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連中のアジトを見つけ、その情報を正義の味方側に流す。
基本的に協定破りの悪の組織のアジトに乗り込む場合、正義の味方側と共同で乗り込むこととなっている。
何故そんなことをするのかというといろいろあるらしいのだが、こういった事例に対して協力体制をとっている、と示すことが重要であるらしい。
同時に、普段は悪の組織が動いたところを正義の味方が攻撃する、という手間のかかる形での戦闘ではなく、悪の組織内で鉢合ったところでお互い殺しあう、という別の目的もある。
これには相手側だけでなく、こちら側でもアジト内で散らばった正義の味方を各個撃破できるという利点がある。
そもそも悪の組織はどこに所属しているのかというのが明確に分かりやすいものではなく、相手が攻め入ったアジト内に存在していた怪人なのか、同時に侵入した組織の怪人なのかわかりづらい。
まごついているところを攻撃されてしまう危険もあるため、基本的には出会ったら即キルということになる。
「やんないけど」
基本的に自分が侵入する場合はその存在を検知されないように動いている。
本当に便利な能力だ。悪の組織の怪人なんてやっていないで銀行に侵入して金目の物をかっぱらうほうが楽に過ごせそうだ。
探偵なんてやってもいいだろう。ばれないもんな、尾行とか。
「ま、そういう普通のお仕事、なんてできないか」
悪の怪人として改造された人間は社会に戻ることはできない。一生怪人として過ごさなければいけない。
まず、特殊な能力を持っている時点で普通の人間と同じように扱われることはないだろう。
「えーっと、ボス部屋ボス部屋……うちの首領の部屋ってーとどの辺だったかな」
大抵悪の首領なんてものは似たり寄ったりだ。どこにいるのかなんてものは決まっている。
このアジトと自分のアジトを重ね、おおよそこの組織の首領がいる場所を予測する。
「こっち……っと、もう来てる。早いな」
このアジトの情報を流し、突入が始まるより先に入っていたのだが、のんびりこの組織内を観光していたせいか、行く先にすでに正義の味方側が来ている。
早い仕事だ。今は道を守っているらしき怪人と戦っている。魔法少女だ。
「あいつか」
ここに突入する原因、協定破りを起こした怪人が襲ってきたときに助けた魔法少女だ。
なんだろう。こういうのを縁とでもいうのだろうか。
「しっかし強いな」
会った当初、助ける際に軽く攻撃をしてきたのを覚えているが、あの時は大したことはなかったはずだ。
それが今や魔法少女としては相当な強さを持っているようだ。
「だけどあっちも相当だな」
戦っている怪人は同じくらい、いやあの魔法少女よりも強い。なんというか、ボス前の門番的な感じだ。
ということはこの先がボス部屋……ここの首領がいる部屋なのだろう。
別に無視してもいいのだろうが、やはり知り合いを無視するのは人としてどうだろう。まあ、自分は怪人なのだが。
「ふむ……」
相手は前回出会ったオーガのような印象を持ちながら、あれ程に巨体ではない。
だが、その分密度が高い、あれの持っていた筋力、力をより圧縮したような強靭な肉体だ。
ここの組織は物理的に強いタイプの怪人を主に作っているのだろうか。
スッ、といつも通りに時間の流れから外れる。自分の力ではあの強靭な肉体を突破することは難しい。
この能力は便利な能力だが、直接的な攻撃力を持たないのだが最大の欠点だ。そういう点では単純に強い相手には抗い難い。
だが、その強さというのはこの世界が基準だ。規則破りは自分だけを対象にするものではなく、ほかの存在をその対象に選択することができる。
ただ、この方法も問題は残っているが。その存在の持つ強さそのものが変わるわけでないのが欠点だ。
まあ、それは何とかできるとは思う。後は彼女の仕事だろう。
元の時間の流れに戻る。それまでにしていた能力の作業。それらが元の時間に戻ることで反映される。
すなわち、この世界において相手の怪人の強さの基準である身体能力が強靭であれば強い、というルールが覆される。
それにより今までのように動けなくなった怪人はあっさりと魔法少女に打ち破られる。
何せ、その防御力も肉体の強靭さが由来だ。その強靭こそが強さの基準であり、それが変わってしまえばその強さ全てを失う。
「よう。苦戦してたな」
「っ!? ……またあなたですか」
「またはないだろ? まあ、何でか知らないが最近よく会ってるけどな」
縁……というのも正直あれだ。よくこの世界から外れている自分がこの世界の誰かと縁を持つというのも変な話だ。
「何か用ですか?」
「別に。苦戦していたからちょっと手助けしただけだよ。それにこっちに用事があるだけだ」
「……別に助けてくれなんて言ってません」
ぷい、とこちらか視線を外す。それでも意識はこちらに向けている。
こちらが向こうを襲う可能性はやはり考えているのだろう。いくら知っている相手だからと言って油断はできない、ということだ。
「単に見かけたからだし、礼を求めてるわけでもない。残っている状態で後で来られても困るから始末してもらっただけだ」
「……そうですか」
「それより、向こうは多分ここのボスっぽいけど」
「そうみたいですね。先ほどの怪人がこの先にいるから通さない、みたいなことを言っていましたし」
まだ他の面子は来ていないみたいだ。
「行く?」
「……怪人が一緒というのは少し不安ですが」
「別に騙し討ちなんてしないし」
わざわざそんなことをする必要がない。不意打ちなんて能力を使えば余裕なのだから。
「そうですね。今そんなことをするくらいなら今まで何度もチャンスはありましたし……」
「そうそう。で、行くの?」
「行きましょう。早く終わらせましょう」
お互い、正直味方とは言えないだろう相手を伴い、この組織の首領に会いに行くことになった。
「ほうほう、怪人と魔法少女がセットとはのう」
道の先にあった扉を開け中に入るとそこにいたのは飄々とした老爺だった。こちらを見てカカカと愉快そうに笑う。
「あなたの悪行はここまでです! 大人しく倒されなさい!」
魔法少女が叫ぶ。なんというか、いつも思うのだが正義の味方はこういうことを言わないといけないルールでもあるのだろうか。
逃走犯に逃げるなって言うようなものだよな、と思う。
「正義の味方とやらはどいつもこいつも変わらんのう。お前もそう思わぬか? どこぞの怪人よ」
こちらに問いかけが向く。
「まあ、よく言ってくるなあ、とは思うけど。そんなもんだろ? 悪の組織の怪人だってどこでも似たり寄ったりだろ」
「カカカ、そうじゃのう。結局どこも大して違いなんてないものじゃ」
「何をのんきに話しているんですか! 行きますよ!」
呑気に話をしているこちらに叫び、魔法少女が老爺に向けて跳びかかろうとする。
「儂がなぜここにいるのか疑問には思わぬか?」
ガシャン、と地面、天井、壁から棘が伸びてこちらの行く手をふさぐ。
魔法少女もその攻撃で行く先をふさがれ、攻撃しようとした手を止める。
無数の棘はこちらの行く先だけでなく、周囲を塞ぎ檻のように展開されている。
「のう、疑問には思わぬか?」
「はいはい、疑問に思いますよー」
「なんじゃその言い方は。もう少し真摯に言えぬのか? まあ、良かろう」
ふん、と鼻でこちらを笑い、高らかに解説を始める。
「ここには何かあったときに無数の罠を仕掛けておるのよ。例えばお前たちみたいに儂の前まで来て、あと一歩で儂を殺せると踏んだ正義の味方たちを閉じ込めるため、なんぞにのう?」
にやにやとこちらに気持ち悪い笑みを浮かべ見てくる。
「他にも裏切り者が出た時にも使うのじゃがな。儂の組織は儂以外は力がすべての考え方で支配しておるからのう。そういう奴らの中にときどき儂が力を持っていないから殺して乗っ取ろう、なんて考えるものもおる。そのためじゃな。今回はお前たちみたいなのに使ったがのう」
「はいはい。でも閉じ込めておくだけなんて案外しょぼい罠だな」
「何を言う。殺してしまえば使い道がなくなるじゃろう? 死体なんぞ得ても意味がないわ」
そう言ってから老爺は魔法少女のほうを見た。
「特にお前さんのような若くて活きのいい小娘なんぞいいものになろう。色々な用途に使えるしな」
「っ!」
カカカ、と気持ち悪い笑みを浮かべながら笑う。以前にも酷い目にあいそうにあった経験もあるせいかその視線に体を震わせる。
「まあ、お前さんには用がない。大人しく死んで……ぬ? どこに行った?」
「え?」
今まで俺がいた場所を老爺と魔法少女が見ている。まあ、傍から見れば瞬間消失だ。
既に後ろにまで移動していたこちらに老爺が気が付いていない。気が付く前にその頭をつかむ。
「ぐぅっ!? いつの間に後ろに!?」
「話が長い。大人しく死んどけ」
「ぐげっ」
首をひねり、骨を折る。怪人なんかではたまにこんな感じにしても生きていることもあるから念入りに二回転くらいしておく。
ついでに頭もバーン、と割っておこう。流石にそこまでして生き残るということはあるまい。
「終わったぞー」
「……それはいいんですが、とりあえず助けてくれませんか?」
魔法で何度か試しているようだが、どうやらあの棘から脱出できていないようだ。
しかたないので助けてやることにしよう。どうせここでやることももうないのだし。雑魚の掃討はほかのやつがやってくれるだろう。
後は悪の組織のお約束の自爆装置を作動させるだけだ。これだけはなぜかどこの組織も完備しているはずだし。