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「う…………あれ? 俺生きてるのか?」
「アルツさん!」
「アルツ!」
気絶したアルツが目を覚ます。
「起きたか。傷は大丈夫か?」
少しだけ身体を動かして確認している。包帯を巻くなどして軽く治療はしているが、治癒の魔術などを使用したわけでもない。少しだけ眉をしかめる様子が見て取れる。
「痛むけど、動くのには問題ない」
そう言って視線を周囲に向ける。誰か探している様子だ。恐らくはアルツと戦っていたあの男性を探しているのだろう。
「アルツと戦っていた相手は何処かに行ったぞ」
「そうか…………」
戦闘の時のことを思い出しているのか、アルツは少し悔しそうな表情を浮かべる。ただ、剣を持ってはいないが手の動きが最後に振るった技を想起したかのような動きをしている。
「とりあえず、一度村に戻ろう。アルツの怪我もあるしな」
あれこれと考えるのはゆっくりできる場所でいい。ここからギゼルモルトまで戻るとなると夜を過ぎる。一度村に戻るしかない。この場で残っていても仕方ないので、皆で途中の村に戻る。キメラの死体は既に切断されていた首のみを持っていく。
村に戻ると、アルツの怪我や、通常の獣頭よりはるかに大きいキメラの首などで驚かれる。今度もお金を支払い、村に泊まった。今回はアルツの怪我の治療も行うこともあり、アルツとシェリーネ、カリンとゼス、俺とメリーの組み合わせで止まることになった。そして特に村で何が起こるでもなく、翌日を迎え朝に村を出てギゼルモルトへ帰ることになった。
夕方ごろ、ギゼルモルトに帰還し、ギルドに入りキメラ討伐の話をする。今回も、受付に話をしてギルド長のところに行くことになった。
「おう、やってくれたそうだな」
「…………いえ、少し違います」
ギルド長の部屋に持ってきたキメラの頭を置き、今回の件についての話をする。キメラは自分たちが訪れた時にはすでに討伐されていた、その時に何者かの男性の姿を見たが、すぐに行ってしまった、とギルド長に報告した。全ての真実を話すべきか考えた結果、神という存在についてどれほど認知されているのかがわからない。そして、神がキメラを殺したというのがどの程度真実味を持つのか不明だ。嘘ではないし、そんな嘘をわざわざつく必要性もないから信用されるとは思う。ただ、無理に全部話す必要もないと考えたのだ。
「……討伐されていたのか。その男はどんな感じだったか?」
「恐らくは旅の剣士か何かだと思います。キメラの死体を見ればその切断痕でもわかりますね」
ふむ、と考えるようにギルド長は手を顎にもっていく。その目は少しこちらを向いており、どこまで本当かと疑念も含んでいる感じがする。
「死体の確認はこちらでしよう。今回お前たちが討伐した、というわけでその分の報酬は渡せないが……そうだな、その確認に行ったということでその手間の分を支払うということにするか。無報酬というのはきついだろう」
「こちらは何もしていないので、報酬は貰えないと思っていたのでそれはありがたいですね」
当初、討伐したときの報酬はなくなったが、キメラの状態の確認と死亡の報告ということで、移動や宿泊に使った分の代金を報酬としてもらえることになった。そこまで大した出費ではないが、ありがたいと言える。話はそれで終わり、部屋を出て受付で報酬をもらい、ギルドを出て解散した。
翌日、ギルドに全員が集まる。今日は何故かアルツがいつものように討伐の依頼を探しに行かない。
「アルツ、依頼は探さないのか?」
「………………ああ、今は良い」
何か考えている様子だ。普段のアルツを知っている皆はどうもアルツの雰囲気が違うせいか落ち着かない様子である。
「ここ最近は行ったり来たりが多いですし、しばらくは近くで採取や討伐を主にしませんか?」
「そうですね、最近は家にいないことが多くて心配かけちゃってますし…」
メリーが簡単な依頼を主にしようと提案し、ここのところ遠出で家を出ているシェリーネが賛同する。
「……別に構わない」
「いいけど、この辺で討伐となるとちょっと物足りないわね」
カリン、ゼスも一応の賛同を見せる。
「………………」
「アルツはどうする?」
「………………」
アルツの反応がない。深く考え込んでいる様子だ。そもそも話を聞いているのかが不明な状態だ。
「なあ」
しばらくアルツの反応をうかがっていると、アルツの方から声をかけてきた。
「何だ?」
「……王都に行かないか?」
唐突な提案だ。そして、王都にはアルツの師匠がいるということでアルツが行きたがらなかったはずだ。
「師匠がいるから行きたくなかったんじゃないのか?」
「……今は、大丈夫だ。むしろ、今は師匠に会いたいくらいだからな」
一瞬、後ろに圧されるような気配をアルツから感じる。威圧、というと少し違うがそんな印象を抱く気配だ。意図的なものではない。アルツが感情的に漏らしたものだろう。
「…………王都か」
行きたいとは思っていたが、アルツの件もあり言い出すつもりはなかった。しかし、アルツから言い出してきたならばこの機会に王都に行ってもいいだろう。
「あ、あの……」
「どうした、シェリーネ?」
どうしようか、と思っていたところにシェリーネが声をかけてくる。
「もし王都に行くことになるなら、しばらく先にしてほしいです」
「理由は?」
「……ちょっと、家族との時間を作りたいんです」
「ああ……」
王都に行くとなると、移動も滞在も結構な時間になるだろう。向こうに拠点を持てばこちらに戻ってくる機会も減る可能性が高い。
「……そうだな。みんなは王都に行くのはどう思う? 多分、王都に行ったら一時的に王都に滞在するみたいなことではなく、向こうに拠点を持つことになる。こっちに戻ってくる機会は減るはずだ。シェリーネもそのあたりはどうだ?」
「……少し考えさせてください」
流石に本当の意味で家族の元を離れて過ごすことになるだろう。簡単に答えの出る話ではない。
「別に私はいいけど」
「俺も構わない」
「私も別に」
メリー、カリン、ゼスは特にこだわることもないようで、王都に行くことに反対はないようだ。メリーやカリンは自分から家を出たこともあり、わざわざ戻るようなこともないのだろう。ゼスはもともと家から遠くのところで活動しているのだから王都に行った所で大して変わりはない。アルツも俺も王都にはいくつもりということで、後はシェリーネがどうするかということになる。
「とりあえず、しばらくはここでゆっくりしよう。討伐依頼も受けたい人が簡単なものを受ける、ということでいいな」
話は決まり、今はギゼルモルトでのんびりとすることになった。