表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
wizard
199/485

2

 森の奥に女性が向かっていく。女性が向かう目的地は森の中にある湖、人を食らう大蛇の魔物が住まう場所である。

 なぜ女性がそんな危険な魔物がいる場所へ向かうのか。それは女性が住む村を守るためである。女性の住む村は山のすぐそばに存在しており昔から多くの魔物の被害があった。だが、湖に大蛇が住み着いてからは大蛇が魔物を食らうからか、それとも大蛇の存在を恐れるからなのか、殆どの魔物がいなくなった。それだけならばその魔物が住んでいることはよいことになるのだが、その大蛇が村を襲うことがたびたび起きるようになってしまった。

 ただ襲われる、というだけならばその魔物を騎士団や腕の立つ傭兵などに頼み討伐してもらえばいいのだが、討伐してしまうと今度は山に魔物が戻ってきてしまうだろう。つまり、村人は山に多くの魔物が住み着く環境に戻るか、大蛇にたびたび襲われる状況に我慢するかの二択となってしまう。だが、ここで一人の村人があるとんでもない提案をした。それは大蛇が村を襲う前に生贄を差し出す事。もちろん、それで大蛇が村を襲わなくなるかどうかもわからなかったが、その時の村長はその意見を聞き入れ、生贄を差し出すことを実行してしまった。それ以後、半年に一度一人の生贄を差し出すようになってしまったのである。

 生贄は村民のうちの若すぎない、そして年寄り過ぎない村人を差し出すこととなっていた。この生贄を選ぶのは村全体での協議で決まる。多くの場合は身寄りがない、独り身である人間が選ばれていた。

 今森の中を歩く女性もその協議により生贄になることが決定され、その決定に従って生贄になりに向かっていた。何故、生贄に選ばれた村人は自分を食らう大蛇の下に向かうのか。死ぬのが怖くないのか、生きたくないのか。多くの人はその姿を見てそう思うだろう。この女性や今まで生贄に選ばれた人はそうは思わなかったのか?

 そんなはずはない。誰しも自分が死んでしまうのは嫌に決まっている。死にたくない、生きたいと思っただろう。だが、それは許されなかった。なぜなら自分が今まで見送ってきた生贄も同じだったから、である。自分が生贄に選んだ相手も同じ気持ちでこの道を歩いただろう。それを知っていたのに何もしなかったのに、なぜ自分だけがそれから逃れられるのか。そして、今までの生贄になった人間の犠牲を無駄にしてのうのうと自分のみが助かっていいのか。そう言った気持ちが今まで生贄に選ばれてきた人間をそのまま生贄に向かわせていた。

 それにたとえこの場から逃げのびたとして、どこで生きればいいのか村で生きていた人間にはわからない。外の世界のほとんどを知らず、村で完結している村人にはこの村から出て生き延びることは難しい。仮にどこかの街にたどり着いたとしても、働き口もお金も持っていないのにどうやって生きるのか。最悪の場合、野垂れ死にするか、奴隷落ちするかだろう。それならば生贄になって村の糧になったほうがましではないか、という思考もあった。

 結局のところ、生贄に選ばれた村人はにほぼ未来はないと言ってよかった。だからこそ、人生のすべてを諦め大蛇に食われ死ぬ。その結末を選んできていた。

 しばらく山の中を歩き続け、湖に女性がたどり着く。目の前の湖に住み着く大蛇の存在のおかげでこんな山の中を歩いているのに魔物も、野生動物も女性を襲ってこない。辛うじて鳥の声は聞こえるが、多くの獣の声は聞こえず、虫の声も微かに聞こえるくらいだ。どれだけ大蛇の存在が多くの生物を山から消しているのかがわかる。

 ただ、女性はそういったことに気づいてもどうでもいいことであった。女性は今から大蛇に食われる運命なのだから。


「あっ……」


 女性が湖の側に近づくと、湖に波紋ができる。湖の中央付近からゆっくりと大蛇の頭が顔を出す。その頭の大きさだけでも女性の数倍はあろうかというほどの大きさだ。湖の中心から女性のいる水際までは結構な距離があるが、女性の横を体が通り過ぎ、その体で女性を取り囲んでいるのにまだ体は半分以上水の中にあるのではと思うほどだ。大蛇の体の太さもそのあたりの木々の太さの二倍以上はある。

 その姿を見て女性は恐怖する。大蛇が女性に巻き付けば枯れ枝をへし折るように女性の身体は折れるだろうし、骨はあっさりと砕かれる。そんなことしなくても大蛇が口を開け丸呑みすることだってできる。そんなことになれば女性は生きたまま大蛇の体の中で消化されることになるだろう。今更逃げることもできない。取り囲まれているし、大蛇の移動速度も相当だろう。女性は知らないが、蛇の追跡能力の高さもある。もう、女性が大蛇から逃げることは出来ない。

 女性は何れ訪れる自分の死に恐怖を抱きながら、その時を待つ。せめて生きたまま飲まれ消化する苦しみ、じわじわと死が迫る恐怖を体験しないよう、先にその体で巻き付いて自分を殺して欲しい、と思っていた。

 大蛇はそんな女性の気持ちはわかるわけもなく、獲物を丸呑みにしようと大口を開け齧りつこうとした。


「っ!!」


 女性はその瞬間を見たくない、と恐怖から意味もなく頭を手で庇い目を瞑る。ただ、女性はその時に生じた大きな衝撃波により何があったのかを知ることもなく意識が刈り取られた。







 いつの間にか森の中に俺は立っている。あの場から異世界送りされた結果だが、なぜ多くの創作においてこういった森の中に異世界送りされることが多いのだろうか。実際自分が森の中に送られたらどうしてそうするのかと疑問に思う。もっと利便性のある場所に送るべきではないだろうか。こんな交通の便もない、人もいない、野生動物の宝庫でファンタジーにおいては魔物が住み着いている可能性も大きい。いきなりそんな場所にチート能力をもらっていても戦闘能力のない人間が送られて無事でいられるものだろうか。

 とりあえずそう言った色々な感情を抑え込み、周囲の状況を確認する。今この場でここに送り込んだ神に対して文句を言ったところで始まらない。まずはどこに人がいるのか、今いる場所がどういった場所なのかを知らなければならない。このままのんびりと過ごして夜を迎えれば、野生動物に襲われて死ぬ確率が上がる。

 まず最初に空を見る。今の時刻はわからないが、太陽の位置だけは確認しておきたい。そう思って見上げるとそこにあるのは木の枝と生い茂る葉っぱ。木々の隙間から空は見えるが、そのほとんどはろくに確認できない。


「全く空が見えないし、辺り一面は木ばっかりだし、本当にどこだよここ」


 自分自身に確認するかのように現状を声に出す。誰かがいたらいたで戸惑うと思うものの、誰もいない場所に送られたらそれはそれで不安だ。少しでも自分に言い聞かせて不安をごまかす。まずは最初に人のいるところを探さなければならない。そのためにもこの山を出ることを目的にする。

 目的を決めたは良いものの、俺は山歩きの経験はない。闇雲に山の中を歩いていては体力を失い動けなくなる。たとえある程度肉体労働で鍛えられていても、普段使わない筋肉を使うのだからなかなかつらいものがあるだろう。だから、俺は自分に与えられたチートについて思い出す。神の言っていたあらゆる魔法を使えるようにする、大量の魔力を与えるというチート。よく魔力を纏うことによる身体強化というものがあるが、俺が与えられた魔法の知識にそう言ったものはない。その代わり、魔法による身体強化というものが存在している。


「体の力を強化せよ! "パワーアップ"!」


 魔法はイメージと魔力と詠唱と呪文により成り立つ。使う魔法の効果をイメージし、魔力を籠め、詠唱を行い呪文を唱える。この過程の詠唱は省略してもいい。魔力の量さえなんとかなるのであれば呪文すら必要がない。俺の場合はやはり詠唱と呪文があったほうがしっかりとしたイメージになるので行った。そういえば、言語はこの世界のものでなくてもいいのだろうか。そもそも母国語と外国語の混合の詠唱と呪文になっているが問題はないのだろうか。そのあたり与えられた知識を引き出してもよくわからないが、問題はないらしい。

 身体能力の強化ができたので山の中を歩くことにする。方向がよくわからないが、まずは川を見つけることを目的としよう。水場は人間の生活環境に必要なものだ。少なくとも水場をたどっていけば近くに人間の生活圏を見つけることが可能であるかもしれない。

 しばらく歩き続ける。山の中、昼であるはずなのに多くの木の枝と生い茂る葉っぱで若干薄暗い。時々なれない整備されていない山道、木の根などにも躓きそうになりながらも魔法で強化された身体のおかげで問題になることもなく歩き続けられる。山の中、弱いながらも時々風が吹く。日光があまり届かない山の中、日陰ということもあり涼しく感じられる風だ。そんな中、東の方から水気を含む空気が感じられた。


「あっちに水場があるのか?」


 誰かが聞いていて答えてくれるわけでもな独り言をつぶやく。とりあえず目的としている水場があるかもしれないとそちらの方へと向かう。風に水気を感じた方角に向かっていると日陰の涼しさとは違う水場の涼しさを感じ始める。恐らくこの先に川か何かがあるはずだ。

 近づいていると、大きな湖が見える。そして、その中央から伸びる大きな蛇の姿も同時に見えた。


「っ!?」


 咄嗟に木の陰に隠れる。蛇はピット器官とかいう生物の熱を感知する器官をもっているらしい。恐らくは木の陰に隠れたところで見つかるだろう。もしあの大蛇が俺を見つける多様な動作をしたならば、逃げるか攻撃するか、とっさに使う魔法を探す。

 魔法を探しながら蛇の動きを見ていると、何かを中心に取り囲むような動きを見せている。その中心に何があるのかを遠目に見る。そこにあったのは女性だ。この世界に来て初めて見る人間の女性。そして、その女性に大蛇が大口を開け、噛みつこうとしている。食べるのか、殺すのか。その行動がどちらを目的としたものかは不明だが、どちらにせよ結果は同じ、女性の死だ。


「爆発しろっ! "ボム"!」


 咄嗟に考えていた使うつもりの魔法、逃げるための魔法などを使えなかった。相手を爆発し破壊する魔法を与えられた知識から咄嗟に思い浮かべ、その思い浮かんだ魔法を使うことしかできなかった。その目的はわからない。女性を守りたいといった立派な理由ではないだろう。その攻撃には女性に人のいる場所まで案内をしてもらうと言った打算があったはずだ。

 その時はなった魔法が女性を食べようとした大蛇を爆散させた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ