18
翌日、遠足や運動会の日の小学生のように早起きしたアルツに文字通りたたき起こされる。流石に少し頭に来たので、魔術で水を作りアルツの頭にぶっかけた。それで少し落ち着いたのはよかったが、考えなしに行動するものではない。水濡れにあった床やら服やらを乾かすのに手間がかかった。魔術を使えば楽だが、余計な消費になってしまった。
「朝から大変だった……」
「ハルトがやったんじゃないか」
確かにそうなのだが、アルツがもう少し落ち着きを持っていれば起きなかったことだ。どのみち、シェリーネが起きてこなければどうするかを決められないのだ。ちなみにアルツはシェリーネの寝ているところにも突っ込んでいこうとしたので流石に止めた。
シェリーネが起きてきたので、迷宮探索に参加するかを聞く。
「え、えっと、わたしは戦うことができませんけど、迷宮、一緒に行きたいです!」
ふむ、どうしようか。シェリーネがいいというのであれば連れていくのは問題ない。基本的には採取物があるかどうかの確認、荷物持ちみたいな形になるが、どうせなら多少安全な形で戦闘経験を積ませるのもいいだろう。ああ、でも武器がないな。じゃあやっぱり荷物持ちか。
多少の攻略をして、ある程度中を確認し安全性を高めてからのほうがいいと思ったが、どうせなら逃げられない閉鎖空間での仲間の護衛という経験を積むのもいいだろう。
「じゃあ、一緒に行くか。基本的に荷物を持ってもらうとか、迷宮内にある採取できる自然素材の確認なんかが主だと思う」
「はい! 頑張ります!」
「よし、迷宮行くぞー!!」
アルツはいつも通りだ。もう早い時間ではないが、まだ朝なのだから声量を控えめにしてほしい。何度言ってもそのうち戻るのだから困りものだ。
三人で迷宮の入り口まで向かう。昨日もここまできたが、今日はこの先に行くことになる。アルツが胸の前で手を握り、何やら感動した様子で震えている。なんだかんだでこちらも少しわくわくしている。迷宮探索というのは一種の浪漫があるものだ。
迷宮に入らずにいると、後ろに気配を感じる。軽く後ろに視線を向けると昨日も見かけた二人組の女性冒険者だ。
「……あんたたちもここの迷宮に入るつもり?」
「はい、そうですけど」
睨むようにこちらを見ている。迷宮の探索を進めている先行組の冒険者としては、後から冒険者が来るのは好ましくないだろう。
「ふーん。どうせ私たちが先に攻略するんだから、おとなしくしてたら? 行くよ、メリー!」
「あ、ちょっと!」
睨んできた女性が急ぐように迷宮に入っていく。メリーと呼ばれる女性がそのあとを追う。すれ違いざまに、ごめんなさい、と軽く謝られた。確かに多少態度が悪いところはあったが、そこまで珍しくもない冒険者のよくある態度だから気にするほどのことでもないのだが。
「なあ、俺たちも行こうぜ!」
シェリーネはちょっと、先ほどの女性の態度に少しびくびくとしているようだが、アルツはまったく気にしていないようだ。もしかしたら気付いてもないのかもしれない。
「ああ、そうだな。二人とも行こうか」
そう言って先に迷宮内に入る。二人も遅れて入ってきた。
迷宮内、魔窟なんかもだが、中は異空間になっている。そもそも、洞窟のような形態をとっているがその場所に穴をあけて作られたわけでないのだから当然だ。だから、目の前にある光景も通常では見られない、異質な状況だ。
「うわぁ……」
シェリーネがぽかんと口を開けて驚いている。目の前にあるのは清潔感を感じるほどに真っ白い壁、それも滑らかでデコボコなど全くないように見えるくらいにきれいな面をしている壁だ。
道の先に見える曲がり角、その壁の角の部分は直角のように見える。いや、恐らく直角だろう。迷宮は明らかに人の手で作られたように見えるものでも、人の手で作られた以上に、まるで機械のように正確に、精密に作られているらしい。この世界には神様が関与していることも多い。もしかしたら迷宮や魔窟もその一種なのかもしれない。
「魔物はどこにいる!?」
アルツがきょろきょろと周囲に視線を向けて魔物を探している。しかし、魔物はいない。まあ、先ほど人が入っていったのだから、こんな入り口にいる魔物なんて倒されているだろう。
「アルツ、突っ走るなよ?」
勝手にアルツが迷宮の先に突っ込んでいかないように注意をし、杖を抜く。
「敵か!?」
俺が杖を抜いたことに反応し、敵がいないかとアルツがさらに周囲を見回す。シェリーネもその反応に敵がいるかもしれないと、実を固めている。
「落ち着け。アルツ、迷宮に関して色々と知っているか?」
「知らない」
間髪入れずに返答が返ってくる。まあ、予測の範囲ではあるのだが、もうちょっと考えるとかしろよと思ってしまう。
「迷宮にもいろいろとタイプがあるらしい。普通の洞窟のようなケイブ型、広く地上のような空間の広がるフィールド型、網のように上下左右前後様々な道が繋がっているネット型、いろいろある」
「……えっと、ここは何型なんですか?」
意図的に例として挙げなかったのだが、シェリーネはここが俺の説明したタイプの迷宮でないことに気づいたようだ。
「ラビリンス型。迷路状の道と小部屋で構成されるタイプだよ」
ラビリンスはそのまま迷宮の意味なのだが。迷路ならメイズ型ではないのだろうか。
「ラビリンス型は小部屋以外で魔物が出現することはない。だから、まずは小部屋の場所を探ったほうがいい」
「よし、小部屋を探すぞ!」
「シェリーネ、止めてくれ」
「え、あ、はい!」
シェリーネが腕をつかんで引き留める。少し引きずられていったが、流石にシェリーネを引きずってこけさせるわけにいかないのかちゃんとアルツは止まってくれる。俺の時は止まってくれなかったんだけどなあ……
「闇雲に探すのも大変だろ。俺が魔術でぱぱっと迷宮内を探るから待ってろ」
「おう!」
杖を構え、呪文を唱える。前のゴブリンの巣を探した時と同じものだ。迷宮内でも問題なく使える、というよりはむしろこちらの方が空間的には狭いので外で広い範囲を探すのよりも必要魔力は少なくなる。探索情報も、魔物がいるのは小部屋だけなのだから地理情報だけでいい。問題は罠がある場合だが、それは対策を打っておこう。
「場所が分かった。罠の危険もあるから、それだけ対策して小部屋に向かうぞ」
「よし、行くぜ!」
ああ、だからアルツよ、お前が先行しても場所が分からないだろ!




