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「相変わらず家に帰ってくると無駄に丁寧な挨拶をするんだな」
父さんは苦笑してこちらを見てくる。なんというか、これは個人的にきちんとした対応をとるべし、という考えによるものだ。
「まあ、なんとなくそうしてしまうんだよ父さん」
「それくらい気安い挨拶でいいものを……」
父さんは小さく文句を言っている。自分でもわかっているが、どこかこだわりを持ってしまう部分がある。しかも人から見ると妙に感じることがほとんどだ。まあ、別にずっとそうするってわけでもないし気にしないでほしいところだ。
「父さん、えっと、皆を紹介するよ」
「ああ。友人……いや、冒険者の仲間か?」
話しかけるとすぐに気持ちを切り替えて対応される。流石に現状で友人を連れて遊びに帰ってくることはない。
「チームの仲間の、アルツ、シェリーネ、メリー、カリン」
アルツたちを紹介すると、父さんが皆の方に目を向ける。強い視線ではないが、どこか見定めるような視線だ。
「アルツです」
「シェリーネです」
「メリーです」
「カリンです」
流石に俺と相対したときとは違い、領主である本当の貴族相手である。いや、俺も一応貴族だが会った時は冒険者という立場であってから貴族であることを教えたから、本当に最初から貴族の相手に会うのは初めてだろう。アルツですらいつもの調子ではないくらいには緊張している。
「ふむ…………」
シェリーネ、メリー、カリンに対しては軽く見た程度だ。しかし、アルツは本気で見定めるような強い視線を向けている。父さんの実力は話を聞いた限りでは相当強いらしいが、見ただけでアルツの強さが分かるほどなのだろうか。
「面白い仲間を持ったようだな」
こちらに笑みを向けて言ってくる。本当に楽しそうな感じの声色だ。
「まあね。父さんも……冒険者としていろいろやってきたらしいね、"魔剣士"さん」
「……どこでそれを?」
かなり呼ばれている二つ名っぽいのに気恥ずかしそうにしている。意外とそういうノリがいいかと思ったが、やっぱりこういうのはあまり好きではないのだろうか?
視線をメリーとカリンに向ける。父さんもつられてそちらを向く。その視線でびくりとメリーとカリンが反応した。父さんは、その反応を見てすぐにこちらに視線を戻す。少し申し訳なさそうにしている。視線を向けただけで怖がらせてしまったからだろう。
「とりあえず、その名前で呼ぶなよ?」
「わかってるよ、父さん」
そろそろ話を切り上げ、自分の部屋……に向かう前に、リフィに会いに行こうと思う。
「父さん、リフィが来ているらしいけど、今はどこに?」
「フォルティーナの部屋だ。かなり仲がいいからな。寝泊りもフォルティーナの部屋でして貰っている」
妹の部屋……か。正直、ルティは苦手なんだが……でも二人は結構仲がいい。大体うちにいるときは俺と一緒かルティと一緒だ。
「……とりあえず、妹にも会っておくべきだしなあ」
ぽそりと、周りに聞こえないように口の中でつぶやく。
「会いに行ってくる。みんなの部屋の準備を頼んでいい?」
「ああ。お前の仲間なら俺の子供のようなものだ。暇のあるメイドたちに言っておく」
っと、そうだ。アルツと戦ってもらうのも頼むか。
「あと、父さん。アルツが父さんと戦いたいって」
「何? それはまた……本気か?」
まあ、緑のランクである父さんに挑むとなると相当な話である。だがこちらが修行の提案をして乗り気なのはアルツの方だ。
「アルツ、父さんと戦う?」
アルツに実際に聞けばわかる。アルツは相手の実力で戦う戦わないを選ばないだろう。
「今すぐか!?」
元気いっぱい、乗り気の反応だ。目が輝いている。
「…………本気か、ならいいだろう。先にメイドに部屋の準備を頼んでから庭に向かう。あー、アルツ君だったかな? 庭に出て待っててくれ。ジェイス、彼を庭に案内してやってくれ」
「かしこまりました」
執事の人、ジェイスって名前だったっけ。あまり家で働いている人の名前を聞いたり読んだりしないから忘れてるなあ。
「君たちはどうする? 応接間辺りで部屋の準備ができるのを待っていてもいいが、彼と俺の闘いを見に来るか?」
父さんが残った三人の女子に聞く。正直戦いなんて見てもつまらないと思うが、意外にシェリーネたちは見に行くことを選んだようだ。シェリーネはアルツのことが心配、他二人は"魔剣士"の実際の実力を見たい、ってところかな?
その場での話は切り上げ、二階に上がる。向かう先は妹の部屋だ。しかし、途中である人物にであう。
「あら、ハルト。おかえりなさい」
「ただいま、母さん、フェリスさん」
「おかえりハルト」
母親のエルハーティー・マルジエートともう一人の母親のフェリス・マルジエート。フェリスさんは妹の母親である。
「リフィちゃんに会いに来たの? ふふ、やっぱり好きな子のことが気になるのね」
「……そうだよ、母さん」
「うふふ、リフィちゃん可愛くなってるわよ。娘が増えるのは嬉しいわね」
まだ婚約段階である。順調に進めば結婚するだろうがかなり気が早いのではないだろうか。
「エル、ハルトたちにお菓子を作るつもりだろう? ここで話していると作れないよ」
「あら、そうね。それじゃあハルト、ゆっくりしてきなさいね」
そう言って母さんはふんふんと鼻歌を歌って階段の方に行く。
「悪いね、ハルト」
「いえ。母さんはいつもあんな感じですし」
どこか天然というか、ずれているというか。おかげで貴族社会に対応しづらい……それも本人でなく周りが対応しづらいこともあり、大体の貴族対応はフェリスさんがやっている。でも何故か母さんの敵になる相手は少ない。フェリスさんと母さんの中も全然悪くないし、自分の母親ながらいまいちよくわからない人だ。だからかなり苦手でそれをフェリスさんも理解しているらしく、こちらが対応に苦慮している場合はうまく誘導してくれているのだからありがたい。
「リフィティアちゃんに会いに来たんだろう? 行ってあげるといい。フォルもいるけどね」
ルティに対しての苦手意識も理解されている。まあ、ルティの諸々は父さんもフェリスさんもわかっているのだ。
「まあ、大丈夫ですよ。ルティですし」
「そうだね」
それで理解されるのもどうだろうと思う。
「ああ、もう行くよ。エルを放っておくとどうなるか……」
「いつも母が苦労をかけてすみません……」
気にしていないと軽く返されてフェリスさんが母の向かった先に行く。お菓子を作るとか言っていたから台所かな。
母とフェリスさんと別れ妹の部屋に向かう。扉の前まできて、扉をノックする。返事がない。どうしたのだろうと思っていると扉が開く。
「ハルト様!」
扉が開いたらいきなり腰に抱き着かれる。ああ、なんというか懐かしい。
「ただいま、リフィ」
「おかえりなさい、ハルト様」
抱き着いてきたのはリフィティア・リュジートイ、俺の婚約者だ。いつも出会い頭はこうやって感情を思いっきり出してぶつかってくる。そういう所もかわいいものだ。
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
リフィに抱き着かれて癒されていると、少し背筋にぞわっとくるねっとりとした声色が聞こえてくる。そうだよな、ここにいるんだよな。開いた扉の向こう。そこには俺の妹、フォルティーナ・マルジエートがいた。




