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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
doll fantasica
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四回戦、戦闘エリアにいるのはお互いに人型のドールだ。相手は槍を持った男のドール。

二回戦と同じく人型を相手にするが、今回の相手はSランクの人型使いだ。

ただ、この人型使いがSランクになった当時は人型を使っていなかったらしい。だが人型を使い始めても戦績が大きく変わっていないことから相当に強敵であると思われる。

どんな戦い方をするのか、見た目や装備から推測しているところにメッセージが届く。


<こんにちは。お互いに人型を使うみたいですね>


同じ人型の使い手、しかも全国大会の上位に入ってくる相手ということで興味を持たれたらしい。


<そうですね>


どう相手をすればいいかわからないので簡素に返答する。これから戦う相手と人型について語るというのもできるわけではない。


<今回はお互いに相手の姿を見えるようにして戦いませんか?>


全国大会かではお互いが許可すれば相手の姿を確認できる。基本的に相手の姿を見ることができないのは電子空間での姿が多くの場合は現実と同じだからだ。

つまり負けてしまったから相手に現実で復讐する、みたいなことを防ぐためである。こういったゲームのことを現実に持ち出す手合いは今も減らない。

基本的に友人や連絡先を送ったような仲間内でならともかく、赤の他人相手に姿を見せるようなことは普通しない。


<すみませんが、そういうのはちょっと>


相手の要望を断る内容を送る。すぐにメッセージが返ってくる。


<そうですか。それは残念です>


もう一通。


<でもね、智弘君。先輩の言うことは聞くものだよ?>


思考が停止する。自分を智弘君と呼ぶ先輩なんて一人しかいない。

相手から姿が見えるようにする許可を求める通知が来た。すぐに許可する。

壁の一角がガラスのように透明化する。そこにはひらひらとこちらに向けて手を振っている朝井先輩がいた。


<やっほー>

<……先輩がまさかやってるとは思いませんでした>

<そう? でも、今までいろいろ相談に乗ってたじゃない。アドバイス、参考にならなかった?>

<いえ、確かに参考にはなりましたけど……>


まさか知っていた……どころかやっている上にSランクだとは想像外だ。

そもそも自分の相談内容がゲームとはいっていたがその具体的な内容は言ってなかったはずだ。


<なんでこれのことを相談しているのが分かったんですか?>

<再入荷の日の後から悩み始めてたから。あの当時はほかのゲーム発売日とはかぶってなかったし>


意外とゲームをやるのか、妙に詳しいようだ。それだけでわかるというのも変な感じがするが、事実は変わらない。


<ま、今回は智弘君のドールがどれくらい強いか見せてもらうね>

<……先輩は最初から人型使いではないですよね?>

<お、純正の人型使いじゃないからって甘く見るつもりかな?>

<評判は聞いてます。甘く見れる相手じゃないってことは知ってますよ>

<よろしい。こっちも本気で行くよー>

<はい。全力で行かせてもらいますよ>


知った相手だから緊張感が薄れる。だが透明になった壁の向こうに見える先輩の表情は普段とは違う。

それは笑顔だ。だが普段見せるような朗らかな、人当たりのいいものじゃない。

沸き立つような楽しさと獰猛さを表に出したような凶暴な笑顔だ。感じられる雰囲気で圧される。

絶対に油断できるような、甘く見ていいような相手じゃない。


「ユア、今回は油断できるような相手じゃない」

『わかっています。ここまで勝ち残ってきた相手ですから』

「魔力強化も基本全力で、短期決戦になるのも覚悟しよう」

『はい』








戦闘開始の合図が鳴る。それと同時にユアが全力で相手に跳ぶ。相手も跳んだ。

しかし、ユアと違い相手は後方へ跳んだ。そして槍を持った手を突き出す。

普通に持っていては槍は届かないはずだが、相手の持ち方は普通じゃなかった。相手は槍の一番後ろの端を持っていた。

その攻撃は普通に槍を持った攻撃程の威力は確実にないだろう。だがその穂先は突き刺されば大きなダメージは免れない。

咄嗟にユアが腕で防御し弾いて防いだ。だがその後の追撃をかけるのに一瞬躊躇し止まった。


「何だ今の…」

『危なかったです』


槍の長さが最初の時より長かった。しかしすぐ元の長さに伸縮した。魔力で形状を変える武器は珍しいが存在する。

場合によっては術式と合わせて扱う武器もある。

相手が普通に槍を持ち構える、跳躍してこちらに迫る。


『右から行くぜっ!』


相手の声が聞こえる。ドールの声は基本的にそのドールとその主しか聞くことはできないように設定されている。

それは自分のドールと主の会話が相手に聞こえると作戦がばれる、などの弊害があるからだ。

なので持ち主しか聞くことができないように設定するのだが、相手はその設定を外しているらしい。

ユアがその言葉に反応し右側の攻撃を防御しようとする。


「ユア、左だっ!」

『っ!?』


こちらの声に反応し右で防御しようとしていたのをやめ左で防御しようと行動した。

がんっ、と上手く防御できなかった腕甲に槍が当たる。

あの槍はどちらかというと穂先で刺突するよりも棒術のように持ち手の部分を使う戦術が主なのかもしれない。

防いだ部分が大きくへこんでいる。相当な攻撃力だ。

しかし相手のドールの声がこちらに聞こえるが、相手の言葉と行動が逆だった。

相手の声を聴き、それを信用してしまった。これは人型の利点である知性を利用した詐術だ。

もちろん一度聞いてしまえば相手を信用しなくなる。だが今度は逆にそれを利用して言葉通りに攻撃してくる可能性がある。

相手の声が聞こえるということが逆にこちらに戸惑いを生み出している。


「ユア、魔力変換で耳をふさげ。相手の言葉は聞くな」

『はい』


相手の言葉ではなく、体の動きを信用する。こちらに攻撃してくる攻撃手段まで大きく変わることはない。

相手が叫んでこちらに攻撃を仕掛けてくる。ユアがその動きを見て攻撃を逸らし、かわす。

攻撃に合わせたカウンターを仕掛ける。だがそれは突如攻撃の途上に現れた薄く光る半透明な壁に阻まれた。防壁の能力だ。

能力に攻撃を防がれたことを判断し、ユアが横へ跳躍する。ユアの体があったところに逸らされた槍の後ろ側での攻撃が通る。


「防壁は厄介だ。どのくらいだ?」

『かなり操作で集めないと壊せません…』


つまり相当な魔力強化の必要な硬さの防壁を張れるということだ。先ほどの対応から見てよほど隙をつかなければほとんどの攻撃を防がれるだろう。

伸びる槍……以前ユアが使ってを利用した手だが、似たような手法を試すことを思いつく。


「ユア、魔力操作で魔力を伸ばして変換で腕を作れるな?」

『自分の体を作る要領でやれば行けます』

「殴る勢いを乗せて相手の顔の前で生成してやれ」

『わかりました』


相手に軽く攻撃を仕掛ける。相手もその攻撃を防ぎ、逸らし、逆にこちらに攻撃してくる。

こちらもその攻撃を防ぎ、逸らす。お互いに相手の隙を探す。

そのうち見つけた僅かな間に合わせ拳での攻撃を行う。伸ばした魔力の先、相手の眼前で腕が作られる。

しかし、その攻撃をギリギリかわされる。頬の横すれすれだ。本当に咄嗟だったのか、相手の動きが硬直している。

次は恐らく無理だ。対処される。


「再変換! 炎!」

『っ!!』


こちらの言葉の意図をユアはどう取ったかわからない。咄嗟に攻撃しなければならない、今度は今の攻撃を使うことはできない。

自身もよくわからず考えが足りずに出た言葉だ。ユアも戸惑ったと思う。

再変換、一度魔力変換で変換した魔力を魔力に戻したうえで別のものへ変換する、できるかどうかはわからなかった。

腕が炎に変わる。ただ炎に変わるだけではそれほど効果的ではなかっただろう。

あまりに咄嗟だったからか、ユアのイメージの問題だったのか、生成された炎が揺らぎ爆発する。

相手は現れた熱量に回避行動に移っていたが、流石に近すぎたのと即応できなかったせいか、炎の爆発のダメージを追っていた。

こちらも炎の爆発で攻撃した腕に爆発のダメージを追ったが、頭部にダメージを負った向こうよりはましだ。相手は顔に火傷を負い、片目が見えそうにない。


『降参、降参だぁっ』


相手のドールが手を挙げて降参と叫ぶ。


「ユア、油断するな」

『……はい』


降参はルール上、ドールのマスターのみができることだ。ドールが自分から降参、と言っても降参できない。そもそも獣型はしゃべれないのだから、ドール側で降参を宣言できるルールがあるはずがない。

こちらが油断を見せなかったからか、ちっと舌打ちをしてそのまま槍を構え直す。

搦手は得意なようだが、流石に降参を宣言するという手を使うということはかなり追い詰められているということだ。

いや、油断はできない。そう見せるため、かもしれない。

ユアが攻撃を仕掛ける。それに合わせ、相手が槍を攻撃に合わせる。一瞬走った青い光。


「ユア、避けろ!」

『はい!』


こちらの言葉に即応しこちらの攻撃に合わせてきた槍の攻撃を回避する。その穂先には電撃が走っている。

やはりまだ能力を隠していたということだ。しかし電撃は厄介だ。攻撃を逸らすために防御することができない。

今度は相手から攻撃を仕掛けてくる。しかし片目を失っているせいか攻撃に精彩を欠いており、なんとか避けることはできている。


「相手の目を失った側から攻撃を仕掛けろ」

『はい、わかっています』


失った視界は死角だ。そちらへの攻撃はうまく届かず、そちらからの攻撃は完全には防げない。

もちろん相手も見えない場合そちらのほうにいるのが分かっているせいか、こちらも完全に攻撃することに踏み切れない。

攻撃を当てるには相手に大きな隙を作るしかない。


「ユア、腕甲は外せるか?」

『……変形したほうは無理ですが、もう片方は外せます』

「相手の死角に入ったときに外して思いっきり投げつける。何とか隙を作らないと膠着したままだ」

『わかりました、やってみます』


相手の死角に入り、同時ユアが腕甲を外す。相手の攻撃が当たらないように少し後ろにさがり、思いっきり相手に投げつけた。

流石に武器を投げることは想定していないはずだ。もちろんマスターがは見えるのでその行動内容を聞いているだろうが、見えない方向からの攻撃を防げるわけではない。

しかし、マスター側との連携がよかったのだろう。位置を正確に教えられたのか、投げつけた腕甲を防がれた。

流石にこれ以上手はない、と思った。だがユアはこちらが防御したことを認識する前にすでに行動していた。

腕甲についていき、攻撃を仕掛けていた。相手の咄嗟の防御でできた硬直、そこに全力の強化攻撃を仕掛けた。

攻撃は命中し、相手のドールは倒れた。










<ベスト4おめでとー>


軽い。先ほどまで激戦を繰り広げていたドールのマスターが送ってくるメッセージとは思えないほど軽い。

だがそういうところのある人だ。場面での方向性がはっきりしているタイプだ。


<ありがとうございます>

<流石に強かったね。楽しかったよ>

<こちらは正直大変でしたけど>

<ま、強いからね。でも、次は手加減抜きで戦いたいかな>


手加減。手加減されていたのか、と思った。嘘をつくような人ではない。そういえば、と先輩が相談してきた内容を思い出す。


<そういえばそんなこと言ってましたね。実力を制限していたと>

<まあね。でも、Aランク相当だよ。Bランクまでは下げてないから本当に対等ではないけどね>


ドールの拡張による強化。つまりドールの魔力量や術式に関してAランクの強さで戦っていたということだ。


<……手加減されていたのは残念です>

<そう? まあ、確かにそういうところはあるかもね。でも、もともとの強さに差がある状態で戦っても弱い者いじめみたいでつまらないじゃない>


なるほど。能力に差があれば差の分だけ有利なる。それを嫌ったということか。


<大丈夫、今度は手加減しないよ? ベスト8に入ってるんだから、大会後はランクが上がってるでしょ>

<そうですね。その時は本気でお願いします>


今回でもギリギリ運よく勝てたようなものだ。多くの手札を見せてしまっている以上次は厳しくなるだろう。


<次の戦い、がんばってね>

<はい、頑張ります>

<次は最強が相手だから>


最強。それはすなわち……


<前回の優勝者ですか?>

<そうだよ。がんばってねー>


Sランク最強、前回の全国大会の優勝者。それが次の相手らしい。

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