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「グオオオオオオオオオッ!!!」
相手はどうやら相当身体能力を強化された怪人らしい。
というか、まともな思考を持っているとは思えない。ファンタジーのオーガみたいな感じだ。
武器も持っている。まず、あの武器を奪おう。
俺が怪人として改造されたときに得た能力は規則破り。名前だけで見れば悪の組織の怪人っぽいというか、悪人っぽいというか。
怪人の能力は植え付けるのではなく本人の資質を覚醒させている、みたいなことを言っていたが、それゆえに能力を望んで発現させられない。
それゆえに時々変わった能力がでる。この能力はその名前の軽さに対してとんでもない。
規則破りはあらゆるすべてから外れることができる。既存のルール、物理法則、生物としての性質、それこそこの世界そのものからも。
「疑似的な時間停止。まあ、直接危害を加えるみたいなことはできないんだけどな」
自分がこの世界の時間から外れることにより、世界の時間の流れの枠から外れる。
時間の流れから外れたものは独自の時間を持つようで、同じ時間の影響を持つもの以外は干渉できない。
以前試したところ、誰かと一緒であればその誰かに影響を与えることはできる。だが、もともとの時間に存在するものに影響を与えることはできない。
ただ、干渉できないわけではない。そうでなければ自分がこの疑似的な時間停止状態の中を動けるはずがないのだ。
というか酸素の問題も出てくる。まあ、酸素は体内に取り込んだ時点でこちらの能力影響下になるのだと思うが。
「とりあえず武器を奪うか」
その巨大な棍棒を奪う。駅前を破壊したものだ。かなりの堅さを持つ武器っぽい。
とりあえず誰もいないところに置いておく。この怪人が見えないところに置いておこう。
あとは足をずらし、時間が戻ればこけるようにしておく。
そうして、時間の流れに戻る。あまりに外れすぎると戻ってこれなくなる危険があるらしい。
まあ、それは推測なので本当にそうなるかは不明だ。試すわけにはいかないが。
「グガアアアアッ!!」
ずん、と音がして前のめりにこける。自分の役割はあくまで時間稼ぎだ。
あの魔法少女が来るまでこの怪人を相手に時間稼ぎをする。ついでにその間に市民が逃げられるようにする。
別にこれは善意からくるものではない。もともとのうちの組織内における首領の方針、ルールの一つ。
そして、一番重要なのが悪の組織と政府の間の協定だ。悪の組織といっても、完全に無秩序になんでもしていいわけではない。
これは互いに泥沼な状況にならないようにするためのものだ。もし破ればほかの悪の組織が破った組織を潰しに行く。
つまり、こいつらは協定を破った輩だ。粛清対象である。
今回は魔法少女、正義の味方側がいるのでそちら側にまかせることになる。
まあ、こいつだけだ。こいつのいる組織に関してはまた別の形になるだろう。
「っと……当たらなければどうということはないってか?」
疑似的な時間停止をしながら相手の攻撃を避ける。流石に自分の身体能力は怪人として強化されているが、これほど強化されている相手とまともに相対できるものではない。
能力を利用すればなんとでもできるが、能力を使用しての身体強化はある程度準備が必要だ。
こういった突発的な事態ではすぐに適用できないから面倒だ。この能力は便利だがこういう相手には使いにくい。
特に武器なんて持たない怪人である自分は直接殴ったりするぐらいしかできないし。
「そこまでです!」
「来たか……」
正義の味方っていうのはこう、怪人に対して悪事を辞めろと言うように指示されているのだろうか。
なんというか、正義の味方はいつもこんなパターンだ。
「魔法少女アクアリリィ! あなたの悪を終わらせます!」
オーガは魔法少女の言葉を意に介さない。しゃべっている間も無視して周囲のものをつかんでいた。
何故物をつかむのか、というかしゃべってないで動けって話だ。
オーガが魔法少女にベンチを投げつけてきた。
「お前らがそういう宣言するのはお約束なの? 昨今の悪党は変身中に攻撃することもあるんだから少しは注意しとけ!」
「っ!?」
魔法少女の腕をつかんで跳ぶ。先ほどまでいたところには投げつけられたベンチが通り過ぎて行った。
「じゃ、頑張れよ。俺は逃げる」
流石に唐突に腕をつかまれ、助けられたことを受け入れるにもいろいろと突然すぎて思考が混乱しているようだ。
まあ、流石にこれ以上の干渉はいろいろ面倒なことになるので言った通り逃げる。後は任せよう。
「呼ばれた理由はわかっていよう?」
「……協定破りの組織の怪人と戦ったことですか?」
あの後出社したら首領に呼ばれた。
「ふん。わかっているのだろう? まあ、そのことでお前を咎めるわけではない」
恐らくは魔法少女を助けたことに関してだろう。まあ、協定破りの相手に対応する場合に関してはその辺の規律は緩い。
協定破りの悪の組織は普通の悪の組織、正義の味方にどちらにとっても害悪な存在だからだ。
「お前を呼んだのはお前の潜入、捜索の能力を買ってだ。例の悪の組織のアジトの場所を探れ。以上だ」
「……はい」
「調べ終えたら情報を流しておけ」
「はい」
首領の命令なのでしかたがない。面倒だが頑張って探るしかない。
まず、あの時の情報を思い出してみる。相手は空から降ってきた。まず、空から降ってくるというのはかなりおかしいことだ。
悪の組織がでてきたことで今の航空状況はかなり厳しいことになっている。まず、無断でドローンなんて飛ばそうものなら禁固刑になってもおかしくない。
なぜかというと、悪の組織が空からやってくる可能性というものがでてきたからだ。
空に浮かんでいるというのは大きなアドバンテージになる。そのため、政府、正義の味方は空を管理、監視することになっている。
なので航空機などの往来、飛行は厳しく管理され、自由な飛行は許されていない。
なお、この飛行に関しては大きさで制限されているらしく、大半の飛行生物には影響しない。ただ、悪の組織側もそれを理解しているので、小さい飛行生物を作ったりしているところもある。
そのあたりのことはいろいろあるが、要は空は厳しく監視と管理されているということだ。
あの時の飛行物体の存在は正義の味方のデータに記録されているはずだ。その存在を調べればその飛行物がどこから来たか、大きさ、収容可能な場所などを調査すればアジトの見当がつく。
そういった情報の管理はわざわざ正義の味方の秘密基地に行かなくても手にはいる。
正義の味方が表向きに公開している会社だ。あそこは表向きということで正義の味方の施設などはないが、情報は集積されている。
ついでにそこの社員は普通の人間だ。脅し甲斐があるだろう。




