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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
god slayer
138/485

17

「いやあ、まさか君が冒険者になってるとはね」

「ええ、まあ……」

「そういえば家訓だったっけ? ビュートから聞いたことがあった気がするよ」


 馬車の中、フィンドルさんと話をする。フィンドルさん……フィンドル・リュジートイ。文政の貴族で、うちとは縁の深い貴族だ。

 基本的にこの世界……正確にはこの国だが、貴族の種別は大きく分けて二種の貴族に分かれる。武威と呼ばれる貴族と文政と呼ばれる貴族だ。基本的にこの二つの立ち位置ははっきりしていて、領地を管理する貴族が武威の貴族、王都や各地で国の政治に直接関与する貴族が文政の貴族だ。


「えっと……護衛、必要だったんですか?」

「はは、一応見かけは普通の馬車だからね。襲われたら困るだろう?」

「フィンドルさん強いじゃないですか」


 そもそも貴族は全員戦闘能力を鍛えられる。公式には貴族同士での争いというものはないが、裏では色々ある。自営できる程度に実力をつけていないと危険だ。特に武威の貴族は領地を管理するという都合上、領内の安全の確保、外からの攻撃への対処なんかもやる必要がある。相応に鍛える必要がある。


「まあ、確かに多少の相手ならどうにでもなるけどね。でも馬車が無事とは限らないだろう」

「……そういえば、何故普通の馬車で?」

「ちょっと隠れて行く場所があってね」


 いわゆるお忍び、というやつだ。多分仕事の関係で行くんだと思うが。


「ところで、娘には会ったかい? 確か君の家に向かったはずだけど」

「あー……多分、リフィとは入れ違いになったと思います」

「そうか……それはリフィも残念だっただろうね」

「一応、妹がいますから」

「フォルティーナちゃんか。でも、婚約者と会いたいと思うけどね」


 そう、婚約者。フィンドルさん達、リュジートイとマルジエートは家同士の付き合いだ。

 武威の貴族は領地を管理し、その地で大きな影響力を持つ。その代わり、国政に関与できない。逆に文政の貴族は国政に大きくかかわる立場だが、自分たちの治める土地を持たない。そういった各々の立場から、それぞれが家同士のつながりを持つようになったのだ。まあ、いわゆる政略結婚なのだが。


「そういうものですかね……」

「君もリフィのことは嫌いじゃないだろう?」

「はい」


 まあ、仲は良い。


「しかし、君が冒険者になっているということは、そろそろ領地を継ぐことになるのかい?」


 マルジエートの家訓、家を継ぐ長子が冒険者になる、逆に言えば、冒険者になるということは家を継ぐことになるということだ。


「まだ先の話ですよ。領地経営を学ぶ必要がありますから」


 一応冒険者を終えてから領地の管理に必要なことを教えられる。そのあたり、昔から続いている伝統的な感じだ。


「そうか。でもそれならリフィティアを行かせたのは悪くなかったかな」

「……何でですか?」

「いや、家を継ぐことになる以上、そろそろ結婚してもいいだろう? そうなると先に君の家になじんでおいた方が後が楽だからね」


 結婚。なんというか、そう言われるとどこか戸惑ってしまう。前世では経験がないし、年齢的に早い、という印象を抱いてしまう。こちらでは別に早いということもないが。


「そ、そうですね」

「動揺してるね。まあ、結婚なんていきなり言われても戸惑うかな。僕も妻と結婚するときは……」


 しばらくフィンドルさんの昔話、惚気話が続いた。込み入った話があるということでもう一つの馬車のほうにアルツとシェリーネを乗せたのだが、向こうはこの話を聞かなくていいと思うと羨ましいというか。









 結局道中で問題は起きなかった。護衛が必要だったのかは疑問だが、そういうのは結果論だろう。報酬をもらい、フィンドルさんと別れる。


「あー……疲れた」

「ハルト! 早くいくぞ!」


 アルツが元気よくこちらに叫ぶ。着いた場所から迷宮のある場所まではそこそこ遠い。護衛で移動した先が目的地ではないのだ。


「えっと、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ないよ。精神的に疲れただけだから」


 シェリーネが心配してくれる。まあ、別に体力的な疲労はそこまでではない。


「あ、アルツさん待ってー!」

「置いてくぞー!!」

「……元気だなあ」


 アルツが先行し、それをシェリーネが追いかける。流石にあれを追いかける気力はない。

 急がず歩き、目的地に着く。アルツはすでについていたが、どこに行けばいいのかわからないのでシェリーネと一緒に入り口で待っていたようだ。


「遅いぞ! さあ、迷宮に行くぞ!」

「落ち着け。その前に宿をとって、ここのギルドの出張所に行く必要がある」


 迷宮はギルドが管理している。勝手に入ると罰せられることもある。というか、今日は迷宮に入らないぞ。移動で結構な時間を使っているんだから。


「迷宮……」

「今日はもう遅いですし、明日行きましょう」


 シェリーネが慰めている。なんだかんだで関係性は悪くないようだ。まあ、ロマンスはなさそうだけど。

 その後、宿をとり、ギルドの出張所に向かい護衛依頼の終了の報告と、迷宮攻略依頼の確認をする。そのままいったん宿に帰ろうとしたが、アルツが迷宮に行きたい、と言ったので、入り口だけならいいと言ったらそれでもいいから迷宮に行きたい、とのことなので入り口に来た。


「ここが迷宮か……!!!」


 凄く楽しみにしている感じだが、今日は入らない。今にも突っ込んでいきそうなのでシェリーネと二人で腕をつかんで動けなくしている。


「うう……明日かあ」


 凄く気落ちしているが、絶対に行かせるわけにはいかない。一人で突っ込ませたら満足するまで帰らないだろう。


「ほら、今日は帰るぞ」

「迷宮……」


 中々足の動かないアルツに苦戦していると、迷宮から帰ってきた冒険者が見えた。女性冒険者の二人組だ。向こうもこちらに気づいたようで、むっとした顔をしている。

 先客あり。確実に先行して探索しているだろうから、攻略するのは厳しいかもな。

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