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さて、ミノタウロスを倒したのはいいのだが。別のチームが戦闘中の時に参加したわけだがよかったのだろうか。一応アルツが突入したときは中で戦っていた女性が危険な状態に立っていたわけだが。とりあえず、後ろを振り向き入り口で会ったメリーと呼ばれていた女性に尋ねる。
「戦っている途中に勝手に参加したけど、駄目だったか?」
少々呆然とした様子だったが、声をかけるとはっと気が付いたようでこちらを向く。
「あ、大丈夫です。むしろありがとうございました。多分あのままだとカリンはやられていたでしょうから」
確かにあの時アルツが前に出て防がなければ振り下ろされた斧が女性、カリンと呼ばれた女性を両断していただろう。まあ、そういう状況でも勝手に加勢してきたことに文句を言う場合もあるみたいだが。今回は特に文句を言われるわけでもなく、感謝されたようでよかった。
「ああ、でも迷宮攻略はどうする?」
「そちらが核を回収してください。倒したのはそちらですし、私たちだけだと一度戻るしかありませんでしたから」
そう言ってもらえるのはありがたい。まあ、先に来た方が核をとるものだと主張するのも変な話だろう。
「それじゃあ、核はこちらが取ります」
そう言って部屋の奥、天井と地面から伸びた光の柱、その中にある核に向かう。実際に見るのは初めてだが、本当にこういう光の柱の中、しかも何故か人の手に届きやすい一メートルほどの高さに核が存在している。この世界の諸々の話を考えれば迷宮や魔窟なんかも神様が作ったものなのかもしれないな。
核に手を伸ばし、光の柱から抜き取る。これで核の回収は終了だ。この核は最初に触れた人物の生態的な何か、多分魔力か何かを吸収し、それに染められる。それはギルドカードなんかにも連動しているらしい。だから誰が攻略したかは簡単にわかる。戦闘が終わったところに侵入して奪いでもすれば話は変わってくるだろうが。
核を抜き取ったことで光の柱が消える。迷宮の機能がそれに伴い停止していく……らしい。確かにうっすらと光を放っていたのがかなり弱々しくなっているのはわかるが、どこまで迷宮が機能停止するのかは不明だ。本に載っている限りでは、新しく魔物が生まれず、罠は起動しなくなるらしい。すでにいる魔物には影響はない。
また、核を抜き取ってから一日後、この最奥の部屋から徐々に消滅していき、最後に入り口が消滅し迷宮そのものがなくなる。中に残った場合はどうなるかは知らないが、迷宮とともに消滅するか異次元のどこかに行くのだろう。迷宮が攻略されたかどうかは迷宮の変化ですぐにわかるので、中に残ったまま消滅してしまう心配はあまりないはずだ。
「これで攻略終了、と」
あとはアルツを呼んでシェリーネと合流し、迷宮を出てギルドに報告するだけだ。
「アルツ、行くぞ…………」
アルツを呼ぼうと思ったが、何やら女性、カリンと呼んでいた女性がアルツと言い合いになっている。ちょっとその言い合いに耳を傾ける。
「だから私が手伝ってやるって言ってるでしょ!」
「別に手伝ってもらう必要なんてない!」
……何やらよくわからないが、会話を聞いている限りカリンと呼ばれる女性の方がアルツの冒険者業の手伝いを申し出ているようだ。なぜそういうことになったのかは不明だが、彼女はアルツに助けてもらった立場だ。それが影響している可能性もあるだろう。だがチームを組んでいるだろうメリーという女性に断りがなくてもいいのだろうか。いや、そもそもどちらがチームリーダーなのだろう。
どちらにせよ、アルツの冒険者業を手伝うのであればこちらのチームに入るのだから結局チーム解散になるのではないか。
とりあえず言い合いを続けている二人を止めよう。ここで話をしていても時間の無駄だ。互いのチームメンバーもいる場で話し合いをしたほうがいいだろう。
「二人とも、とりあえず話はそこまでしろ」
「何よっ!」
女性の方が反射的に反応してきた。
「ここで話をしていても無駄だ。互いに他のチームメンバーもいるんだから、二人だけで話してもしかたないだろう。とりあえずどうするにしても一度外に出て話そう」
理性的に諭す。実際ここで話していても仕方ない。多分二人だけだと話し合いは平行線だ。どちらが先に折れるかの状態になっていただろう。
カリンと呼ばれる女性はむっとした表情をしているが、まあ話を聞き入れてくれたようだ。
「いったん外に出よう。えっと……そっちもそれでいいか?」
「はい、いいですよ。カリン、とりあえず一度外に出て話し合いましょう?」
むすっとした表情でカリンと呼ばれた女性が頷く。恐らくはメリーという女性の方が立場的には上、チームリーダーなのだと思う。
「それじゃあ、アルツ。外に出るぞ」
「おう」
アルツを連れ、外で待っていたシェリーネと合流し迷宮の入り口のほうに向かう。後ろからは女性チーム二人もついてくる。こちらが先導する形で迷宮の入り口までたどり着いた。
「早いですね……」
メリーと言う女性が呟く。迷宮の入り口までは最短ルートで来たのだから早いといわれれば確かにそうだが。それがどうかしたのだろうか。
「早いのは何か問題が?」
「あ、いえ。今日迷宮に入ったばかりですよね? それなのに迷宮の最奥から入り口まで時間もかからずに移動していたので」
ああ、なるほど。普通は簡単に迷宮の構造を把握できないからな。でもわざわざ詳しく教える必要もないだろう。
「ちょっと便利な魔術があるので」
「そうですか」
向こうも深く聞こうとはしない。冒険者の技術はそれぞれの企業秘密だ。もしチームメンバーになるならその時に話せばいいし。
外に出る。さて、ギルドに報告しに行こう。そのあと二人と話し合いだ。
報告も終わり、ギルドの出張所内でそれぞれのチームが対面して話を始める。
「えっと、それで……アルツとそちらの……」
「カリンでいいわ」
こちらがどう呼べばいいか迷っていると向こうから言ってくる。敬称なしの名前呼びでいいと本人がいうのならそれでいいだろう。
「アルツとカリン、二人が話していたことは一体何なんだ?」
本題に入る。結局二人が話していたことはどういうことなのか、どう決着をつけるべきなのか。
「それについては私の方から話しますね」
「ああ、えっと……」
「メリーです。カリンと同じように名前だけでいいですよ」
「じゃあ、こちらもハルトでいいですよ。シェリーネは……」
「あ、わ、わたしも名前でいいです!」
まあ、そういう感じでみんなが敬称なしの名前で呼ぶことになったところで、本題の話を進めよう。
「結局どういうことで?」
「はい、それがですね……」
どうやらカリンがアルツに助けられた恩を返すべき、と考え深く考えずにアルツの手伝いをする、という話を始めたらしい。アルツはそれを断っていたわけだが、何故断るのか、自分は役に立つと言って断るのを受け入れなかったようだ。
メリーはそれに対してどう思っているのか。そもそもどうするつもりなのか尋ねたところ、別にそれ自体はそこまで気にしていないようだ。ただ、自分に話もせずいきなり別のチームの手伝いをするというのはどうなのか、と少し怒っていたが。もしカリンがいなくなるのであればチーム解散、メリーは一人になるということになる。それについてはどうなのか。そう聞くと、カリンをチームに加えるならば自分をチームに加えるのも問題ないでしょう、と言ってきた。つまりカリンとともにこちらのチームに加わる気でいるのだ。
「……それでいいのか? 多分メリーがチームリーダーだろう?」
「チームリーダーって意外と大変ですよね。だれかやってくれる人がいれば、ってよく思いました」
……依頼の受理の処理や報告、チームの使う道具の買い付けなど、色々なことをチームリーダーが決める。買い出しに行かせるにしても先に何を買うのかとかは決めておかなければならないし。あんまり見せることはないがやることはそこそこ多い。
「つまり、二人がこちらのチームに入る、ってことでいいのか?」
「はい。よろしくお願いします」
あっさりと肯定の答えを返される。それでいいのかとも思ったが、こちらとしてもチームメンバーが増えるのは悪いことではない。
「それじゃあ、これからよろしく」
あっさりと二人がチームに入ることが決まり話し合いが終わる。その日はそれで解散した。