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「正義の味方の施設って言ってもあんまりうちの組織と変わらないなあ…」
今、自分は正義の味方のアジトにいる。悪の組織ならアジトっていうべきだろうが正義の味方ならどう言うべきかね。秘密基地か?
正義の味方の施設は公式には政府の用意した会社になっている。前に一度潜入したが、あそこには書類と何も知らない人間しかいなかった。
しかたないので暇つぶしに怪人を倒した正義の味方を追跡してこのアジトを見つけた。
出動の都合上、恐らくは各県に秘密基地があるはずだ。この県はこの基地みたいだが。
この秘密基地、見かけ上は悪の組織のアジトと大して変わらない。技術的に正義の味方と悪の組織は同じものなのか、それとも悪の組織に同胞と勘違いさせるためなのか。
まあ、正義の味方側も秘密基地を見つけられないように注意しているみたいだし、後者の線が強いか?
セキュリティーも相当高く、こちらは悪の組織のアジトよりも数段高い。自分が入り込めるのは能力の特性故だろう。
「こっちは戦隊か…巨大ロボ系は禁止されてるんだよな、こっちも」
一応避難誘導なんかは各地で練習されているらしいし、念のための巨大ロボはあるらしいが、巨大ロボ系は互いに連絡を取り禁止されている。
何故禁止されているかというと、深く考えなくてもわかる。あんな特撮みたいにじゃんじゃん街を壊されたら堪らない。
どれだけ街の修復に予算が必要なんだ、家を壊された人への補償は誰がやるんだ、工場とか設備が破壊されたらラインが止まって損失が洒落にならない。
まあ、悪の組織も別に滅ぼすとか蹂躙するとか殺戮するとかでなく、支配したいのだ。
街を焦土にして支配したところで意味はない。
「お、あっちは魔法少女か……あー、以前見たのもいるな」
ちょっと前に首領と話した時に言われた魔法少女だ。名前は……なんだっけ?
名前はどうでもいいか。魔法少女は魔法少女だ。今は魔法の練習をしているようだ。
子供向けの魔法少女は適当でも割と問題がないらしいが、最近のタイプの魔法少女は理論的というか、ちゃんと設定しないとうまく魔法が発動しないらしい。
だからこういった形で訓練しているようだ。しかしあっちのほうには行けないな。巻き込まれたらばれる。
のぞきの趣味もないし、魔法少女系はスルーだな。
「こっちは……手術室? 改造人間タイプか……親近感を覚えるな」
怪人の死体のホルマリン漬けもある手術室だ。死体以外にもいろいろとこちらの開発したものもある。
正義の味方といえども全てが善人というわけでもない。そもそも、技術の発展に犠牲はつきものだ。
怪人を解剖し弱点を調べる、相手の技術を調べより自分たちの技術に転用する、人間を改造し正義の味方を作りあげる。
結局のところ正義の味方も悪の組織とやっていることは大きく変わらない。何のためにその技術を扱うか、だ。
「動物系はいないなー。そういえば魔法少女にマスコットがいたことはなかったな」
流石に動物を改造するのは動物愛護団体がうるさいのだろうか。そうであるなら人権団体は仕事しないのかと言いたいが。
怪人に人権が適用されるならうまく人権団体を利用すればいいのでは、と思うが面倒そうだなとも思う。
「ん?」
廊下を歩いていると見知った顔を見つけた。
「よぉ」
「っ!?」
姿を現したこちらに驚く。まあ、突然人が現れれば驚くだろう。だが、こちらの姿を見てさらに驚いている。
「な、な、な……!」
言葉を飲み込みこちらの腕をつかむ。
「こっちに来てください!!」
「え、ちょっと待って」
「いいですから!!」
引っ張られる。抵抗してもいいのだが、なんかより面倒ごとになりそうだからやめておく。
しかし、やっぱり知り合いだからと言って正義の味方の施設で怪人が話しかけるのはダメか。
「で、こんなところに連れ込んで何する気なの?」
「何もしません! そもそもなぜあなたがここにいるんです? 悪の組織の怪人でしょう?」
「そりゃ侵入してきたからに決まってるじゃん」
「……そうですね、そうでしょうけど、いえ、そうじゃなくて」
頭を抱えている。あんまり深く考えないほうがいいんじゃないかと思うが。
「そう、そうです。何しに来たんですかあなたは?」
「潜入調査?」
「何で疑問形なんですか?」
特に目的はない。正義の味方側の調査という仕事の名目で実際にどんなところか見に来ただけだ。
ちなみにこれで大体四回目くらいだ。おかげで自分がどういう評価されているのが分かっている。
一応時間操作系能力者というわけではないのだが……勘違いしてくれる分には対処しやすいから楽でいい。
「潜入調査なら、それはそれで構いませんがなぜ話しかけてきたんです?」
「前に見た顔の知り合いがいたからかな」
「………それだけですか?」
「それだけだけど」
「そんな理由で話しかけてこないでください! 敵同士ですよ!」
「ちょっと、大声五月蠅い……」
「ここは全部屋防音です! 資料室には人も滅多にきません!」
それは別の意味で不安を感じる……まあ、どっちかっていうと不安を感じるのは向こうのはずだが。
「はあ……」
「ほら、ため息ついたら幸せが逃げるぞ?」
「誰のせいですか!」
「ところでなんでここに連れてきたの? 社会見学に戻りたいんだけど」
「潜入調査じゃなかったんですか……仮にも怪人を野放しにするわけにはいかないでしょう。一応恩がありますから説得する形にしただけです」
この子は以前うちの組織につかまっていた魔法少女だ。同僚の屑で下種な怪人が捕まえていた。
そいつは他にも何人も魔法少女を捕まえていた。何人かは社会復帰できないレベルだった。うちの組織は悪を肯定しているのでそういうことをやるのは問題がない。
ただ、首領が掲げる悪の美学があり、それに反すれば潰されるのだ。猶予は持ってくれるが、再三言われても聞かなかったので潰された。
ちなみに潰したのは俺だ。まあ、その時最後に捕まえられたのがこの子だ。タイミング的に捕まえた直後でまだ手を出されていなかったのは幸運だろう。
「ふーん。まあ、大体見て回ったし別にいいけど」
「本当に何しに来たんです?」
遊びに来ただけだ。前にも来ているが気づかれていないっぽい。
「そういえば、私の後輩を倒したのはあなたですよね?」
「後輩?」
「イエローデイジーのことです。彼女は私の後輩なんです」
ああ……そういえばあの魔法少女はそんな名前だっけ?
「ああ、そうだね。確かそうだったと思うけど。何か文句でも?」
「あると言えばありますね。慰めるの大変でしたので」
「それだけ? こう、女の子を殴るなんてひどい人ですね、みたいなのはないの?」
「私たちはそもそも敵対関係です。殺し殺されは当然ですからそれで文句を言うのは筋違いでしょう」
殺し殺され。倒すみたいに軽く言っている正義の味方も多いが、実態は殺人だ。まあ、つかまったら死刑確定の輩が多いから問題はあまりなさそうだが。
「敵対関係という割にはこうして話をしているのは?」
「あなたには助けられた恩があります。どんな理由であれ、恩は恩です。ちゃんと相応の場で会えば戦いますよ」
ここは一応正義の味方側の施設で自分はその施設への侵入者という立場なのだが……
「じゃ、もう行くわ」
「あなたの能力はわかりませんが、ばれないように出て行ってくださいね」
「ばれた方がいいんじゃないの? 総出なら倒せるかもよ」
「心にもないことを言わないでください。その程度で倒せるなら侵入なんてされてません」
「それもそうだな」
まあ、今回は大人しく出ていこう。別に施設を潰せとかそういう仕事は言われていないのだから。