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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
god slayer
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53

「……あれは奴隷だな。なんでここにいるんだ?」

「アルツさんが連れてきたんです」


 奴隷を連れてくる、ということはどこかで買ったのだろう。一般的に奴隷というと、昔見た古いピラミッド作成時のイメージである酷使される奴隷か、よくその手の小説にありがちな性奴なんかを思い浮かべると思う。最も、この世界では基本的にそういったものではない。いや、他国の実情を知らないのでこの国では、というのが正しいだろう。

 この国においての奴隷は、明確に法律により守られており、無意味で過剰な暴行は禁止されている。これには性行為ももちろん含まれている。最も、ある程度は許容されるし、同意であれば全く問題はない。多くの場合、主人に求められれば受けざるを得ない場合が多いので、法律があっても完全に奴隷側が保護されるということはない。それでも、法律があることで奴隷側の待遇はかなりましなはずだ。

 奴隷の根本的な目的は、救済処置である。例えばメリーの家庭事情なんかでもそうだったが、基本的には口減らしの代わりとして奴隷になることが多い。これは、奴隷を売る家族側にとっても、奴隷になる売られる側にとってもある意味救済である。前者は、家族を死なせず生かすことができ、自分たちも食べていけるくらいの金銭が一時的に手に入る。後者は死ぬことを回避でき、場合によってはある程度悪くない生活を送ることもできる。最も、再会することはほぼ不可能に近い。

 法律は守らなければならないが、明確に監視する存在はいないので、ある程度扱いは軽い。それでも告発することもできるので法律破りはあまりない。本当の意味で貴族が馬車馬のごとく人間を使いたいのであれば、わざわざ奴隷を購入せずとも、村に金をばらまいて人を集めればいい。貴族の権限を用いればそういった方法で人を集めるのは難しくない。そちらは別に違法ではないため、どんなことをしても問題はない。ただし、それを知られれば評判が悪くなるが。

 貴族側はそういう抜け道的な手法を用いるので、多くの場合奴隷を買うのは、普通の金持ちであることが多い。なのでだいたいの奴隷商は貴族よりも商人や富豪向けの商売だ。なお、主に奴隷が用いられるのは給料を支払う必要のない丁稚、召使などである。教育の問題もあるが、使える人間を雇うよりも安上がりであることが多いらしい。


「そうなのか。でも、あの状況になったのはなんでだ?」


 アルツが攻められるような状態である。奴隷を買った程度であんな状況になるだろうか。


「……普通は女の子の奴隷を買ったってあれだろ?」

「…………」


 ゼスの言うことはなんとなくわかるが、その迂闊な発言が原因でメリーが睨んでるぞ。しかし、そうか、なるほど。そういった用途の奴隷購入だと思われたわけか。それで、何故奴隷なんて購入してやがるんだ、と責めていると。

 確かにアルツが奴隷を買ってきた理由は気になるところだが、今はあの二人を止めよう。


「二人とも、何してるんだ?」


 俺は二人とアルツの間に割って入る。こういう時くらいはリーダーらしさを見せないとな。


「ハルト……」

「ハルトさん……」


 カリンとシェリーネが何邪魔してるの、という目で見てくる。


「とりあえず、だ。今はここでアルツを囲んでいても仕方ないだろう。そもそも、アルツが何故奴隷を買ったのかは聞いたのか?」

「……えっと」

「あー……」


 おや? 聞いていない、というわけではなさそうだが。反応はそんな感じだが、どうも言いづらい……というよりは、言いにくい? いや、わからない、かな。


「……説明しづらいことか?」

「え、えっと、わからないというか……」

「聞いたんだけど、意味がよくわかんなくて」


 何とも言えない空気になる。しかし、二人がアルツを責めるような感じにしていたのは、アルツの説明不足によるものだったのだろうか。


「えっと、とりあえずだ。みんなそれぞれ座って、しっかり話を聞くことにしようか。えっと……そこの奴隷の子、名前は?」

「………………」


 聞いたけれど無言である。話す気がないのか、話せないのか、無口なだけなのか。


「……アルツ、とりあえずその子と机、隣に座ること。みんなできっちり話を聞くことになるから」

「あ、ああ……」


 話しかけてなんとか絞り出すように声を出すアルツ。よほど囲まれていたのが精神的に堪えたのだろうか。

 アルツが少女の手を引いて机に座る。その手を引いているところをカリンとシェリーネが鋭い目で見ているが、アルツは気が付いていない。なんとなく、場の空気が先ほどより緩和したからか、場が動いたのを感じたのかメリーとゼスが寄ってくる。五人でアルツの前に座る。まるで尋問するかのように見えなくもない。いや、本当に尋問することになるのだけど。


「さて、アルツ。まずその奴隷の子を買った理由を教えてもらおうか」


 まずは根本的な理由を尋ねる。そもそも、なぜアルツは奴隷を買ったのか。


「剣を学ばせるためだ」

「…………?」


 えっと……えっと?


「剣を学ばせる……って、え、それが理由?」

「そうだ」


 わからない。まったくもってわからない。剣を学ばせるために奴隷を買う、というのがまず意味が分からない。そもそも理由には……なってるけど、説明にはなってない。確かにカリンとシェリーネが口ごもってもおかしくはないだろう。本当に意味が分からない。


「アルツ、ならまず、何で、どこで、どうして、どうやって、その子を買うことになったのか。その子を買う前、どこで何をしていて、どうしてその子を見つけて、どうしてその子を買う気になったのか、そういった細かい買った時のことを話してくれ」


 とりあえず、手当たり次第に聞けば何かわかるかもしれない。アルツの行動指針はよくわからないが、行動の順を追っていけば何かわかる可能性はある。


「まず、その子を買う前にどこで何をしていた?」

「えっと、確か……なんとなく、王都を歩いてたな。そういう空気というか、雰囲気というか、そうしたらいい感じだったから」


 アルツは本当に感覚型である。大体の自分の行動指針に理由がないというか。


「うん、王都を歩いていた。それで、どうやってその子を見つけたんだ? 奴隷商はあまり表の方に店を出すことはないから、少なくとも表を歩いていて見つけたってことはないだろ?」

「ああ。なんとなく、気配というか、雰囲気を感じたんだ。強い力の気配、別に本当に強いわけじゃなくて、存在感みたいなものだ」

「…………うん、それで?」


 俺は奴隷の子を見つけた経緯を聞いているはずなのに、なぜか別の方向に話が移動している気がする。


「その存在感を感じた方向に歩いていて、ある建物内にその気配があったから入ったんだ。そこで、見つけたのがこの子だ。その気配の源」

「………………」


 アルツは神儀一刀の流派の剣士である。それゆえに、強者の気配を感じた……とでもいうのだろうか。うん、まるで意味が分からんぞ。


「えっと、つまり、その子がとんでもない気配をしていたから、買ったと?」

「よくわからないが、この子が強くなるのは確実だからな。だから、神儀一刀の技を教えたい、ということで引き取ったんだ。お金はかかったけど」

「……アルツ、奴隷ってわかるか?」

「前に家にいた時は時々そういうのでどっかに行った人がいるのは知ってるが」


 ああ、もしかして奴隷売買とかしらないのだろうか。しかし、知らないで購入するのも売るのもどうなのだろう。


「……とりあえず、こういう経緯らしいぞ」

「なんというか……」

「あうう…………」


 カリンとメリーは頭を抱えている様子だ。こちらも正直言って頭を抱えたいところである。


「まあ、売買が成立した以上、その子はここの預かりってことで問題はないな。アルツが剣を教えたいっていうなら別にいいし。ただ、ここに住まわせる以上、いろいろと決まりとか常識とか、そういうことは教えていかないといけない」


 最も、そうたいしたことはない。奴隷と言っても、今までの生活があった以上、そこまでひどいことにはならないはずだ。それでも、まだ子供である。教えることは色々とある。その旨について話し合う必要があるだろう。


「っと、その前に」


 奴隷の子に近づき、腕輪に手を伸ばす。奴隷の子はその様子を見て入るが、反応は見せない。目を見ても死んだ目をしているとか、精神的に何か問題があるとかはなさそうだが。

 奴隷に触れ、特殊な呪文を唱える。腕輪から光が弾け、奴隷の子の頭上に文字が浮かぶ。


「うわっ。何だこれ?」


 アルツを含め、全員が等々に起きた現象に驚いた様子である。これは奴隷が本当に奴隷として登録された存在であるかを証明するためのものだ。奴隷は法律で守られているが、そもそも国の管轄、王家の管轄にある存在だ。それを文政の貴族が預かり、奴隷として奴隷商に回し、運用される。その過程でこの腕輪がつけられ、明確に奴隷の売買で取引された存在であることを示す。たまに偽物が混じっていたり、本物の腕輪をつけていても登録されていない奴隷であることがある。そういう子は違法の奴隷であるので、購入した貴族か購入した人物と知り合いの貴族は腕輪をチェックして違法奴隷かどうかを確認する必要がある。わかる場合は売買した商人も告発する必要がある。なお、これを怠れば結構厳しい罰があるし、違法奴隷の売買にかかわれば首が飛ぶか幽閉されるかされる。それくらい奴隷関連は結構厳しい。


「これは奴隷が正しく奴隷認可されているかを証明するためのものだよ。たまにどこかの村で捕まえてきて奴隷として売っていることもあるからな」

「そうなんですか……」


 流石にみんな物珍しそうに見ている。そういえば、こんな魔法じみたものはあまり見たことがなかったか。一応魔術は使用しているが、現象が主でこういった魔法っぽい感じのはないしな。


「ところで、アルツ。この子の名前はわかるか?」

「……いや、知らないな」


 聞いていないのか。


「なあ、お前名前はなんていうんだ?」

「…………ない。名前、なくなった」

「無くなった?」


 ふむ。奴隷は奴隷になる場合、もともとの名前を消される場合もあるとは聞いたことがあるが。だいたい子供の奴隷に適用され、買われたところで名前を付けられるというパターンだ。子供のうちならば名前を変えても違和感は少ない、受け入れやすいから、ということらしいが。別に奴隷となったからって人間じゃなくなるわけでもないのだからわざわざ名前を再度つける必要性もないとは思うが。


「なら、アルツがつけてやるといい。アルツが買った子だからな」

「えっ!?」


 それからしばらくアルツは奴隷の子の名前を考えて悩んでいた。流石に時間がかかりすぎていたので、各自一度部屋に戻るなりして、夕食時にまた集まるまでアルツは放置した。しかし、アルツだけでいい名前を思いつくかは少し不安である。

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