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早速購入したドールファンタジカを起動する。ドールファンタジカはこれ自体がゲームというわけではない。
今回購入したものはいうなれば電子ペットとでも仮称するようなデータだ。
ヴァーチャルリアリティの自分のデータ空間内に作成する。
起動後はヴァーチャル空間内での諸々の操作を行うので、自分もヴァーチャル空間に入る。
『ドールの性格を設定します。質問にお答えください』
『ドールの容姿を設定します。ご希望の色や髪形にご変更ください』
『ドールの…………………』
諸々の設定をサクサクとこなす。あまり細かく設定する主義ではない。
ただ、性格だけはしっかり設定した。ただ、これは設定というよりは性格診断みたいなものだった。
自分でドールの性格を設定できるわけではないのは不満が残る。望む性格であればいいが。
容姿はおおよそ一般的な日本人のものにした。美人度合いはもともと中の上から上の下くらいのものらしい。
衣服に関しては初期設定でどこかロボットとかアンドロイドをイメージして作られたものになっている。
初期の服以外の服にしたい場合は自分で購入する必要があるようだ。
「ドールアバター、起動しました。えっと……マスターですよね?」
「ああ、そうだ」
こちらの呼び名の初期設定はマスターにしておいた。後で変えられるらしいが、変えないと思う。
「えっと、私は……名前がまだ決定していません。その、設定をお願いします…」
「名前か」
少し考える。あまり意味のある名前にするのもどうかと思うが、咄嗟に決めるのは難しい。
不意に使用しているキーボードの配列が目に入る。
”かなみしいすい”みたいな特殊な名前の決定を思い出し、過去にやったゲームで気に入ったキャラでやることを思いついた。
あまりいい感じにはならなかったが、英字で入れ替えをしてよさげなものにできたのでそれに決める。
「ユア。お前の名前はユアだ」
「ユア………はい、登録しました。これからよろしくお願いします、マスター」
なぜ名前設定が最初の設定時になかったのかが不明だが、こういうやり取りのためだろうか。
最初の設定時に名前を決めているよりも愛着は持ちやすいかもしれない。
「これが術式魔核か」
「はい、私の術式魔核です」
中心に薄く光を放つ黒色の球体を持つ半透明の立方体。
これはドールの保有する術式魔核、コアとも呼ばれるドールの中核データだ。
ドールファンタジカはゲームである。電子ペットのような部分もあるが、本来はゲームのほうが本分だ。
そのゲーム部分はドール同士のバトルであり、その戦闘におけるドールの性能を決めるものが術式魔核になる。
半透明の立方体に手を伸ばしてみる。ズズッと手が立方体に入り込む。
「確か術式を作るには思考出力でよかったよな」
「はい。術式魔核の内部に手を差し入れ、作りたい能力を思い描き出力していただければ」
作りたい能力を思考する。思考出力はヴァーチャルリアリティの入力では基本的なものだが、あまり自分は使ったことがない。
できたかどうか不安だが、立方体の中を見ると中の一角に黒い言語のようなものが浮き出ている。
「これで、能力の作成はできています…けど、不安定な状態になっていますね」
「不安定…?」
「刻まれた術式はただ作るだけでは正確なものにはなりません。何度も作り直すことで、より洗練されていきます」
「……文字の書き取りをやらされている気分だな」
「別に今の術式でも問題はないんですけどね。ただ、能力に必要な魔力量が増えたり、コア内の術式の大きさが大きかったりしますから」
魔核はドールの魔力最大量と能力の数に関係する。魔核がまっさらな状態だとドールの魔力は最も多い状態となる。
魔力は燃料だ。つまり初期状態は最もドールが長く戦闘できる状態といえる。
しかし、初期状態ではドールの戦闘力は殆ど無いといっていいだろう。
そのため、ドールの武器となる能力を付加するために術式を刻むこととなる。
しかし、術式は魔核を占める。すなわち、魔力の量を減らすことになる。
魔力量を増やすために術式を諦めるか、能力を増やすために魔力量を減らし術式を刻むかの選択だ。
術式を洗練することで魔力量がより減らなくなるのであれば積極的に洗練していったほうがいいということになる。
「……何度か試して、ある程度形になったら先に訓練にする」
「はい、わかりました。術式を取り除く場合はない状態で上書きするように思考出力するとできますよ」
「ああ、わかった」
しばらく術式を刻み、取り除きを繰り返し術式を洗練した。
最終的に魔力変換、魔力強化、魔力操作を術式として刻んだ。
「魔力操作に魔力強化、魔力変換……魔力関連のものばかりですね」
「単純なほうがわかりやすいし幅も広いからな」
「でも、こういったものは専門技術と比べると必要な魔力量も増えますし、威力も落ちますよ?」
「それは知ってる。だから術式を減らして魔力量をとったんだ」
能力は複数のことができるものよりも一つのことができるもののほうが強くなり、使用魔力量も減る。
多くの場合はある程度特化型にすることが多い。
「獣型は人型に比べて、単純に強い分術式魔核は小さい。だから術式を専門的にして特化型にする。それに対して人型は術式魔核が大きい分、より多くの術式を組み込める。多様性を持たせることができるが、そうすると魔力量は獣型と大きく変わらなくなってくる。幅の広い能力は術式が大きくなるが、専門的な術式を増やすよりも魔核をしめる割合は減る。その分魔力量の減少は小さい」
「でも、結局必要な魔力量のことを考えると複数面に特化させることと大きく変わらないのでは…?」
「使い方次第、だと思ってる。ただ、活用できるようになるには訓練は必要だけど」
どれだけ強い能力や組み合わせを考えてもそれを正しく活用できなければ意味はない。
そのためには能力の使用に馴染む必要がある。
「まずは能力の使用訓練だな。ここで」
「ここでですか……?」
「設定で破壊不可能、ダメージ無しにできるから問題ない。ドールには経験記憶があるから、訓練を繰り返して最適行動をとれるようにしよう」
「はい、わかりました」
経験記憶はドールの行動の記録だ。その名前の通り、経験による行動の最適化だ。
本来なら戦いの中で能力や動作をより最適なものに洗練させるものだが、行動の記録でもある。
つまり、能力として備わっていないことも記録し行動の最適化に組み込める。
うまくいけば、前から考えていたことができる。ドールの戦闘に参加する前にやれるだけやってみよう。