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新しい剣を入手し、シェリーネという新しい仲間が加わった。しかし、よくよく考えてみれば、まだ冒険者になって短い。今の自分たちには明らかに経験が足りていない。
そういうことなので、簡単な討伐依頼と採取依頼を受けることにした。最初は三人で行動していたが、どう考えても効率が悪い。次の日からは、採取依頼を二人で、討伐依頼を一人で、と人数を分担する形にした。なお、シェリーネは常に採取依頼の担当である。アルツは討伐依頼をやりたがったが、流石に討伐依頼ばかりというのも問題なので何とか言い聞かせ、採取依頼でシェリーネの護衛をさせることにした。なお、討伐と採取は一回ごとに入れ替わってやっている。
そうやってしばらくは近場の簡単な依頼を受け、過ごしていた。しかしそのうちアルツのフラストレーションが溜まり、もっとすごい討伐依頼を受けたいと言ってきた。流石にそろそろ橙の討伐依頼もいくらか受けようかと思っていたが、近場の討伐依頼では橙レベルの依頼はない。ちょっとアルツの望みをかなえるのは難しいかな、と思っていたところでいつもの受付さんに声を駆けられる。もしかしてこの人俺たちの担当になったんだろうか。
「橙か桃の依頼を受けてほしい?」
「はい、そうなんです……」
ギルド側からそういうことを言われるのは珍しい。というか、通常ギルド側が冒険者の受ける依頼に干渉してくることはない。どういうことだろう。
「なんでそんなことを?」
「えっと、その……」
何か言いづらそうにしている。深刻そうな表情ではない。どちらかというと、困っていると言った感じだ。
「……その、ギルド長がですね」
そう言って、受付さんが話し始めた。あまり長い話でもないが、要はギルド長が俺たちのランクを上げたいからランクを上げるために手っ取り早く上のランクの依頼を受けてほしい、ということらしい。
「なんでギルド長がそんなに俺たちのランクを上げたいと?」
「お二人の成績のせいですよ。二人でゴブリンの巣を潰し、牛呑みを二体撃破。しかも、状態と状況からわかりますけど各々が一体ずつ討伐ですよね?」
確かに一体は俺が、もう一体はほぼアルツの力で倒したが。
「どちらもランクで言えば、桃クラスです。ゴブリンの巣は一応橙相当らしいですけど、二人だけだと難易度は上がりますし」
「そういうのは言っていいので?」
「あ、ここだけの話ですよ? 絶対他の人には言わないでくださいね」
ちょっと迂闊すぎやしないか、この受付さん。
まあ、そういうことなので、難易度の高い依頼を受けなければならない。いや、強制されているわけじゃないのだが、ここまで話を聞いて無視して依頼をとれるほど俺は精神的に強くない。まあ、アルツのこともあるしどのみち難易度の高い依頼を受けなければならないだろう。
「しかし、どうするかな」
別に依頼を受けるのは良いが、問題はシェリーネだ。シェリーネの家はこの街にある。数日家に戻らなくても問題はない、とシェリーネは言っていたが、だからと言って数日かかるような討伐依頼に連れていくのはなかなか厳しいだろう。せめてもう少し実力をつけなければ難しい。
こちらとしても、シェリーネを守ることが必要になり、討伐に専念できなければ大変だ。採取依頼で色々と素材を教えてもらったりと世話になっているが、だからと言って討伐依頼に簡単に連れていけるわけではない
「何かいい依頼はないものか……っと、これは?」
依頼を探していると、報酬、ランク的にちょうどいい依頼があった。しかし、内容を読んでみると少々難しい問題のある依頼だ。
「迷宮攻略依頼かあ……でもそこそこ近い場所だな」
迷宮を攻略することが目的の依頼である。
迷宮は、魔窟の一種と思われているものだ。基本的に魔窟のように魔物の現れる場所なのだが、魔窟は本当に魔物が生まれてくる場所だが、迷宮は若干装いが違う。迷宮は外から来訪する存在を積極的に求めているかのような感じであるらしい。
よくファンタジー、ゲームなんかで見られるダンジョン。宝箱が設置されていたり、罠が存在したりするあれだ。中の状態があんな感じになっているのが迷宮である。
システム的には魔窟と一緒で、中心、最奥にある核を破壊するか切り離すことで機能しなくなりそのうち崩壊する。
迷宮攻略はいくらかの問題がある。まず、迷宮攻略はその依頼を受けたチームの中で、迷宮の核を奪うか壊して迷宮の機能を停止させたチームにのみ、報酬が渡されるのだ。つまり、それまでどれだけ頑張っていても最終的な攻略ができなければ水の泡だ。そして、途中、後から攻略するチームはどうしても先行チームを追い越して攻略するのは難しい。
迷宮攻略依頼、魔窟の攻略依頼なんかは早く攻略できる方がいいため、各ギルドに回されるのだが、迷宮が近い場所のギルドと遠い場所のギルドでは遠い場所に依頼が届くのはどうしても時間がかかる。そのギルドから迷宮の場所に行くのにもまた時間がかかり、どうしても遠い場所から遅れていくとなると、とても厳しいのだ。
「うーん……」
悩む。どうせならこの手の依頼を受けて経験を積みたい。あわよくば攻略して成績を上げたい。シェリーネも連れていけるだろう。迷宮の中にまで連れていくかどうかは中の難易度で判断すればいい。危ないなら宿に置いておいてもいいし。
「ハルト、依頼は!」
アルツが待つのに我慢できずに来てしまった。
「迷宮攻略? 面白そうだ、受けよう!」
ああ、もうこいつは……シェリーネもアルツの後ろにいる。ちょうどいいだろう。
「シェリーネ、迷宮攻略依頼を受けるが……いいか?」
「あ、はい。私は問題ないです」
まあ、シェリーネは基本的にこちらがしたいようにさせてくれるので、自分からああしたいこうしたいということはあまりない。殆ど戦闘能力がないので討伐依頼をしたくないというのはあるみたいだが。採取依頼でも魔物に襲われないわけはないのにどうして戦闘能力がないのか、聞いてみたところ香草などで魔物の嫌う匂いのある素材から魔物除けになるものを作ることができ、それを利用していたらしい。
さて、シェリーネもいいということなので、迷宮攻略の依頼を受けることになるのだが、少し遠出になる。足が欲しい。
「……迷宮探索依頼と、あと迷宮のある場所の近くへの護衛依頼も受けるからな」
「なんでだ?」
アルツが聞いてくる。
「自分の足で移動すると時間がかかる。馬車を借りるのもお金がかかる。定期便は三日は先。時間をかけすぎると攻略が厳しくなるからな」
護衛依頼、できれば今日出発に飛び入りがいいが、明日出るものでもいい。探すと、一つちょうどいいのが見つかった。その護衛依頼と迷宮攻略依頼を受け、明日の朝、早めにギルド前に来ることになった。
翌日。ギルド前に全員で集合する。もうギルド前には馬車が止まっており、護衛の依頼を出した人が来ているみたいだ。
「流石に向こうも早いな」
「まだ眠い……」
「アルツさん、眠気覚ましありますよ」
アルツにシェリーネが飴玉のようなものを渡している。噛んで使うようだが、言われた通り噛んで声にならない声をアルツがあげている。強烈なもののようだ。
「君たちが護衛してくれる冒険者かな?」
大きな馬車、その入り口が開き中から人が出てくる。
「はい、そうです。よろしくお願いし…………」
「…………ハルト君?」
中から出てきたのは、知り合いだった。
「…………お久しぶりです、フィンドルさん」
「久しぶりだね。とりあえず、話は後にしよう。そろそろ出発したいからね」
そう言ってフィンドルさんは馬車を出す準備を始める。こちらも、すぐに馬車に乗り、全員が乗って出発することとなった。