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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
villain
17/485

2

「なんで首領がうちの部屋で鍋作ってるんですか?」

「別にいいであろう? 部屋の食材を使ったわけではないし、ほれ、お前の分もそこにある」

「いや、そもそも不法侵入……」

「悪の組織の首領に犯罪行為をするなというのは面白いことを言うな」


まあ、なんでもいいですけど。もうやだこの悪の組織……


「私がお前の部屋に来たのは別に難しい話でもない。お前に話を聞きたかったからよ」

「話ですか?」


何だろう。別に普段から模範的な一般怪人をやっていると思うが。正直命がけの仕事なのでもうちょっと給料上げてほしいなあ、と思ってるくらいしかないが。


「お前がいつも正義の味方たちに勝利しているのは知っておる。この前も魔法少女を倒したらしいな」

「まあ、それが仕事ですし」

「百戦百勝しているのはお前くらいよ。そもそも、お前と同じ時に入ったやつらの何人が生きておる?」

「確か2人くらいいますけど」

「今はもう1人になっておるな」


また減った……まあ、こんなやくざな職業してりゃ仕方ない。


「お前が勝ち、その周辺地域を我が組織の支配下におくのはとてもありがたい。だが、お前はいつもその後の統治を断っておるだろう?」

「ああ、面倒ですし」


そもそも統治ってなんだよって言いたくなる。考えが古いというか、言い方が古いというか。実効支配?

まあ、そもそも上に立つのには向いていない。仕事でそこまでしたくないっていうのもあるし。


「面倒か……」

「そもそもですね、勇猛果敢な兵士が敵を討ち倒し英雄として讃えられることはあっても、立派な統治者として讃えられることはありません。そういうのは有能な領主が対象です。能力がある人に振ってください」

「確かにそうやもしれぬ。だが知っておるか? お前が正義の味方側に勝ち支配した地域はすでに全部取り返されておるぞ。統治者として有能でも正義の味方に勝てるわけでもない。戦士を送るしかないのだぞ」


ああ、もう失ってる……いつものことだがこちらが正義の味方を倒して支配下に入れてもその後支配し続けるのは難しい。

そもそも正義の味方は国のバックアップを受けているのだから、情報に関しても支援に関してもこちらよりはるかに上なのだ。

なんでわざわざこんな面倒なことやってるんだって思う。


「まあよい。お前はそういうことをしたくないのだな」

「仕事ならまあしますけど、仕事以上にはしません。そもそもそっち方面は全然わかんないですし」

「そうか。先ほどお前が支配下に入れた地域だが、奪い返したのはお前が倒した魔法少女だ。ずいぶん発奮しておったそうだぞ」

「はあ……」


あれだけぼろぼろにされてもまだ元気だったか。まあ、なんだかんだで彼女らも頑丈だ。前に四肢を折ってやったことがあったが三日後には復活していたらしいし。


「聞きたいのだが、なぜおまえは正義の味方側を殺さぬ?」

「え?」

「少なくともとどめを刺したことは一度もあるまい。復帰不可能にまでぼろぼろにした事例はあるが、それ以上のことはせんであろう? 何故だ?」


確かにとどめを刺すことはない。死んでもいいや、程度に本気で攻撃するがその程度だ。


「人殺しになるつもりはないので」

「はっ」


鼻で笑われた。酷い。


「他の怪人が正義の味方を殺しているのを見ているのに自分だけは殺さず、人殺しになるつもりはない、か」


見殺しは罪、ということだろうか。


「卑怯、卑怯だなお前は。だがその悪、大いに結構! 我らは悪の組織、悪こそが我らが道よ!」


なんか褒められた。解せぬ。


「悪……ですか」

「ふむ? お前は悪ではないつもりか? 悪の組織にいるのにであろう」

「そもそも、善とか悪とかいうのがおかしい、と思ってますけどね」

「ほう。どういう考えだ? 話せ」


善悪論なんて話しても面白いものだろうか。まあ、悪の組織とか悪こそ何ちゃらとか言ってるくらいだ。

他人の善や悪の思想に興味があるのかもしれない。


「そもそも善とか悪とかそんなものはないんです」

「ほう」

「世界が生まれた当初は善、悪なんて誰も言っていないでしょう。つまり善悪は人間の作り出した思想、概念です。そうであるなら善や悪はそもそも存在しないもの、ということです」

「確かに。後から生み出されたのならば論ずるに値せぬ、といことか」


善悪、そんなものは最初から存在していない。人間はそれらを生み出し、当てはめる。だが実際にそれを語るのは人間だ。

そうであるならば結局善悪は人間に都合のいい形でしかなく、それらを語る意味はない。


「だが、生まれた以上は存在するものとみなすべきであろう。たとえ都合のいいように割り当てるとしてもな。だが、そもそも善悪が最初から存在しない、というのがそもそも間違いならばどうする?」

「どういうことです?」


善悪が最初から存在している。それはどういった理由からだろう。


「神は言った。光あれ、とな」

「悪の首領が何言ってるんですか?」

「悪であろうと神を信じても問題なかろう。そもそも神のことは主題ではない。光あれ、と神が言い、世界に光が満ちた。だがそれは同時に闇というものも生み出す。光あれば闇がある。何かが生まれればその反する存在が生まれる、ということだ。神に対して邪神が存在するように。生に対して死が存在するように。ならば人という善に対して何らかの悪が存在してもおかしくなかろう」

「いえ、そもそもその人が善というのが間違いでは?」

「人が善というのはあくまで仮定であるがな。もしかしたら悪かもしれぬ。重要なのは反する存在があるということよ」

「反する存在ねぇ……」


正義の味方は悪の組織が存在しなければ成立しない、ということでもあるのだろうか。

今の話でいう善悪はすなわちある存在とその存在に対しての反存在、ということか。


「ふむ、鍋ができたぞ。久々に面白い語りもあった。今日はこの辺でよかろう。私は鍋を食べたら帰る。洗面所に置いておくので洗って返すように」

「はあ……」


本当にこの人が悪の組織の首領なのだろうか。鍋を食べている姿からは想像つかないだろう。ああ、おいしそうな鍋だなぁ。

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