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貯金を引き出し、購入資金を払う。代金全ての支払いがなされたわけではないが、今日から住むことができる。実家にお金を請求するにしても、往復に結構な時間がかかるので、どうしてもそういう所は仕方がない。だから支払いが全部なされていない状態でも使える。その代わりと言うべきか、もし残りの料金の支払いがなされなければ、家を追い出されることになる。その場合、一度支払った料金は返ってこない。
拠点が確保できたので、ギルドに向かう。もう昼になっている時間なので、すでにアルツが来ているだろう。仮に来ていなくても、ギルドに所属移動の報告や、昼食の注文と食事で時間を潰せる。そんなことを考える必要もなく、ギルドに行くとアルツがみんなと一緒のテーブルにいた。
「アルツ、もう王都での用件は終わったのか?」
「おお、ハルト! 終わらせてきたぜ! これで依頼を受けても問題ないぞ!」
ああ、いつものアルツだ。だが、依頼を受ける前に色々とやることがある。
「そうだな、その前に拠点を移したことの報告をしないとな」
「家の購入に行ったんですよね。もう場所が決まったんですか?」
「ああ。既に購入したよ。ギルドに所属移動の報告をして、昼食をとってからそちらに行こう」
なんだろう。購入したことを伝えると驚かれる。もしかしたら、賃貸、貸し物件みたいなものを想像していたのだろうか。それとも、あくまで今日は確認だけとかそういう考えだったのかもしれない。そういえば、他のメンバーには拠点に関する意見を聞かずに決めている。聞いた方がよかっただろうか。
「もしかして、どこか住みたいような場所とか、拠点の条件とかあったか?」
「い、いえ……」
「家買ったって……いくらかかったのよ?」
カリンの質問で、具体的な値段を思い浮かべる。少なくとも今までの依頼で手に入れた金額では半分も行かないくらいだな。とりあえず、現状で支払った分、購入費の半分を伝える。
「えっ!?」
「そ、そんなにかかるんですか!?」
「何買ったらそんなになるのよ!?」
「これが貴族か……!」
アルツ以外の確認がそれぞれの反応で驚いている。ああ、確かに貴族でなければ途方もない額だから仕方ない反応かもしれない。でも、貴族ならばわりとあの程度の金額は使うことは珍しくない。うちはあまり物欲が高いほうではない人間ばかりだから、だいたいは使わなくて貯金していることが多いけど。それでも、必要ならばごっそりと使って物を買ったりすることはある。
「ま、単純に拠点として使う以外にも、俺も冒険者をしながらでもある程度貴族として活動するつもりだからな。王都に来た目的の一部はそこにあるし」
「…………貴族として、ですか。それでもお金を使いすぎじゃないですか? そもそも、そんな額を一体どこから……?」
「俺の貯金からだけど」
四人が無言になる。戦慄の表情をしている。そんなに驚くことか。
「改めてハルトが貴族だって実感するな」
「そうですね」
「ほんとにお金はあるところにあるものね」
「はうう……」
「……まあ、別にいいけどさ。それより、昼食をとろう。もう昼だけど、まだ食べていないだろう」
皆が同意する。ギルド内では飲食ができる場所もあり、この王都のギルドもそうだ。出張所でないギルドでは大体食事が可能で、半ば酒場としての機能を持つ。昼食を先に食べ終え、皆が食事を終えるまでの間、ギルドの受付で所属移動の報告をしておいた。ギゼルモルトの受付から貰った書類もあり、比較的楽に所属の移動の報告は終わった。ついでに現在の拠点の報告もしておいた。これは必須ではないが、ギルド側との連絡が取りやすくなるので伝えておけば得することもある。
食事を終え、新たに拠点となったところに向かう。もともとは宿であった建物だ。二階建ての宿だ。改めてみると、そこそこ大きい感じだ。チームのメンバーの反応がどうも芳しくないようで、後ろを見ると若干引いている様子であった。解せぬ。
「ここが拠点ですか……」
「宿……ではないのよね?」
「お、大きいです!」
「宿っぽい所だな」
「これ、どこが誰の部屋とか決まってるのか?」
それぞれ独特の反応をしている。元が宿であるため、中に入ったところでの反応は最初に拠点として紹介したときほどではない感じだ。宿を購入した、というインパクトと中が宿っぽいというだけならそれは前者の方が反応が大きくなるのは当然の話である。
「部屋は決まってない。とりあえず、だれがどこに住むか決めておくか」
「よし、俺は二階のすぐの部屋にするぜ!」
アルツが階段を上ってすぐにある部屋に入る。行動が速い。なんとかと煙はというが、すぐに上層階を選ぶか。いや、一階と二階しかないけれど。
「じゃあ、私も」
「あ、待って!」
カリンとシェリーネがアルツの後を追っていく。隣にするのだろうか。そういえば、一応場所だけは決めておいてもらうが、一応貴族的な拠点にもするので後で改装業者を入れることになる。一度に全部の改装を行うわけではなく、あくまで半分ずつ改装するつもりだが、そのことも言っておかなければ。
「どうせなら私も上にしましょう」
「ハルトはどうする? みんな上にするつもりっぽいけど」
メリーも階段を上っていき、ゼスも階段の前まで行った所でこちらに聞いてくる。この様子だと、ゼスも二階にするつもりだろう。
「…………いや、俺は一階にするよ。俺は貴族関連のこともあるし、出やすいほうがいいからな」
空気を読まないやつと思われるかもしれないが、むしろ空気を読んで別の選択を選んだのである。まあ、自室が上にあっても問題はないんだけど。
「ああ、ゼス。みんなに部屋を決めて持っている物を置いたりしたら下に来るように言ってくれ。拠点だけじゃなくて、これからについても決めたいから」
「わかった。呼んで来ればいいんだな」
ゼスが階段の上を登っていき、一つの部屋に入っていく。その間、話をするのに便利な部屋を用意する。もともとは宿だったためか、おまけみたいな感じでもとから存在していたものがいくらかある。その中にはテーブルや椅子もある。もともと宿であったのだから、入り口から入ってすぐのところにある程度の休憩スペースみたいなものを置いても問題はない。入り口……いや、そうだ。授業員口の方を入り口にしたほうがいいな。入り口は玄関とした方がいい。冒険者側の拠点は二階にほとんど置くのであれば、一階は貴族側とした方がいいだろう。そうするのであれば、裏口から入って、授業淫側のスペースから二階に移動できた方がいいか。
準備を終え、拠点の改装について考えていると、皆が下に降りてきた。各自それぞれ机に座り、話し合いをする体制が整う。
「それじゃあ、これからについて話そう。まず、チーム分けについてだ」
「チーム分けですか?」
確か今のチームメンバーは六人。分けるほどの人数はいないと言っていい。
「ああ。俺とアルツは赤、他のメンバーが桃と橙。シェリーネはどうしても採取依頼ばかりを受けているから、恐らくは桃に上がる可能性は少ない。依頼の関係上、一つ上のランクは普通に受けられるが、俺やアルツが受ける赤の依頼はシェリーネは受けられない。そうなると、シェリーネはランクを上げるか、採取依頼専門にするかのどちらかを選ぶことになる」
「……わたし、足手まといですね」
シェリーネは素材に関しての知識が高い。そう考えると、討伐に入るのも悪くはないが、いかんせん戦力としてはどうしようもない。
「戦闘においてはそうだ。だからこそ、討伐と採取を明確に分けておいた方が楽になる。別にシェリーネが悪いというわけじゃない」
「シェリーネはいろいろ知っていて凄いからな!」
「……はい」
アルツが絶妙にフォローに入る。実はわかっててやっているんじゃないかと思う程度にタイミングがいい。それでも完全にはテンションが戻っていない様子だが。具体的に話し合いをし、討伐班にアルツ、カリン、俺が入る。採取班はシェリーネ、メリー、ゼスだ。なお、この班分けはある程度自由がきくようになっている。場合によってはメリーやゼスが討伐に参加してもいいし、採取班の誰かと討伐班の誰かが入れ替わってもいい。そもそも、毎日依頼を受けなければいけないわけではない。依頼に関してはあまり毎日やるような詰め詰めの状況じゃなくすようにした。今までが毎日働きすぎだったのである。