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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
god slayer
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47

 アルツが眠ったようだ。時々アルツには夢見の悪い時期があるようで、そういう時は跳ねるように目を覚ましている。月に一、二回ほどだろう。ほとんど一緒の部屋で寝泊まりしているからどうしても気づいてしまう。毎回寝たふりをして対処しているが。

 どうやら毎回同じ夢を見ているようだ。こちらとしても気になるところではあるが、アルツの心情もある。もし直接俺が起きている場面で遭遇するか、アルツから話してくるまではこちらから聞くつもりはない。眠る前にアルツが漏らす情報だと、アルツの師匠や竜がでているようだが、一体どんな夢なのだろうか。

 一種のトラウマか、強迫観念か。恐怖の一種か、何かかもしれない。仮に対処をするのであれば、夢を忘れさせるような強烈な体験をするか、恐怖の根源、夢を見る原因を振り払うのが一番だろう。となると、竜退治でも目指してみるのもいいかもしれないな。まあ、それも夢に関してアルツに聞くようなことになったら、だろう。そんなことを考えながら、俺も再び眠りについた。今はまだ王都に向かう道程だ。あまり無駄に起きて遅れるわけにもいかない。

 そして翌日、何事もなく王都へ向かう旅は続く。王都へ向かうのは馬車を用いている。ギゼルモルトからだと、およそ北西の方角に道なりに進み、途中に存在する三方向への分岐を西に進むと王都だ。ギゼルモルトからマルジエートに向かう道のりよりも時間がかかる。流石に今回は途中で依頼を受けたりしたりはせず、本当に移動だけに集中させてもらっている。アルツは若干不満げだったが、納得してくれてよかった。

 数日間馬車に揺られ、途中の休憩場所で休むのを繰り返し、俺たちは王都についた。道中何事もなくて少し残念に思ってしまうのは冒険者らしい無鉄砲さゆえだろうか。何もないほうがいいに決まっているんだが。


「ここが王都か……」


 王都について、一番最初に反応したのはゼスだった。そういえばこの中で王都に来たことがないのはゼスとシェリーネくらいか。メリーは来たことがあるっぽいが、カリンはどうだろう。

 王都は建物が多く、道が広い。普通の街よりも相当広い範囲を街として使用している。ギゼルモルトではあまり見られなかった二階建て以上の建物も多く見られ、王都の中心の方は貴族の住まいが集まっており、そちらの方に目を向けるとでかい建物ばかりたっているのが目につく。

 そして、一番目立つのはやはり王城だろう。街の範囲の中心、どどんと巨大な建物が経っているのだから。二階建てとか、貴族の屋敷とか目でないほどに大きい。少々高台に作られているのもあるだろう。作りも豪華さがあって目を引く部分も多く、ついどんだけのお金を使って建てたんだ、と思う所もある。こういうのは貴族的な威、力や財力を示すものだから金をかけるのは当然なんだけどな。


「さて、まずは宿をとるとして……」

「ハルト! 俺は師匠のところに行ってくる!」

「あ、アルツ!?」


 アルツが走って行ってしまった。余程師匠とやらに会いたいところだったのだろう。しかし、このままだとあいつは迷子になるんじゃないだろうか。


「明日以降昼間にギルドに来い! メンバー誰か常駐させるようにしておくからなー!」


 聞いていたかどうかわからないが行ってしまった。ギルドに所属を移す報告などもあるのだが。いや、所属を移すのはまず拠点を持ってからの方がいいだろう。今日はとりあえず宿を探し、拠点探しは明日にしよう。


「はあ……とりあえず、宿を探そう。結構な長旅だったわけだし、ゆっくり休みたいしな」

「そうですね……ずっと馬車でしたし」


 メリーも同意し、他の三人も少し疲れたように頷く。五人で宿を探し、部屋をとって休んだ。しかし、やはり王都は地方の街より物価が高いというか。宿代が結構する……広い部屋は取りづらいな。









 王都の端、少し街並みから外れた場所にその建物はあった。建物は結構な広さを持っており、中には何人かの剣を習う人間がいる。なんとなく見れば、剣道場か何かに思うだろう。もちろん、その印象通り、ここは剣を教える場所だ。ただ、剣の振り方などを丁寧に教えるような剣道場ではなく、直接剣と剣を合わせるような実践を通して教える場所だ。流石に本物の金属製の剣ではなく、木剣だが。


「甘い」

「うわっ!」


 少年が持っていた剣が、およそ四十ほどの年代の男性が振るう剣に弾かれ取り落とす。今回は男性側は受け手で、少年に打ち込ませていたが、剣を持つ力も、打ち込む技も弱く、男性が軽く剣を動かすだけでその動きに少年の剣が巻き込まれ取り落とすことになった。


「剣を使う人間なら剣は最後まで根性で持ってろ。俺らは武器を選ぶわけじゃねえが、武器がないと戦えねえからな」

「は、はい!」


 男性はこの剣道場の師である。そして教える者は神儀一刀の剣である。神儀一刀は武器を選ばない、とはいうものの、素手で技を振るうようなことは出来ない。手刀で神儀一刀の技を扱うことは出来ない。きちんとした武器を持っていなければならないのだ。だからこそ、神儀一刀において最後まで武器は持っているべし、と教える。たとえ死んだとしても。

 最も、この教えは絶対ではない。時には武器を手放すことも必要なこともある。あくまで心構え的な意味合いが強い。


「よし、次」

「はい! 行きます!」


 先ほど剣を取り落とした少年とは別の少年が男性に打ち込んでくる。今は男性が受け手となり、次々に少年たちの相手をする番だ。これが二巡ほどすれば、次は少年たちに男性が打ち込む番になるだろう。

 男性が少年を相手にしているのとは別のところでは、二人の男性が剣の打ち合いをしている。神儀一刀の剣は実戦で磨かれるものだ。木の剣とはいえ、やはり実戦を行うのが何よりもいい。だから訓練でも実際に打ち合いをする。

 そんなふうに、この剣道場での日常光景が繰り広げられている。この道場で教えられているのが神儀一刀であることはそこそこ有名だ。なので時々道場破りのようなこともあるが、そういう場合は大体剣を教えている男性が相手をして、相手を瞬殺して追い返すのがいつものことだ。


「たのもー!!」


 大きな声が剣道場に響く。少年たちの動きが止まり、声の方に目を向ける。また珍しい道場破りがきたのか、と思ったのだ。しかし彼らは今訓練中だ。流石によそ見などをすれば彼らの相手をする男性も注意をする。物理的に。


「いだっ!?」

「よそ見をするな。実戦でやれば死んでるぞ」


 よそ見をして目の前の相手から目を逸らした少年に剣を打ち込み、男性は注意を促す。目の前の少年の方を見ながらも、男性は声のした方向に意識を向けていた。それは男性にとってはどこか聞き覚えのある声で、向けた意識も懐かしい感覚を告げている。


「さて、誰だったかな」


 ここから旅に出て、剣の修行をしている男性の弟子はそこそこ多い。神儀一刀は一度学べばあとは自分で技を磨くしかない。大体の場合、師匠の下に戻ってくるのは相応に技を修めた結構な実力者の場合が多い。時々旅で何も学べず、泣きつくように戻ってくるのもいるが、そういうのは殆どの場合、神儀一刀に一歩だけ入ってこれた程度の実力者だ。旅に出て磨けるようなものがあれば、と旅に出したが結局目がなかったということで追い出すことが多い。

 男性が声の下方向、入り口まで行くと、そこにいたのはアルツだった。


「師匠、久しぶりです!」

「ああ、そのやかましい声はアルツだったか……」


 声の大きさで覚えられている、というのも変な話だが、だいたい旅に出される弟子の強さは同じくらいだ。よほど特別な剣の腕でもあれば話は別だが、殆どは剣以外の特徴で覚えるしかない。


「しかし、旅に出ていたのが戻ってきたってことは……俺と闘るつもりか?」


 男性の口の端がつり上がる。ここに自信を持って戻ってくるということは、相応に実力を伴っているはずだ。強い相手との闘いは神儀一刀、剣を治める者としての本能、求めである。


「……もちろん」


 男性が笑うと同時に、周囲の空気が変化していくのをアルツは感じていた。剣を扱うものとしての、戦いの威、気迫のようなものだ。未熟であれば簡単に飲まれ、萎縮するだろう。現に直接向けられているわけでもないのに、先ほどまで男性と訓練していた少年たちはその空気に怯えを感じているようにみられる。

 アルツはその様子を目の端に留め、自分も昔はあんな感じだったかと心の中で思っていた。今のアルツはこの程度の気迫にのまれるようなことはない。もっと恐ろしい、強大な存在と相対したからだ。目の前の師匠も、それに匹敵する、とはいかなくてもとても強いことは感じられるものからわかる。アルツも思わず笑顔を浮かべる。強者との闘い、それを感じて。


「……いい感じじゃねえか。来な」


 剣道場、その中の広い場所にアルツと師匠の男性が行く。この場所は剣道場のように見えるが、教えているのは実際の戦闘でつかう剣の技だ。戦う、訓練の場所に行動できる範囲を示すような線などが退かれているようなこともなく、無骨な雰囲気の訓練場だ。

 弟子の一人が、木剣をもってくる。試合みたいなものでも木の剣を使って行う。本当は彼らにとっては実剣を使う方がいいのだが、殺しは流石にまずいということで木剣を使う。木の剣でも相手を殺すことは可能であるが、この程度で死ぬようならば神儀一刀を学ぶことなんてできない。彼らは十階建てのビルから落下しても、痛い! 程度で済ますような強さがないとやってられないのである。


「アルツ、カウントは使うなよ? 見せの試合だからな。それと、技もまだ使うな。まずは素の強さを見せてもらうからな」


 模擬試合、神儀一刀同士の闘いではテンカウントを使わないことが多い。これは仮に自分が使っても相手が使うので使う意味があまりないからである。それと、今回のような試合は実際の神儀一刀の剣がどのようなものか、少年の弟子に見せる意味合いもある。見て学ぶ、見て盗む。神儀一刀の剣は実戦で磨き、実戦で覚えるものだ。強者同士の闘いはいい訓練、経験になる。


「ああ、わかってる」

「ならいい。いつでも打ち込んできな!」


 言葉を切ると同時に、男性はアルツに威圧を向ける。技でもなんでもないただの気迫だ。これで剣を鈍らすのであれば、大したことはない実力だ、とすぐにわかる。アルツはその気迫を受けてもなんら変わることなく、いつもの一撃を師に振るった。

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