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拠点を持ったことで、今までよりも依頼を受ける回数は減った。もともとずっと依頼を受け続けていたのは、宿に拠点を持つ、常に宿代の支払いがあったからという側面が強い。仕事をすることで評価を上げる、報酬を得て貯蓄を持つなどの理由もあるが、最大の理由は支払い続けることになる金銭の確保だろう。なので拠点を持ったことで仕事をする回数は減る。
もちろん、アルツは討伐依頼をしたがるわけで、一人で行かせるわけにもいかないので、三人か四人ほどのチームメンバーを確保できるようにする必要がある。場合によっては採取依頼を受ける時とも被ることがあるが、おおよその場合その時行きたい、参加したい人員で参加する場合が多い。依頼そのものは受ける回数は減ったが、難易度や内容でその充実を図るようになっている。
そういった形で依頼を受けるようになり、しばらくたつ。何度か依頼を受けたり、街に出たりと今までは依頼ばかりであまりやってこなかった街の散策や、家でゆっくりとしたり、暇つぶしをしたりなどもやるようになっている。今日は珍しく、シェリーネの採取依頼にアルツとカリンが同行する形になっている。メリーやゼスはどうやら何か用事があるらしい。俺も、王都で色々と必要な物資の買い物があり、その用件を済ませている。
拠点へと戻り、そういえばそろそろ拠点の半分ほどの改装をしなければならないと思いいたる。この拠点は、チームメンバーを住まわせる意図もあるが、貴族として使う目的もある。そういうこともあり、二階につながる階段は今の状態から別につけるつもりだ。そのつもりであるため、二階に上り、どこに階段をつければいいか、下の宿側の部屋との位置の兼ね合いも含めて確認していた。そんな中、一つの部屋の扉が開く。
「あっ」
「げっ」
そこから出てきたのはゼスとメリーである。そこからでてきたのはゼスとメリーである。
「……ふーん」
こういう時はなんといえばいいのだろうか。ここは宿だから、やはりあのセリフを言うべきだろうか。それとも、昼間から何やっているんだ、というべきだろうか。いや、待て。そもそも二人がそういう関係なのかどうかはまだ不明である。ただ偶然、人がいない時に同じ部屋にいて、二人一緒に出てきたと言うだけの可能性もある。何か運動をした後のように疲れているとか、若干衣服に微妙な着崩れがあるとか、全く関係がない可能性だってある。
「あ、あの、これはですね!」
「えー、あー……」
何か二人が弁解しようとしている。しかも弁解しようとしてはいるが内容が思いつかずに詰まっている。むしろ、中途半端にそういう行動をとるのがより現実性を高めるというか。
「とりあえず、下で話を聞こうか。受付のところの扉の中、机と椅子があるからそこに座って」
二人がどういう関係性か、実際にどうなのかは不明だが、それは話を聞いてからにしよう。別にチーム内恋愛禁止とかそういうのはないわけだし。
階段を下り、受付となっていた場所にある扉から中に入る。上に繋がる階段を作るならやはりここだろうか。ここは裏口のある部屋へともつながっているし、厨房などともつながっている。ただ、ここの上が部屋であることが厄介なところだろう。廊下につなげると中途半端になる。階段を作るとなると、部屋を取り壊した方が感じとしては良いだろう。
そんなことを考えていると、二人が入ってくる。先ほどとは服装も違い、ある程度見かけを整えたようだ。雰囲気は若干残っているが。
「えーっと……」
「まず、二人が同じ部屋から出てきたのはどういう経緯?」
話しづらそうにしているが、ばっさり切り込んでいく。こういうことははっきりさせておいた方が後が楽になる。中途半端に理解していると下手をすれば間違った解釈をして面倒なことになりかねない場合もある。
「……その、少し話しづらいですが……一緒に、その……」
メリーも言葉を詰まらせている。まあ、その手のことをしていたとなると具体的な内容は言いにくいか。
「ふむ。とりあえず、二人は付き合っているということでいいのか? 恋愛的な意味で」
「…………」
「…………」
互いに視線を合わせたり、こちらを一瞬見て目を逸らしたり、どういえばいいかと迷ったり、かなり落ち着かない様子である。
「そ、そういうことになります」
メリーがはっきりと肯定を示してきた。まあ、それはいい。明確に恋愛しているならば、わざわざ引き裂く気もない。
「まあ、別に恋愛はいいけど。カリンやシェリーネの件とかもあるし、禁止はしない。正直な話、どういう経緯でそうなったか聞きたいところだけど、そういうのも野暮だし、あまりちょっかいかけるのもどうかと思うのでしない。ただ……ここで色々するのなら、清掃、換気、音などきっちり注意を払うこと」
別に恋愛関係にあることが知られるのは問題はないだろうけど、その手のことはわかってしまうと、どうしても意識してしまうことはあるだろう。場合によってはあてられる可能性もあるかもしれない。聞こえると耳に毒かもしれないし。まあ、ここだとそういうことで何かあるとすれば、カリンやシェリーネあたりか。アルツはまったく気にしないだろうし、俺は婚約者がいるのでその手のことは禁止されてる……わけではないが、手を出せないし。
具体的に言われたせいで二人とも顔を赤くしている。まあ、近くを通ったが終わった後か、宿だから防音性が高かったのかはしらないが、俺は聞いていないので気にしないでほしい所である。
「あと、まだばれてないのか?」
「ばれるって何が?」
「……恐らくはまだ知らないと思います。カリンはもしかしたら気付いている可能性はあるかもしれませんが」
ふむ。カリンはメリーと一緒にいたのだから、何か変化があれば気付く可能性はおおいにあるだろう。最も、二人の関係がいつから、どの程度の頻度だったのかは不明だし、気づいていない可能性も低くはないだろう。もし気付いていれば、カリンも割とわかりやすいタイプだから変化で気づくはずだ。ならば今のところまだ気づいていないか?
「ま、どちらにせよ問題はないか……」
そこで話を終える。その後は俺は二階に戻り、部屋の確認、改装予定の場所のチェックなどをしていた。二人はその後どうしたかは知らないが、下に降りた時はいなかったので、恐らくは街に出たのだろう。いわゆるデートと言うやつか。そういえば、俺はリフィとデートとかはしたことがない。一緒にパーティーとかで過ごしたことはあるが、街に出たことはない。そう思うと、貴族という自由に動きにくい立場は少し寂しいかもしれない。
メリーとゼスに関してはあまり拠点で色々するのは落ち着いてね、ということで話は済んだ。その手のことはもっと人数が増えるか、アルツがどうにかなるかで起こると思っていたがまさかそんなところに伏兵がいるとは思わなかった。しかし、何か起これば連鎖的に何かが起こるものである。
メリーとゼスの件から数日後、改装の依頼をしてきたところから拠点に戻ると、何やら雰囲気が変である。
「ハルトさん、こっちです」
壁の方にメリーとゼスが隠れていた。
「……何やってるんだ?」
本当に一体何をやっているのか。隠れている、ということはその視線の先に何かがあるのだろう。二人が見ている方向を見ると、そこには目を吊り上げて怒っているカリン、迫力が全くないが怒っているように見えるシェリーネ、その二人の様子に戸惑い困っているアルツ。そして、腕輪をした薄着の青みがかった黒髪の少女がいた。




