら獣人に対する差別があると言っても、こういった大きい街では彼らそのものを排斥するような動きはないはずだ。むしろ、彼らは下の立場ということで半ば奴隷的に使うこともあるはずだ。そのあたりは街によってさまざまだろう。俺のいた村では村社会の安定のためにと獣人を追い出しにかかったが。


「……いや、とくにはない。ただし、その獣人に何があっても責任は誰もとらないし、その獣人が何か問題を起こせばその問題はお前が責任を取らなければならない。それはわかるな?」

「……この子は俺の管理下にある。もし、手を出してくるような相手がいれば抵抗しても構わないな?」


 難しい顔をされる。もし手を出されたときに俺が守り、相手に反抗するのが獣人が問題を超す、という内容に含まれるのであれば少々難しいところだ。その場合はもっと直接的に手を出せないようにするつもりだが。


「あまり、過剰になるようなことはしないでもらいたい。そうだな、怪我をさせたりしない程度には抑えてもらおう」

「わかった。別に街の中でこの子にフードをかぶせていても問題はないだろう?」

「…………それはかまわないが、街の中の店舗によっては獣人を中に入れない、入れさせない店舗もある。そういった店舗もあるので獣人であることを隠したままというのはお勧めしない」


 中に入ってから獣人だとばれると問題になる、ということだろうか。確かにそういった問題がおきるならば、入り口で獣人であるとわかり止められる方がいいだろう。


「なら、獣人が一緒でも問題ない宿を教えてくれないか? 街に出るときに宿にこの子を置いていけば、別にどこの店舗に入っても問題はないだろう?」

「……そうだな。獣人が一緒でも問題のない宿は……風花荘だ。この門の先の大きな通りをまっすぐ行って、途中にある武器屋の横にある道を行った先にある。小さいし、少しわかりにくいが一応風花荘という建物の名前が表示されているはずだ。武器屋は武器の看板があるから問題なくわかるだろう」

「そうか、ありがとう。もう行っても問題はないか?」

「ああ、構わない。テュエルバへようこそ、魔法使いの客人」


 対応だけだと歓迎されているか少々わかりづらい。何はともあれ、門でのチェックは通ったようで問題なく街へ、テュエルバの街には入れるようだ。しかし微妙に言いにくい名前に感じられる。テュが微妙に言いづらい。

 町の中を行くにあたり、エリテのフードを被せないことにした。先の門番の話もあり、被せることで獣人と思われないことにして、後で獣人とばれることによる問題が起こると厄介だと感じたからである。

 そうしてエリテのフードを被せないで歩くと、街の人々の視線がエリテに向く。全員ではないが、そこそこ多い。その視線は好機、興味、嫌悪、奇妙といろいろだ。最も、殆どはずっと見ていることもない。街の中を見れば、少しだけだが獣人の姿が表にあるのが見える。普通に過ごしているように見える者や、かなり厳しい環境にあるように見える者もいる。最も片手で数えられるほどしか確認できていないが。獣人は獣人で街で独自の生活環境、グループを作っているのかもしれない。

 言われた通り、道をまっすぐ歩き、武器屋の横にある細道に入る。裏通りという奴だろうか。すこし道が暗く、明らかに表とは違う雰囲気が漂う。ただ、この場所は表からも見えるので少々の危険はあっても、いきなり後ろから殺しにかかってくるということも恐らくないだろう。


「エリテ、人の気配はわかるか?」

「うん、わかるけど……」

「もし近づく気配があったら言ってくれ。危険がありそうならなんとかしたいからな」

「わかったよ」


 その近づく存在がエリテが狙いなのか、俺が狙いなのかは不明だ。獣人を連れていることに何らかの意味があったりする可能性もあるし、獣人が嫌いだということもあるかもしれない。連れている獣人が奴隷だと勘違いして勝手な獣人の解放を謳う何者かが存在するかもしれない。そういった内容は突飛的でも、いざというときのために考えて行動したほうがいいだろう。

 一度宿に着いたら、エリテや俺に対して加護や守りになる魔法を使っておくべきか。一度殺されかかっても復活できるような即死回避は必須だ。魔法使いである俺は特に身の危険に対して敏感にならなければならない。

 ところで、俺はなぜかこの世界に来た時からこの世界の人々と会話ができている。これは翻訳魔法を使ったものではない。翻訳の魔法というのは、人同士の翻訳の魔法はまったく存在していない。そのあたり理由は不明なのだが、口を見ていると実際に聞こえている音と、こちらが聞こえていると思う言葉はまったく違う用である。もしかしたら、自動で言葉の内容を翻訳しているのではないかと思う。なぜ今そんなことを言うのかというと、つまりはこの世界の言葉を俺は知らないということである。


「エリテ、文字は読めるか?」

「……一応は」

「なら、風花荘という文字があったら教えてくれ」

「もしかしてジュンヤは文字読めないの?」

「習ってないからな」


 少し呆れられているように感じる。しかし、実際文字を習っていない以上読めるはずもない。しばらくその道をさまよい、なんとか風花荘という文字を見つけ、その宿にたどり着いた。

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