27
家に帰り、アルツたちと話をしてその日は各自部屋に戻って休むことになった。俺はしばらくリフィ達と話して部屋に戻り休んだ。
そして翌日。使用人に起こされなくても冒険者業のおかげで朝は早い。最も早く起きたところで俺は肉弾戦が主体ではないので軽く部屋の中で運動をして、魔術の確認などをして過ごす。いつもであれば必要なものの確認などもするが、今いるのは自分の家だ。すぐに冒険に出るわけでもない。冒険者業に戻った後怠る可能性があるから習慣を変えるべきではないだろうけど、せめて家では余裕をもって起きたい。
使用人が部屋に入ってくる。軽く運動していることもあり水と布、そして着替えを持ってきている。服を脱いで身体を拭いてもらい、もってきた着替えを着る。うちの家系は冒険者になる家訓の存在で基本的に朝早くに起きる。父さんなんかは実際に外に出て訓練するくらいだ。それもあり使用人たちもその環境に馴染んでおり、対応も慣れたものだ。普通の貴族ならばもう少し違うのだろうが。見たことはないが、リフィへの対応は普通の貴族と同じ感じだろう。
「ハルト様。ビュート様がお呼びです」
「父さんが?」
着替えを終えた後、着替えた服と布と水をもってメイドが部屋の外に出た後、執事のジェイスが部屋に入ってきた。父さんが俺を呼んでいるのは何故だろう。
「理由は?」
「私は教えられ降りません。直接ビュート様にお尋ねください」
ジェイスに急ぐ様子はない。緊急というわけではないだろうが、一体何なのだろう。ジェイスについていき、父さんの部屋に向かう。扉の前にジェイスが立ち、ノックをした。
「入れ」
ジェイスが扉を開け、中に入る。俺もそれに続いて中に入る。
「ハルト、とりあえず座れ」
父さんの仕事机の前に椅子があり、そこに座る。時々今回のように用事で呼ばれて父さんの仕事姿を見ることがあるが、似合っていない。やっぱり一度冒険者をやっていたせいでどうも貴族的な姿が似合わない感じだ。本人もどうも肌に合わない様子だ。ただ、肌に合わないことだからといって領地経営など貴族としてのいろいろ必要な事項はある。母さんにも回しているが、こういう仕事は家の主、領地を治める長の父さんのやることだ。
でも、やっぱり戦闘指揮についていたり戦闘で先陣を切っている姿の方が似合っている。貴族としては間違っている気がするが。
「ふう」
書面の内容を確認したようで、持っていた紙をおいた。
「悪いな。呼んだのに仕事をしてて」
「慣れてるから問題はないよ」
実際今までも何度かあった。大したことではない。
「お前の今の冒険者ランクは幾つだ?」
「確か……桃だけど」
俺とアルツは桃出会っているはずだ。あとから入ったメリーとカリンも桃のランクだ。シェリーネだけは橙のままだ。
「ふむ…………なら問題はなさそうだな」
そう言ってごそごそと机の上を探している。結構書類が散らかっているが、少しは片づけないのかと言いたい。最もこういうのは本人にはわかる置き方、という場合も少なくないから勝手に片づけるわけにもいかないだろう。
「ああ、これだ」
一枚の紙を手にして内容を読んでいる。
「ハルト。お前たちに魔窟を一つ攻略してもらいたい。できるか?」
魔窟。迷宮の攻略とは違い、魔窟の攻略はそれなりに面倒だ。迷宮は外からの侵入者を歓迎する、招く性質のある場所だが、魔窟はその逆で中で魔物を生み出し、それ外に出すものだ。その性質上、迷宮は侵入して攻略しやすい環境だ。例えば明かりの問題だが、迷宮では明かりをつけなくても壁や天井が光をもっていて明るい。それに対して魔窟は辛うじてヒカリゴケか何かの明かりがある程度で、暗い上に、人が移動しやすいような道をしていないことがほとんどだ。魔物が外に出るために移動するのだからその魔物が移動しやすい程度には環境が整えられているはずだが、魔窟によってはそれすらされていないこともある。
ちなみにこの魔窟はある程度中で魔物が生まれ、知恵ある魔物が生まれるようになると自然と拡張され、そこで生まれる魔物が過ごすのにふさわしい環境になることもある。例えばゴブリンの巣の多くはもともと魔窟だったりする。
まあそういう話は置いておこう。つまりは魔窟の攻略は冒険者に依頼されるものではあるが大変な依頼内容になることが多いのである。
「…………難易度は?」
「俺が指揮して兵を連れて行っても厳しい状況になるな。俺一人なら面倒だがそこまで大変なことにはならないだろう」
父さんは緑の冒険者である。それを以前は知らなかったが、おおよその父さんの強さは訓練で理解していた。兵士の強さはおおよそ橙くらいだろう。俺とアルツは桃のランクだが、父さんはアルツと一度戦って実際の強さを理解している。俺の強さもだ。少なくとも俺の自画自賛になるかもしれないが、桃の一つ上の赤くらいの強さはあるだろう。
「……シェリーネはおいていかないとだめか。カリンとメリーは連れていくことになるけど」
「そうだな。あの子は守ってやっても厳しいだろう。迷宮ならまだよかったかもしれないが魔窟となるとな」
魔窟と迷宮は環境の違いもあり、同じ魔物が生み出される場合でもランクが違う。迷宮に対し魔窟の方が一つ上のランクになる。
「攻略を受けてもいい…………けど、その前にメリーとカリンが受けるかどうかを聞いてからかな」
「アルツ君はいいのか?」
本当に疑問に思って聞いている顔ではない。アルツのことは一度剣を交えて大体理解しているのだろう。そういう所はなんというか、冒険者的とでもいうのだろうか。
「父さんもアルツのことはわかっているだろ」
「まあな。中々強い子だ。互いに本気でやりあえば、七三くらいで俺が勝てるくらいか」
本気でも父さんの方が勝率が上という予測のようだ。この場合、神儀一刀を学んだアルツに勝てる父さんを褒めるべきなのか、それとも元緑の冒険者の父さんに勝てるアルツを褒めるべきなのか。
「まあ、彼女たちが断った場合は受けなくてもいい。流石に二人では厳しいだろう」
気軽に考えればいい、とだけ言って父さんは仕事に戻った。さて、俺も部屋を出てアルツたちの様子を見てこの話を伝えなければ。
アルツは軽く執事のジェイスを相手に戦闘訓練をしていた。この執事も元冒険者で、父さんを尊敬してここに来て執事になったらしい。まあ、結構なブランクもあるためか、アルツの方が圧倒的に優勢だ。
区切りのいいところで戦闘をやめさせ、魔窟探索の話をする。アルツはいつも通り二つ返事で答える。もちろん、肯定でだ。そのままアルツを連れてメリーたちを探す。カリンは一人で休んでいたようだが、メリーとシェリーネは母さんにお菓子作りを学んでいた。各自に昼食時に話をしたい、と伝えた。その後は何故か俺がアルツと戦闘訓練をすることになった。魔術師が近接戦闘をするのはどう考えてもおかしいのだが聞いてくれなかった。