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拠点に戻ると父さんに呼ばれ、二人で話をする。内容は予想通り、冒険者として十分な成果をだしていることから、領地へと呼び戻すことになる、ということだ。つまり、チームの解散が決定的になる。もともとその予定で、父さんにはアルツが貴族になったこと、隣の領地の領主になると言うことを話し、同時にうちがその手伝いをする旨を伝えた。流石に少し驚いた様子だが、内容を聞いて納得した部分もあったようで、隣接する武威の貴族との友好関係を築けるという点においてはむしろ好意的でもあった。どのみち、友人関係の都合、俺が領主になればより領地同士の縁はわかりやすくなる。
そんな話をした後、隣の領地の貴族が変わることからも、色々とやることがあるようで父さんは母さんたちを連れて先に領地に戻ることにしたようだ。新年のパーティーは今年は色々あったせいで開けないというのもあったためだ。また機会を見て呼び出しを行うとのこと。
そして、俺はチームのみんなを呼び、今回の事件の顛末、およびそれに対する褒章とチームが解散になることを話した。
「つまり、ハルトさんは領地に戻る。リーダーがいなくなるから解散、ということですね?」
「誰かリーダーやるなら別に解散する必要もないけどな」
そう言ってみんなの方を見てみるが、こちらの視線から目を逸らす。なんだかんだでチームの仲間が俺のリーダーをやるうえでの諸々を手伝ってもらった覚えはない。リーダー業はいろいろと大変なのである。
「メリーはやらないのか?」
「無理です。ハルトさんがまとめてたからやっていけたんです。大体、チームの二強が抜ければ今までと同じように依頼を受けるのは無理です」
最もだ。もともと、ランクの上がり方もある意味俺たちがいたから、というのもあるだろう。実力がないわけではないが、俺たちがいない場合といる場合では依頼達成難度が全然違うだろう。
「……解散か」
「えっと……わたし達どうすれば?」
確かに解散、となるとその後の仕事の問題が出る。冒険者を続けるか、地元に戻るか。他にもいろいろと選ぶ道はあるが、とりあえず簡単に分けるならそんな感じか。
「……実はだ。アルツが領主になるわけだが、そこの領主に仕えていた家臣がいたとしてもいったん解散になる。そうなると、アルツ一人で仕事をしなければならなくなるわけだ」
「え!? いや、無理だからそれ」
そんなことはわかっている。別にこれはアルツに聞かせるために話しているわけではない。
「そこで……皆に一つ選択肢を出す。まあ、受けてもいいし受けなくてもいい」
「選択肢?」
「いったいどんな事?」
「アルツ、領主の家臣になる。まあ、仕事内容は色々あるだろうけど、簡単に言うならそんな感じだ」
家臣、と言ってもいろいろある。兵士を鍛える武官、事務仕事をする文官、貴族関連のやり取りをする連絡員だったり、まあ、色々だ。王様も人を送ってくれるようではあるが、こっちで何人か用意したって問題はないだろう。
「家臣……ですか」
「別になってもいいし、ならなくてもいい。冒険者を続けてもいいし、家に帰ってもいいし、ほかに何か仕事を探すのもいい。あくまで一つの選択肢として、だ。最も普通はそうそうなれないものだから、わからないことも多いと思うが」
最も、上にいるのがアルツであり、貴族の権力がある。何か困ったことがあってもあるていど解決が容易になるし、必要なら繋がりのある俺のところに相談しに来てもいい。アルツなら貴族に見られる横暴な部分も少ない…………と思うし、安心……はできなくても、大分マシな形で仕えられると思う。
「悪くない仕事っぽいし、やろうかな」
「わ、わたしもついていきます!」
「冒険者続けるのも大変ですからね」
カリン、シェリーネ、メリーはアルツの領地に行くつもりのようだ。前者二人は置いておくとして、メリーとしては安定した仕事だからだろうか。でも、多分メリーは事務系仕事で大変なことになりそうだな。
「俺は……俺はどうすれば」
ゼスが何やら迷っている様子だ。まあ、ゼスは元々俺のところの領地の人間だ。他の領地の貴族、領主に仕えるとなると困ったところがある。
「ゼス、別に行ってもいいぞ? 領地として隣だから戻ってくるのも楽だし、俺とアルツは普通に友好関係があるからな」
「……でも」
「というか、メリーとはどうなんだ? 一緒にいたいとかそういう理由で行きたいんじゃないのか」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
ゼスとメリーがこちらの言葉に大きな反応を見せる。最も、二人の関係自体はすでにばれているので他のメンバーに驚いた様子はない。アルツとシヅキはもともと我関せずという感じである。シヅキは奴隷だからアルツについていくだけだな、そういえば。考える必要がない立場か。
「バレてるから気にするな。結局、二人の進展状況はどういう状態なんだ?」
「……それは」
「秘密です! 言いません、絶対に!」
珍しくメリーが大声を出している。この手の話題には弱いか。
「まあ、多分仲が良いってことでいいんだろうけど。一緒になるなら、行った方がいいだろ?」
「…………わかった、行くよ。でも、それで本当にいいのか?」
「ああ。思うようにやって来い」
次の領主の言葉と思って聞くといい。さて、五人の動向は決まったようで、あとの二人、エリナとミエラはどうだろう。
「エリナとミエラはどうする?」
「……うーん、正直迷ってる」
ミエラはどうするか決められないようだ、
「私はハルトさんについていくので、仕官はしません」
「……え?」
あれ、エリナは俺についてくるって……どういうことだ?
「えっと、なんで俺についてくる……ってことに?」
「私はハルトさんの弟子です。まだ全部魔術に関して教えてもらってません! やりきるまではついていきます!」
「……えーっと」
「じゃ、私もそっちについていくかな? エリナの面倒も見たいし」
む? 流石に二人がついてくるとなると……いや、問題はないかもしれないが、ちょっとこっちも扱いに困る。
「あー、えーっと、ミエラ。ついてくる、つもりなら、少し待ってほしい」
「え?」
「…………エリナの面倒は俺が見る。代わりに、アルツのところに俺のところとの連絡要員として出向してほしい」
正直言て、エリナの相手は面倒くさいが、多分どうしようもない。最初が最初だし、魔術教えろってうるさかったし。だから、そっちは面倒を見る。代わりに、ミエラにはアルツの方に行ってもらおう。
「でも、エリナは……」
「正直言わせてもらうと、ミエラが来てもやることなくて暇になると思う。別にずっとアルツのところにいろ、ってわけでもない。戻ってきたときにエリナのことは任せる。というか、面倒を見たいって……親代わりか何かなのか」
「流石にそんな年齢じゃないけどね。なんというか……こう、放っておけない感じだから」
面倒見がいい、ということだろうか? 確かに最初から保護者っぽい感じもなくはないが。
「ま、そっちが頼むっていうならいいけど……」
「悪いな」
何とか話を受けてくれるようで良かった。
「あれ? シヅキちゃんはどうするんですか?」
「シヅキはアルツの奴隷だろ。選択肢なんてもともとないだろう」
「……ああ、そういえばそうですね」
扱いが扱いだから忘れていたようだ。
そんな話をして、アルツの治める領地にエリナを除き、全員が向かうことになった。ミエラに関してはこちらとの橋渡しの役目もあるが。
「それで、一体何の用?」
「えっと……話って何ですか?」
カリンとシェリーネをちょいちょいと呼んだ。まあ、この二人だけ呼ぶってことはそういうこと以外にないのだが。
「ああ、まあ、なんというか……二人とも、アルツとの進展は?」
「…………」
「……ないです」
カリンは不機嫌そうにするだけだが、シェリーネは落ち込んだ様子で何もないと話した。
「まあ、予想は出来たけどな」
「で、それが何なの?」
カリンが少しイライラした感じでこちらに聞いてくる。まあ、恋愛関係にうまくいってない、となるとそうもなるか。
「アルツは貴族になる。貴族ってのはまあ、いろいろあるけど、一夫多妻が問題ない立場だ」
自分で言っていてあれだが、本当に問題はない。そのくせ多夫一妻はないが。まあ、そのあたりは色々と貴族的な複雑な事情だ。男尊女卑とかそういう理由ではないと思う。最も男尊女卑の類がないとは言わないんだが。
「……それで?」
「お前ら二人でアルツを襲ってとっとと既成事実を作れ。今のままだといつまでたっても進展しないだろ」
「えっ!?」
「お、襲うですか?!」
まあ、女性側から押し倒せと言われても普通は困る。最も、そうでもしないと恋愛関連の進展はないだろう。なんだかんだでこの二人は結構奥手な感じだ。
「二人一緒に娶っても問題はない。心情的なあれはあるだろうけど、どっちか片方だけがやっても禍根が残りそうだしな。アルツはああいう、鈍感というか、そっちは完全に疎いから、こっちからやらないと何も進まないだろう」
「……でも」
「今まで何かしてきたか? してきたとして、アルツの反応は? 二人の想いに気づいたとかそういう様子は?」
「……ありません」
「そういうことだ。単純に一緒にいるだけじゃ何も進まない。行動するしかない」
「二人でしないとだめですか?」
「自分からそういう選択肢を選んだなら一人でやってもよかっただろうけど、今回は俺が無理やり進めさせるから二人で、ってことだ。どっちかだけ応援して、ってなるとやっぱりもやっとするだろ? 俺も、そっちも」
「……まあ、そうね」
まあ、選ぶのは本人たちだ。でも、アルツは貴族なのだからどのみち一人だけ、というわけにはいかない。いや、貴族でも一夫一妻はないわけじゃないけどな。そのあたりはやはり貴族的事情があるし。
「……別に二人が行動しなくてもいい。その時は結局二人とも思いが成就しないだけだ」
「どういことですか?」
「貴族っていうのは血を残す、子供を作るのは必須だからだ」
処刑されたお隣さんでもそういうのはあったはずだ。まだもらっていなかったか、血は貰っても実家に戻ったか、それとも実験か何かで使っていなくなったとか、色々と考えられることはある。まあ、普通はそういう時に断絶しないように血を残すものなんだ。
仮に二人が進展なければ、結局赤の他人に掻っ攫われるだけである。
「……わかりました、やってみます」
「シェリーネ!? それでいいの……?」
「……わたしは、アルツさんと一緒にいたいから、ついてきたんです。だから、頑張ります」
「……はあ。しかたないか」
シェリーネは覚悟を決め、カリンはその覚悟に感化されたか、あきらめたかしたようだ。
「じゃあ、頑張れ」
「……ハルト。一回だけ、殴らせて」
「……平手でお願いします」
ばちん、と一撃を見舞われる。まあ、言い出したことがあれだ、だからこういうのは甘んじて受けるべきだ。これでようやくアルツ関連の恋愛事情が進行するだろう。少し心残りというか、気になっていたが、解決できてよかった。いや、本当によかったかはわからないけどな。