44
「なあ、ハルト。少し付き合ってくれないか?」
ギルドでの話をした次の日、アルツに簡単な討伐依頼に付き合うように誘われる。いつもであれば半ば強引に巻き込まれるのだが、今日はどうもアルツの様子が変なせいか返事を待っている。
「……別にいいけど」
「そうか。なら、簡単な依頼を探してくる」
そう言ってギルドで簡単な討伐依頼を受け、街の外、近場で討伐を行う。
「ふっ!」
アルツとの討伐において、俺の出番は基本的にない。わざわざ魔術を使用する必要があるほどの強敵が出ることもないし、前衛であるアルツが敵をすべて倒すこともあり、後衛である俺に相手が回ってくることもない。なのでいつもアルツの戦闘を見ているばかりだ。
しかし、今回見るアルツの戦闘能力は少し前よりもかなり上がっているように見える。わずか数日で身体能力が変わるわけでもない。むしろ今はまだ戦闘の傷が残っているくらいのはずだ。そのうえで、戦闘能力が前よりも上がっている。
「あれは……」
アルツがいつもの剣の構えとは違う構え方をする。それは少し前の戦いの時に見た、神の使ってきた技、アルツが相殺した神儀一刀の奥義の手前の技と言っていた技の構えだ。
「天剣!」
アルツと戦っていた神の放った技ほどの力強さは感じられないが、アルツの普段使う剣の技よりも強い技であることが感じられる。その斬撃はその直線状に存在する戦闘相手を切り裂き、さらにその向こう、数十メートルほど先にある木を切り倒すほどだった。ぽつんと一つだけ立っていた木は結構わかりやすい目印だったのだが、これで切り倒されてなくなってしまうとは。
技を放った後、アルツは剣を何度か降って感触を確かめているようだ。
「その技、使えるようになったのか」
「……ああ。あの時は助言してくれてありがとう、ハルト」
落ち着いた感じで素直に感謝されるとどうも気恥ずかしい。アルツとはそこそこ長い時間一緒にいるせいもあり、気安い付き合いだからこそ、こういう雰囲気で感謝の言葉を伝えられるのは苦手だ。
「気にするな。仲間だろ」
「……ああ、そうだな!」
少しは元の元気が戻ったようだ。なんだかんだで色々と困ったり大変だったりするが、アルツは元気よく皆を引っ張って連れまわすくらいの方がいいだろう。チームのまとめ役としてのリーダーがおれなら、チームの先導役、最前列、先頭のリーダーといった感じだろうか。
「なあ、なんで王都に戻ろうと思ったんだ?」
王都に行きたくないと言っていたのに、急に王都に行こうと言い出した理由が少しだけ気になっていた。今のアルツの感じならば教えてくれるかもしれない、と少し聞いてみた。
「一つは神と戦ったからだ。本当の神様と戦って、その強さを理解した。より、上を目指す必要がある。ギルドの依頼は王都の方がレベルが高いんだろ?」
つまり、今まで以上の戦いが必要になるから、ということだろう。そのために王都のギルドの討伐依頼を受けるということだ。
「そして、さっきの天剣。あれはあの神が言うには奥義の一つ手前の技だ。この技がどの程度の技なのか、師匠に見せたい。師匠ならもしかしたら奥義について何か知っているかもしれない」
「……奥義について教えてもらったことはないのか?」
「ない。ただ、俺は実力が十分になったから修行してこいってことで修行に出たんだ」
そういうのを教えるのが師匠の役割ではないだろうか。いや、でも神儀一刀の技は教えられるものじゃなくて盗むものだ。そう考えると、わざわざ何かを教えるようなことをしないのかもしれない。ならばなぜ奥義を見せないのだろう。
「奥義を見せてもらったことは?」
「ない」
「……なぜ奥義を見せなかったんだと思う?」
はっきりと奥義を見ていないとアルツは答える。なので、奥義を見せなかったことに関して直接アルツの考えを聞いてみた。
「神儀一刀の流派の技、っていうのは全然違うんだ」
「……全然違う?」
「ああ。神儀一刀の技はそもそも教えられるようなものじゃなくて、自分で作るものらしい。だから、神儀一刀の技はどこで教えてもらったかで全然違うらしい」
技を自分で作ると言われるとよくわからないが、歴史や伝統のあるものではないのだろうか。
「つまり奥義も自分で作るべき、ということなのかもしれない。人に教えてもらう奥義ってのも何か変だからな」
ああ、それは何となく思うかもしれない。人に教えてもらった奥義が自分の最大の技、というのは何か違う感じだ。それはつまり、技を教えてもらった相手を超えることができないということだ。この場合は師匠を超えることができない、という感じか。味方だから別にいいじゃないか、と思うかもしれないが、戦いの研鑽を積むものとしては最強を目指したいところだろう。
「……なあ、ハルトはなんで王都に行きたいんだ?」
「上を目指したいからかな」
「それはなんでなんだ?」
俺が上を目指す理由か。確かに、なんとなく思っていた感じで明確に理由にだしたことはないかもしれない。
「……昔は知らなかったが、父親の冒険者のランクを知ったからっていうのがあるかな。少なくとも緑にはなりたい」
赤まではすんなりと言った。普通は赤になるにも結構な時間が必要なはずだが、色々と好条件が重なったからだろう。しかし、緑のようなある一定上のランクとなると単純に依頼をこなしていくだけでは上がるのは難しい。あるランク的な強さの到達点、条件の達成が必要になる。一例をあげるならば、特定の魔物の討伐だな。上位の竜種とか。
「知らなかったころはなんで上を目指してたんだ?」
「そのあたりは憧れかな。なんだかんだで俺も強さを認められたいっていうのはあったから」
以前は、この世界以前は物事でそこまで高い実力っていうのはなかった。別に俺は貴族として生きることになるのだから、強さなんて必要ないかもしれないが、せっかく持っているんだから、より上に到達して認められたいと思う所はある。
「確かにハルトは凄いからな、魔法が!」
別に魔法が凄いというのは自分でも自画自賛できるくらいに事実だが、アルツの言い方は魔法だけがすごいように聞こえる。アルツに悪気はないのだろうけど、少々むっとしてしまう。
「そうだな。ちょっと味わってみるか?」
杖を向け、術を構築する。流石に攻撃魔法を使うと洒落にならないので、ちょっとした風の魔法だ。空高く吹っ飛んでいくくらいの。
「おい、ハルト。いったい何を……」
「一片空を飛んでみるのも、経験としては悪くないぞ? "風よ彼のものを空の旅に行かせよ"」
「ハルトォォォォォォ!?」
風による飛行の魔術だ。結構な速度で空を飛んでいき、こちらに叫ぶ声が遠のいていく。移動先はほぼ真上、着地点はおよそいた場所の五メートルほど前になるように調整している。そこそこ早い落下をして、地面手前で落下速度を殺し、アルツが戻ってきた。
「どうだったか、空の旅は?」
「面白かった!」
なんというか、性格が大雑把というか。あれだけ高い所に自由もなく飛ばされて面白いって言える豪胆さは称賛したくなるな。




