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その後、迷宮と同じように魔窟の核を回収した。魔窟は迷宮と違い、明らかに色の違う地面の中にその核が存在していた。迷宮はどこか迷宮というシステムを維持するためのパーツのような印象だが、こちらは大地の上に魔物を発生させる大本であるような印象を抱かせる。魔窟も核をとって少しして崩壊する。その時魔窟内の魔物はどういうわけか外に逃げるようなこともないため、外に逃げる魔物を待ちかまえたり事前に掃討する必要はないらしい。
魔窟の外に出て、森の側で待っていた馬車に向かう。馬車に着くと、かなり早い期間ということで驚かれた。普通は魔窟の攻略に結構な時間をかけるものだが、迷宮と同じく中の地図を魔法で作り移動しているのでほとんど迷わずすぐに最奥まで行けるので実質的に移動と戦闘にかかる時間だけでいい。
そのまま家まで戻り、仲間は休むようだ。俺は父さんに報告と核を私に行く。
「入れ」
ノックをして入室の許可が出たので部屋に入る。
「ハルト……早かったな」
父さんもこちらを見て驚く。まあ、父さんでも攻略には時間がかかるのだろう。戦闘能力があっても中の構造が把握できなければどうしても時間がかかるものだ。
「まあね。はい、核」
「本当に魔窟の攻略を終わらせているのか。俺でも結構時間がかかるんだがな。なかなかやるじゃないか」
素直に褒められる。
「事前の情報とは別の魔物もいたんだけど」
「ああ、それは出てきたときにいた魔物しか把握してないからだな。中の探索はしていないからしかたない」
中にどんな魔物がいたのか、魔窟の最奥のボスについて聞かれる。事前情報と同じ蜘蛛、および蜘蛛の頭の人型の魔物、ボスのアラクネの話をする。そして、途中で出た異様な存在、亜神の話もした。
「亜神? いったいどんな魔物だ?」
「魔物……といっていいのかな、あれは。よくわからないけど、多分ほとんどの場合は変異種であると思われているんじゃないかな」
そう言って亜神の特徴、そして俺が感じた嫌悪感や悪寒についても言った。それを聞いて少し眉をしかめる。何か嫌なことを思い出しているようだ。
「……覚えがある。あれは変異種じゃなくてその亜神とやらだったか」
どうやら父さんも亜神とやらに会ったことがあるらしい。父さんにその話を聞くと、当時の話をしてくれた。
赤の冒険者の頃に仲間と一緒に迷宮攻略中に遭遇したらしい。その時の亜神の容貌は溶けたような大型の獅子、その胸元にもう一つの獅子の顔が生えていたらしい。その獅子の顔から紫色の煙や緑色の煙を吐き、それを浴びた部分が溶けたり毒に侵されたりとかなり厄介なようだった。結局一度退いてから魔術を用いて遠距離から倒したらしい。その時の毒の影響で仲間の一人が冒険者を引退する羽目になったのがその時の事での一番の後悔らしい。
「そういえば、明日は都市に行こうと思う」
「それはいいが何か用でもあるのか?」
もともと家に戻ってきたのはリフィに会うためだけではなく、アルツの使う武器を作ってもらうことが目的であったこと、街の鍛冶屋から紹介状をもらっているのでこちらの鍛冶屋に行くつもりであることを告げる。それを言うと、父さんは何やら紙を出して書き始める。
「多分その紹介状の鍛冶屋と同じだと思うが、俺からも紹介状を渡しておくぞ。まあ、別に紹介状がなくても大丈夫だと思うけどな」
「ありがとう、父さん」
父さんからの紹介状も受け取り、部屋に戻った。流石に戻った時間もあるのでリフィとは会えなかった。残念。
翌日、アルツを連れて鍛冶屋のある都市に向かう。仲間内ではカリンが一緒に来た。剣を作るということで前衛であるカリンも多少は興味があるのだろう。馬車に乗り、都市に移動し、鍛冶屋へと向かう。今日はほかに用事があるわけでもないのですぐに辿りついた。
「ここか」
結構大きな鍛冶場だ。三人で中に入る。見習いらしき受付の人がいて、対応される。父さんとギゼルモルトの鍛冶屋でもらった紹介状を見せると、それをもって奥に向かった。しばらく待つと、こっちですと奥に案内される。
案内された先はごちゃりと色々なものがおかれた場所だ。鍛冶道具から中途半端に作られた剣、色々なサイズの木の剣、以前の鍛冶屋でも見た使用に最適な剣を調べるための各種の剣なんかもある。別に剣だけじゃなくて槍や盾、鎧なんかも置いてあって本当にごちゃごちゃしている場所だ。鍛冶を行う場所ではなさそうに思える。
「紹介状を持ってきたのはお前らか? 作ってほしいのはそっちの男か? 女か?」
二メートルを超える筋肉隆々の色々な所に古傷と火傷がある男性だ。結構な年齢だと思うが、その筋肉隆々な見た目でどちらかというと顔が老けている、というように見える。
「初めまして。ハルト・マルジエートです。今回作ってもらうつもりなのは男の方、アルツの件です。女性の方も新しい剣を作ってもらえるなら……えっと、カリンは剣を作るつもりは?」
カリンに尋ねると新しい剣を作ってもらえるならば作ってほしい、ということで二人の剣を作ることを話す。
「ふん。まず、お前らはあそこの木剣から一番使いやすい形状の剣を持ってこい」
アルツはその言葉に疑問もなく剣を探す。カリンは何故そんなことを、といった風に困惑していたが、アルツをまねて自分に適した剣を探し始める。すぐに見つかったようで、木剣を携え戻ってきた。
「よし、ちょっとこっちにこい」
アルツたちと一緒に男性についていく。そこにあったのは訓練をするような場所だ。そこにおいてある木剣を男性が持つ。
「おまえら、とりあえず俺に打ち込んで来い。一回だけでいい。そのあと、俺から打ち込むからもっている剣で俺の打ち込みを防げ」
そう言って訓練場に男性が剣をもって待ちかまえている。どちらが先に行動するかの話をする前にアルツが男性に相対する。
「行くぜ!」
アルツが男性に対して全力で打ち込む。流石に神儀一刀の技は使っていない。木剣同士がぶつかり合い結構大きな音が鳴り響く。アルツが剣を引き、下がる。そして次は男性の振るう剣がアルツに向かっていく。アルツも男性がしたように木剣で防いだ。
「よし。その剣を渡せ」
アルツが剣を男性に私、男性が二つの剣をまとめて一か所に置き、その場にある紙にさらっと何かを書いている。そして新たな剣を持って再び訓練場に立つ。次はカリンが同じようなやり取りをした。
「大体わかった。あとはどんな剣を作ってほしいか、そこら辺にある剣で自分が使いたいと思ったやつを持ってこい。それが終わったら帰っていいぞ。一週間後までは作っておく」
アルツとカリンが自分の使いやすそうな剣を探し、それを男性に渡して鍛冶屋とのやり取りが終了した。現物ができるまで結構かかるが、一から作るなら一日で作れるはずもないだろうし当然か。