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以前も来たことのある村に到着する。朝に集まりギゼルモルトを出たが、ここに到着した時刻はそろそろ夕方になるくらいの日の傾き具合だ。
「討伐……」
アルツが討伐に行きたそうにしているが、やはり夜に討伐は危険なので駄目だ。
「明日な。今日はここで休むからな」
とりあえずは村長のところに行こう。村長の家は以前も止まったので場所を誰かに聞く必要もなく行ける。突然冒険者が村に来た、ということで少々村人が遠くから見ているが、気にしないでおこう。
村長のところに向かっていると、一人の少女が近づいてくる。
「あの、アルツさん……と、ハルトさんですか?」
「マリエッタじゃないか、久しぶりだな!」
マリエッタはこちらのことを覚えていたようだ。アルツも覚えていたようで、マリエッタを見て挨拶をしている。しかし、もう結構前のことだったが顔と名前尾を覚えている者だろうか。命を救ってもらった、ということで覚えていたのかもしれない。アルツにならい俺も挨拶をする。
「久しぶり、マリエッタ」
「お久しぶりです! 今日は何の用でこの村に?」
「ちょっと依頼を受けてね。今からその場所に行くとなると夜になるから、その中継としてここに泊まらせてもらおうと思ったんだ」
「そうなんですか。あ、村に留まるならアルツさんはうちに留まっていきませんか? 久しぶりにお話し聞きたいですし」
ああ、なんだ。なんとなく覚えていた理由がわかる。マリエッタの表情は恋する乙女のそれだ。その表情を見て後ろにいる女性メンバーの二人が棘のある雰囲気になった。とりあえず今は話を中断させてここから離れよう。
「マリエッタ。今は他にもメンバーがいるから、誰かの家に滞在といっても難しい。村長と話してどこに滞在するかを決めるから、話をしたいならここに仲間を残すよ」
そう言って俺はその場から離れる。アルツの残った所に目をやると、マリエッタがアルツに話しかけ、それをカリンがにらみつけるように見ている。シェリーネはどうすればいいか困ったように小さくわたわたとしている。それに巻き込まれているゼスは居心地が悪そうだ。
「ハルトさん、村長のところに行くんじゃないんですか?」
「……メリーは残らないのか?」
「あの空気の中に残りたいとは思いません。ゼスさんには悪いとは思いますけど」
メリーもあの二人の出す空気にすぐ気づいてに出てきたようだ。
「どう思います? アルツさんとあの二人の事」
「どう思う、と言われてもなあ……」
正直恋愛関連の話は言われても困る話だ。俺の場合は貴族ということで最初から婚約者がいるわけだし。
「今のままでも別にいい、とは思うけど。最終的にはアルツがどうするか、ってことになるからな」
結局のところ、アルツが誰と一緒になりたいか、になるだろう。既成事実でも作るならば話は別だが、普通に恋愛するのであればアルツがどちらを選ぶかということになる。別にあの二人でなくても、例えば旅先で誰かに一目ぼれしてその人物と付き合う、とかもあり得ないとは言わないだろう。惚れた弱みと言った所か。
「……そうですね。アルツさん、どうするつもりでしょうか」
「そもそもアルツは気付いてないだろうからな……」
あの戦闘一色のアルツが誰かに恋愛的な意味で好意を抱くだろうか。正直言って難しいと思う。以前も思ったが、性教育は受けているのだろうか。あの手のことは親が教えるか、仕事の仲間にその手の場所に連れていかれて学ぶことだ。
しばらくは恋愛関連、アルツに限らず仲間内の恋愛事情の話をしながら村長のところに向かった。その手の話は俺の場合基本蚊帳の外になるのでどうも話が合わない感じだった。村長のところに行くと、以前会ったことを覚えていて、今回滞在したいと言うと、構わないということだったが、どうも反応は良くない。以前は村民の恩人の貴族、ということで歓待してもらったわけだが、今回もそういうわけにはいかないだろうということで、ただで止めてもらうつもりはない、宿代は払うと自分たちの泊まっている宿と同じ分のお金を出すととたんに反応は良くなった。
その後は各自で村人のところに泊まることになった。一度村人が呼ばれ、俺たちがどこに泊まるかが話される。その結果、マリエッタの家にアルツ、カリンが泊まることになった。名目上は人の家の娘に手を出さないように見張る、ということだが、どちらかと言えば逆だろう。残りも、俺とシェリーネ、メリーとゼスの組で止まることになった。泊まる場所は他人の家だ。女性だけ、とかだと不埒な行動をとる人間が出ないとも限らない。そういうことで二人一組で泊まることになった。
何も起きることはなく翌日を迎える。
「さあ、ハルト! 行くぞ!」
「落ち着け。みんな集まってからな」
今日は遠足の日の子供のような感じで興奮したアルツの方が俺を呼びに来た。正直言ってまだ早い。
「よし、皆を呼びに行ってくる!」
「落ち着け。急いだところでいい結果にならないぞ。とりあえずお前はマリエッタの家に戻れ」
俺は起きているが、まだほかのメンバーは起きていないだろう。そもそも村人もまだ起き始めたばかりという所が多そうだ。つまりアルツは食事もとっていないだろう。
「うう、討伐……」
アルツを何とかマリエッタの家まで連れていった。そしてシェリーネを起こしたり、食事を作ってもらい食べたり、出発の準備をしてようやく村の入り口に集合する。入り口ではアルツがそわそわとした状態で待っていた。
「早く討伐に行きたい……」
「そろそろみんな集まるころだから、落ち着け」
少し待ち、全員が集まりようやく出発となった。村から北北西、山の中が目的地だ。以前はゴブリンを捜索したり、巣を探したりなどしながらの移動だったが、今回は地図もある上に余計なことをしないのですんなりと山の近くまでこれた。
「………………」
山の近くに着て、アルツの様子が少々おかしい。キメラ討伐を行うことを楽しみにしていた様子だったのに、急に無言になった。それだけではなく、少し緊張感みたいなものを出している。
「アルツ、どうした?」
様子が変なので何かあったかと聞いてみる。
「いや、少しな。俺はいいから、先に行こう」
アルツが先に行くことを促す。少し腑に落ちない感じだが、先に向かう。
「そろそろ捜索するか」
魔術を使い、キメラの存在を捜索する。しかし反応はない。いや、妙な反応がある。その変な反応を仲間に伝え、そちらへ向かう。その途中、辺りに破壊跡が残っていた。
「暴れていたのか?」
「いや、これは何かと戦っていたんだろ」
破壊跡を見てつぶやいた俺の感想にアルツが答える。
「冒険者が戦った跡……か?」
自分自身でも少々疑問に思う。冒険者は一方的にやられた、という話だ。その割には辺りに破壊跡が散らばっている。疑問を残しながらも反応のあった場所に向かい、到達する。
そこに合った光景は首が斬り落とされたキメラの死体と、その傍に刀をもって立っている男性の姿だった。