73
「あれが例のものか」
邪神の言っていた邪神の欠片とかいうものだろう。あの位置だと心臓の代わりになっていたのだろう。ということは、竜に闇の力が巡っている感じなのか。だから炎もあの黒いのを吐いてきていたのだろうか。
「って、とっととあの塊を何とかしないと……!?」
邪神が言うには切り離せばあとはあっちで回収してくれる、という話だ。しかし、真っ二つに切り裂かれた邪神竜の体が徐々に戻り始める。
「まさかあの状態でまだ生きているのか!?」
そういえば、切り裂かれているのに血が出ていない。そもそも、血の巡りがあるのかも不明だが、斬られた断面の肉は見えるが血は流れていないように見える。心臓が邪神の欠片、闇の力の塊だと言うのならば、流れているのは闇の力なんだろうか。でも、そんなものが流れているようには見えない。
いや、そんなことは今は後だ。竜の体が元に戻る、真っ二つにされている部分がくっついて再生すれば、あの邪神の欠片が体内に戻るし、恐らく竜はまた活動を再開する。そうさせてはいけない!
「"声よ届け"!」
風の魔術を使用し、土の柱の上にいるアルツに声を飛ばす。
「『アルツ! 足場を作るから、心臓あたりにある黒い塊を斬り飛ばせ!』"風よ固まり留まり空間に続く道となれ"!」
こちらが声をアルツに届けると、足場を準備する前に柱の上から飛び出す。こちらが詠唱中も重力に従い落ちていく。アルツの落下にあわせ急いで術式を構築し、アルツが落下して通り過ぎる前に心臓へと続く足場を作り出した。
「危ない……せめて準備できてから降りろよ!」
叫んでも声を届けた魔術を使っていないので聞こえていないだろう。アルツは見えない空気を固め作られた足場を走り、心臓へと到達し、先ほどと同じ斬撃を放った。
もともと前方、半分程が真っ二つになっていた竜は、二度目のアルツの攻撃により完全に真っ二つになった。そして、その斬撃に巻き込まれた邪神の欠片は、アルツの攻撃によって切断されず、何故か竜の体から切り離され宙を飛んだ。
「あ、落ちる……!?」
心臓代わりだった黒色の塊が落下していくのを見ている時、チキチキ、と音がする。虫が歯を鳴らす音か、体を動かして鳴る音か、厳密なところはよくわからないが、そんな音がする。そして、最初静かに、小さな音だったのが一気にチキチキチキチキチキチキと、数を増やし大きくなる。ぞっとするような悪寒が走る。音が鳴っている場所、それは俺の影だった。
今、太陽はほぼ天頂、真上にあるはずだ。少し傾いていても、こうもはっきりと人型をした影は見えないはずなのに、俺の影は明確に斜め上から光を受けた時のように明確な人型を表している。影に目線を向けると、影の方が気づいたのか、影に三日月の形に笑みを浮かべた口が現れる。この影から発される悪寒に覚えがある。
「邪神……!」
『宣言通り、こちらであれは回収します。どうもありがとうございました』
影の中から、骨だけでできているような虫がざわざわと大量に現れる。薄く、白い、骨で作られたような羽で空を飛び、黒い塊に向けて殺到した。そして、塊に纏わりついた虫が一斉に頭上に向けて飛びあがり、空に円形の濃い黒い影が現れ、そこに消えていった。
「………………」
世にも恐ろしい光景だったと思う。あの存在にはもう二度と会いたくない。
「あ……」
邪神の欠片、闇の力の塊を心臓にしていた邪神竜は、その力のすべてを失った。そして、真っ二つにされ、立っていることもできない。体が崩壊を始める。もともとキメラのような存在だったからか、今まであの邪神の欠片でその肉体が維持されていたのか、理由はわからない。だが、これで竜はよみがえることはない。死んだその亡骸からまた同じようなものを作るのは不可能だ。砂のようにこそなっていないものの、本当にばらばらと崩れて行っている。
そうして、アルツの技、神儀一刀の奥義により、邪神竜の討伐は終結した。
王都に向かっていた巨大竜の討伐はもちろんギルドへと報告された。諸々の用意されていた攻撃手段、火薬などはまったく効果はなく、魔術師の攻撃も効いていない、最終的にアルツの剣技で倒されたという結果だったのだが、それが丸々全部そのままの内容で報告された。こちらとしては、あまりこちらが全部やったと報告してほしくはなかったが、流石に全員で嘘をつくと言うわけにもいかなかったのだろう。また同じようなことが起きた時、同じ相手と闘えと言われれば相手は出来ないから。
ギルド側は最初その報告に戸惑いを隠せないようだった。当たり前である。たった一人の剣士が剣の一撃で身の丈数十メートルはある相手を一刀両断した、などといわれても誰が信じられるか、という話である。最も、参加した各冒険者への聞き取り、また、アルツが神儀一刀であると言うことを聞き、最終的に納得されてしまった。ついでに、途中で俺が魔術を使って味方を守ったことや、竜の動きを止めたことも報告された。前者は誰が言ったか知らないが、後者はアルツが漏らした。
今回の件、全員に参加した分の報酬はあるようだが、俺とアルツに関しては特殊な褒章が出るという話になった。内容に関しては後でこちらに通知する、ということになり、その場はいったん解散した。
拠点に戻り、今回の件を報告。仲間も父さんたちも驚いていたようだが、王都を襲う危機が解決したことに喜んでいた。ただ、父さんだけは何か考えているかのような感じだった。いったい何を考えていたのかは不明だが、報告して安全と勝利を祝う宴となった。
そして、諸々の問題が解決して数日が経ち、王城から俺とアルツに城への招待状が来た。
「……なあ、ハルト。どうしたらいい?」
「アルツ、とりあえず俺の真似をしていればいい」
「……俺、こういう場所初めてなんだけど」
今、俺たちは王城にいる。城への招待状、いわゆる王様からの呼び出しというやつだが、理由は言わなくてもわかる。俺はこういう本気で畏まった場は初めてだが、一応貴族であり相応に経験はある。
アルツはもちろんこんな場所に来るのは初めてで、礼儀とかどうすればいいのか心配なのだろう。流石に今回は王様側からの呼び出しになるし、相手はこちらのことを少しは知っているはずだ。貴族でない、となると王様や貴族への対応は慣れていることはない。そんな相手に自身に対しての正しい礼節を求めるのは上位者としては余裕のない対応だ。そんなことはありえないし、基本的に王様は寛容も理解もある。だから問題はないだろう。それでも、一応俺の真似くらいはさせるが。
「国王陛下来場!」
臣下としての体勢をとる。横でアルツがこちらの行動を真似しているのが見える。絨毯の上を進み国王が前に歩いてきた。




